私は、ふだん、写真家として活動しています。
京都を中心に、歴史的建造物や、花木、お祭りなどを撮影して回っています。
京都府八幡市にある背割堤は、ソメイヨシノの桜並木が1.4kmも続く、それは美しい場所で、毎年のように撮影に出向いています。
私がはじめて背割堤の桜を見たのは、約10年前。
早めに到着して、夜明けを待ったことを覚えています。
桜の名所は沢山ありますが、朝日を受けて綺麗に光る桜は、案外、少ないのです。
特に、東山の麓にある桜には、朝日が差し込むことはありません。
背割堤は、開放的な形で、光を遮るものがほとんどないからこそ、いろんな光の入り方を写し込めるのです。
状況によって、逆光で美しい写真が撮れる場合も、難しい場合もありますが、桜はどちらかというと、前者です。
桜の花びらが薄く、光を通しやすいために、逆光条件でも、割と光が全体に回ります。
早朝撮影には、他にもメリットがあります。
まず、観光客の人たちが少ないので、人の写らない写真を撮影しやすい。というよりも、昼頃には何万人かの人たちが押し寄せますので、近寄ること自体大変なのですが。
一般の人達が写っていない写真は、雰囲気が変わります。絵として、美しいです。
観光の本やホームページにも写真を提供していますが、人の写り込んだ写真と、写っていない写真があれば、なるべく後者を使っています。
ただし、こんな風に、後ろ姿だけ、しかも「絵になる」と思えば、人がおられても、シャッターをきることがあります。
肖像権の問題もあり、一般の人を、顔がわかるような形で写真に入れ込むのは気を使う時代でもありますしね。
2019年の春。もう、3年前になりますか。
私は、このときも、桜咲く背割堤に向かっていました。
しかし、楽しみだけではなく、期待が半分、心配が半分という気持ちで。
前年の秋9月にやってきた大型台風21号は、京都にも大きな被害を与えて去りました。
有名な社寺の建造物なども被害が報告される中、桜や楓などの樹木にも打撃は及んでいました。
背割堤の桜も、そのひとつだったのです。
そもそも、背割堤とは。
正式名称、淀川河川公園背割堤地区。
鴨川、桂川、木津川が合流して淀川となる地点にある細長い堤防です。
かつては、松並木だったそうです。
しかし、寄生虫(マツクイムシ)によって被害を受け、並木は壊滅してしまいます。
その後、昭和53年、有志の人達によって、ソメイヨシノが植樹されます。
以来、40年以上、桜並木は見事に育ちました。
毎年春には、背割堤さくらまつりが開催され、10万人以上の人が押し寄せて、賑わうほどになっていたのです。
土手の上を歩けば、こんな風に桜のトンネルをくぐり抜けることが出来ます。
堤防の左右にある遊歩道を歩けば、並木の全体像がつかめます。
2018年9月の台風のあと、背割堤の桜についても被害が報じられ、すぐに様子を見に行きましたが、そのときは、倒木や枝折れがひどく、一般立入禁止の措置が取られており、堤の上を歩いて確かめる事もできませんでした。
管理者の修復もあって、立ち入りこそ出来るようになったのですが、折れた桜はすぐには回復しません。
翌年の春、桜の時期には、どんな景観が見られるのか。
どのように写真に収めるべきか。
そんなことを考えながら背割堤に向かいました。
行ってみれば、桜は、痛みながらも咲いていました。
その場に立ちながら、現在の風景と、記憶の中の風景を照らし合わせていました。
何が違っているのか。
その違いは、美しさにつながるのか、それとも損なうのか。
以前と同じような構図で撮影するべきなのか、それとも、しないのか。
撮影しながら、考えました。
そして結論を出しました。
枝が折れ、木が倒れることで、桜並木の密度が下がっている。
以前は、桜の木が、空が見えないほど密集していたが、隙間があいている。
これまでと同じ構図を選択すると、変化がはっきりわかる。
したがって、撮影の仕方を変え、比較的元気な木のある場所、隙間の少ない場所を探し、また、木々が集まって見えるような撮影の手法を使って(写真の用語ですが、「望遠レンズで『圧縮』させる」といいます)写真を撮ろうと決めました。
これは、その時の写真です。
あれから3年になります。
背割堤の桜も、京都各地の桜も、少しずつ樹勢を回復させてきていると思います。
今後の変化に注目したいと思います。
ソメイヨシノは少し特殊な桜です。
人為的に生み出された品種で、自力では繁殖できません。
また、病気などへの抵抗力が、他の桜に比べて弱く、寿命も比較的短いとされています。
したがって、かなりこまめな手入れが必要です。
それでも、環境がよければ、100年程度の寿命を保つ例もあるそうです。
これからも、なるべく長く、元気な姿を見たいと思います。
私も、背割の桜のいちファンとして、これからも、桜の朝を撮り続けられますように。
八幡市公式ホームページ