茶室は、茶の湯を執り行うことに特化した特殊な建築物です。そして「わび茶」により「書院造の茶室」から「草庵の茶室」に好みが移ります。
さしあたって言い換えると、ドームやアリーナの豪華さよりも、小さなライブハウスの臨場感がたまらない、といったような事でしょうか?
素朴な建築材
書院造では角材に漆を施した木材が柱や框に使われますが、草庵の茶室では北山杉や赤松など、自然のままの皮付きの丸太が好まれました。更に木よりも柔らかである竹(竹はイネ科ですからネ。もちろん銘竹屋のアイテム!)や、水辺に生えるヨシ・ガマ(これもなんと、銘竹屋のアイテム!)等が随所に使われ、建築材はより素朴な素材へ、より草に近い植物へと引き寄せられていきます。
茶室を見慣れた方でも、竹を視点に見ると「あっ、それも竹!」と思われる程、各所で使われているものなのです。
掛込天井
客は【躙口(にじりぐち)】という70㎝角程の小さな木戸を開け、かがみ込みながら茶室に入ります。ライブハウスで例えると「入口」ですね、そのまんまですが。
中に入って見上げると、茶室の天井には様々な形式がある事が判ります。
まずは【掛込(かけこみ)天井】という形式。四畳半以下の小間の茶室でよくみられ、斜めに勾配があり屋根裏を模した意匠をしています。掛込天井は勾配に沿った方向に【垂木(たるき)】という直径4~5㎝の「芽付竹」が45㎝間隔で数本並び、垂木同志の間に【間垂木(まだるき・あいだるき)】という1.2~1.5㎝の細い「女竹」もしくは「矢竹」が入ります。その上の段には【小舞(こまい)】という垂木と交差する「女竹or矢竹」が2本1組、つまりニコイチで間隔を開けながら並びます。
平天井
また、別の形式である【平(ひら)天井】には、黒部ヘギや赤杉の天井板を押さえる為のニコイチ「女竹or矢竹」か、スタンドアロン「白竹」の【竿縁】。
掛込天井や平天井は、ライブハウスでは「客席の天井」といったところでしょうか。
手前座の天井
亭主の位置である手前座の天井は【落(おち)天井】になっている場合があります。「葦(ヨシ)」や「蒲(ガマ)の葉」、「蒲芯」、「真菰」といった草系を糸で編んだり、糸を通したりして、1枚の簾のようなものが天井板代わりになります。その天井にも、これまた、「女竹or矢竹」ニコイチか「白竹」スタンドアロンの【竿縁(さおぶち)】。簾天井の四方または三方には「白竹」の【廻縁(まわりぶち)】を使うという意匠もあります。
草に近い材料を使い、客座に比べて天井の高さを低くしてあるのは、亭主の謙虚さの表れです。
ライブハウスで例えると「ステージの天井」ですね。
茶室の壁面
壁面に目をやると、また竹が。【方立(ほたて)】という障子の開閉のストッパーのようなものは「白竹」や「煤竹」。天井から降りてくる小壁の見切りとなる【落掛(おとしかけ)】には、木の場合もあれば、「白竹」「煤竹」あるいは「錆竹」を使ったりもします。
手前座に二重の小さな隅棚がある場合、2枚の木の板を支える【吊竹(つりたけ)】には、10㎜程の細い1本の「白竹」を使います。
茶室の窓
窓の形式も茶室の特徴です。利休が考案したのが【下地窓(したじまど)】。土壁は、割った竹を格子状に組んだ下地に土が塗られているのですが、利休は採光の為、その壁の一部を開口しました。これが下地窓の原型となり、そして多くの茶室で見られるのは「皮付きヨシ」や「割竹」を格子に組む事で、土壁の下地を模した意匠をしています。また下地窓の外側には「ヨシ簾」が掛けられます。
別の形式の【連子窓(れんじまど)】は、2㎝程の「白竹」を等間隔に打ち付けたもの。立ち並ぶ竹のシルエットが障子の外側に映ります。
下地窓の外側には、4㎝程の「芽付竹」の【力竹(ちからだけ)】の柱が立っています。壁を開口したことに拠る弱さを補う役目をします。が、実際には力は掛からないのでダミーではあるのですが。
バックステージ・水屋
茶室の裏手には水屋という、茶事の準備をしたり、使った道具を洗ったりする場所があります。ライブハウスで例えると「バックステージ」です。 奥行50~60㎝程の所に、何段かの棚板が設けられています。水を流す【すのこ】には「白竹」を敷き並べ、洗った茶碗を乾かす【茶碗棚(ちゃわんだな)】には、板と板の間に「女竹」や「寒竹」を挟み込みみます。どちらも竹が節同士でぶつかる隙間から水が滴る仕組みです。
茶室のメイン・床
そして、茶室のメインともいえる【床(とこ)】。その日のテーマとなる掛け軸や花を飾る場所が「床」であり、亭主が客をもてなす気持ちが詰まっている場所なのです。
床の中の奥の上の壁をのぞき込むと、竹を削って作った小さな棒が突き刺さっています。軸を掛ける為の「竹釘」です。「こんな人目のない所で、大切な仕事をしていたのかぁ~」と、竹を褒めてあげたくなります。
ライブで例えると「音響さん」。見えない所での巧みなPAがあってこそ、拙い演奏も音楽になります。
さて、「茶室と竹」は次回にも続きます。