白から桃色に変わる!?北野天満宮の北野桜

北野天満宮の桜

北野天満宮の春の花というと梅の花が有名です。それは菅原道真公の大宰府への配流される折に自宅で詠まれた、「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花 あるじなしとて春を忘るな」があるからです。しかし同時に道真公は桜の花にも心を寄せられ、「桜花ぬしをわすれぬものならば 吹きこむ風にことづてはせよ」とも詠まれています。北野天満宮の現在の駐車場付近は、嵯峨天皇の御代に開かれた北野右近の馬場であり、乗馬を好まれた道真公のお好きな場所でした。またこの辺り一帯は、桜狩が行われたほどの桜の名所でもありました。
今も境内にはヤマザクラや枝垂れザクラが咲き、社務所前では樹齢130年のご神木の北野桜が、その花弁の色を白からやがて桃色に変えてきます。この北野桜はヤマザクラよりも標高の高い山野に分布するカスミザクラで、サクラの野生種の一つです。開花は桜の中では遅めで、関西では4月中旬から下旬に見ごろになり、ヤマザクラよりも遅く咲くので見分けられます。この花は咲き始めには白色ですが、咲き進むにつれて桃色に花弁の色が変わることが100年以上前に偶然に発見され、珍しい桜として北野天満宮に奉納されたようです。

色が変わる新品種・北野桜

2016年に北野天満宮の依頼で住友林業が調査したところ、従来のカスミサクラとは異なる遺伝子を持つ新品種であることが確認され、北野桜と命名されています。実は北野桜に限らずどの桜でも、先に紹介した御衣黄や鬱金(1)では例外ですが、たいていの品種では散りはじめには赤みが濃くなってきます。北野桜ではこの傾向が特に顕著であり、これほど桃色が濃くなる品種は珍しいようです。
サクラの花が散り際になると、花の生殖器官としても役目は終わりとなり、老化の段階に入ります。老化現象の一種としてアントシアニン合成が始まりますが、先にケヤキの紅葉の例について紹介(2)しています。アントシアニンが合成されるのに伴い、北野桜では花弁色は赤味を増してきて桃色に変わるのだと思われます。

北野桜の葉

社務所前のご神木の北野桜の全景です。花弁は長さ12~19mmで広倒卵形~広楕円形の、比較的小さな花です。殆どの人は桜の花に気づかずに、通り過ぎることが多いようです。

普通の桜では、花は葉を見ず葉は花を見ずで「葉見ず花見ず」と言われるように、まず花が出てきて咲き終わった頃に、葉が萌芽してきます。しかしこの北野桜では、花と葉の新芽も同時に出てきますので、花の間に葉がかなり混在しています。葉の色も薄いものから濃い緑色のものまであります。花も白い花から、桃色の花まであります。

青空を背景に桜の花を撮ると、若い白色の花も咲き進んだ桃色の花も色鮮やかです。

比較的下から出ているこの枝では、白い若い花と桃色の咲き進んだ色の花とが、それぞれにかたまって咲いているようです。桜の花の白色と桃色、葉の緑色とそれに空のブルーのコントラストが色鮮やかに見えます。

 

北野桜の花

桜の花だけを拡大してみました。先端部には白色の若い花が集まり、5枚の花弁をいっぱいに広げています。若い花より下の部位で早く咲いた花は桃色になり、花弁はやや閉じかけています。その花弁では基部ほど、桃色が濃くなっています。花弁の下のガク筒と小花柄(花を着けている茎部)の先端も、桃色~赤色に色づいています。

北野桜では写真のように、枝ごとに白色の花と桃色の花と緑葉が散在して咲いています。そのため、普通の桜とはまた違った非常にカラフルな趣が感じられます。

少し花を大きく観察するために、近寄って写真を撮りました。左下には白色の若い花があり、その上側ではより咲き進んだ基部が桃色に変わった花があり、右下側には更により咲き進んで花弁全体に桃色部分の多くなった花が見られます。

これは先程の写真より、やや若い花が多いようです。中央部に白色の若い花が幾つか開花しており、その周りには咲き進んで花弁が閉じかけると共に、桃色に変色した花が見られます。先端に咲いた花は花弁が開くようになっても、余り花弁が桃色に変わっていないのも見られます。

ここでは中央部に白色の花が3つあり、その周囲ではほぼ咲き終わった花があります。それらではどの花でも花弁の桃色が濃くなり、ガク筒と小花柄の先端部も濃い桃色~赤色に変わっています。

ここでは右側には白い花がかたまり、花弁はよく開いています。その左側の基部では咲き進んで花弁が濃い桃色になった花が幾つか見られ、そのうち幾つかは花弁も落ちて、雄しべ・雌しべと赤いガク筒だけになっています。 左上の2つの花では雄しべも雌しべも「まだ役目は終わっていないよ」とばかりに、元気に突き出ています。

ここには幾つかの桃色になった老花が見られ、花弁はかなり閉じてきています。右側の4つの花では花弁が落花してしまい、雄しべ・雌しべの周りの桃色~赤色のガク片が四方に開いています。それらの小花柄の先端部も赤色に色づいています。

中央部には真白の若い花が開花しています。白い花の上側には、閉じかけた桃色に色づいた花が5個見られます。

下側には白色の5枚の花弁を開いた若い花が2個あり、それぞれの中心部には雌しべの周りに40本ほどの雄しべが認められました。少し分かり難いですが、先端が黄緑色で丸い雌しべが1本あり、その周りで先端に黄色の小さい葯を着けた雄しべが40本ほどあります。

開花した4月17日の約1か月後の5月20日には、赤い実が幾つか着いていました。熟して濃紫色になれば、食べられないことはないですが渋いようです。

参考資料
(1) 遅咲き桜、京の春風に舞う。 | Kyoto love Kyoto. 伝えたい京都、知りたい京都。
(2) ・今年も府立植物園入口のクヤキ並木の紅葉が進み、比叡山も紅葉で覆われていました: プロフ・ユキのブログ (cocolog-nifty.com) 
よかったらシェアしてね!

この記事を書いたライター

 
生年月日:1945年(昭和20年)1月5日

現職
京都府立大学 名誉教授、タキイ財団 理事、NPO 京の農・園芸福祉研究会 理事長、(一財)京都園芸倶楽部 会長

主な経歴 
1969年 京都大学大学院農学研究科修士課程修了、香川大学・京都府立大学教授を歴任
1982年 京都大学農学博士
1984年 園芸学会賞奨励賞
2008年 京都府立大学農学部定年退官・名誉教授
1985~1986年 ケニア・ジョモケニヤッタ農工大学へ出張(国際協力機構) 
1993~1994年 英国ロンドン大学を中心に欧米7カ国 へ出張(文部省長期在外派遣)
1997年 デンマーク植物と土壌科学研究所へ出張(学術振興会派遣研究員)
この間に欧米、アジアなど約30カ国での国際シンポジウムに参加すると共に、留学生10名に学位論文の指導を行う

主な著書  
Q&A 絵で見る野菜の育ち方、農文協、2005
野菜の発育と栽培、農文協、2006
ブロッコリーとカリフラワーの絵本、農文協、2007
ブロッコリーの生理生態と生産事例、誠文堂新光社、2010
ブロッコリーとカリフラワーの作業便利帳、農文協、2010
はじめてのイタリア野菜、農文協、2015
「おいしい彩り野菜のつくりかた」(監修) 農文協、2018

|京都府立大学 名誉教授|京野菜/伝統野菜