2023年9月17日、京都の老舗扇子店 大西常商店に様々なタイプの京都人が集結し「第1回いけず座談会」が開催されました。京都人たちが「いけず」について研鑽を重ねるこの会、何のために行われているのでしょうか?
Kyoto Love. Kyoto編集部が潜入しましたので、秀逸ないけずやエピソードトークをご紹介いたします!
第1回いけず座談会メンバー
こんなメンバーで話し合いました。
※名前の後ろはXアカウントです。
■美術館PR
中島真帆さん 福田美術館・嵯峨嵐山文華館のPRマネージャー
■老舗扇子屋
大西里枝さん(@RieOhnishi) 京扇子 大西常商店の若女将
■京都インフルエンサー
みえっぱりな京都人botさん(@Kyoutojin_bot)Twitterで人気のインフルエンサー
■工芸品プロデューサー
三谷靖代さん(@okininoutsuwa)工芸品プロデューサーや食空間コーディネーター、郭巨山PR
■清水焼卸業
三谷幸史さん 清水焼団地で京焼き・清水焼きを中心とした陶磁器の卸売業
■小説家
仲町六絵さん(@karakusashuzai)京都を舞台にした小説を執筆する小説家
■歴史教師&四条傘鉾お囃子
ふたござのまろさん(@hutagozanomaro) 四条傘鉾保存会、大学院生かつ高校の社会教師
■印刷会社社長
山下昌毅さん 二条駅の近くの印刷会社「修美社」社長
■α-STATION
Gutsさん アルファステーションの制作、ディレクションを担当
■WEBメディア
吉川哲史さん Kyoto Love. Kyoto編集部副編集長、「西陣がわかれば日本がわかる」著者
■ない株式会社・代表
岡シャニカマさん(@SHANIKAMA_hrkt)いけず座談会を発起した大阪人
■CHAHANG・代表
かのうしゃちょうさん(@KANOUKUNNAD)京都のデザイン事務所を運営、同じくいけず座談会の主催者、本籍は京都
いけず座談会スタート
岡「今回いけず座談会を主催させていただいた岡と申します。私は京都の文化である『いけず』をお土産にして『観光資源』にするためのプロジェクトを進行中です。この会では『京都産のいけず』を作るために、皆様には生産者としてお集まりいただきました。
本会は以下の原則に従って実施いたします。
● 参加者の中に「いけず」な人はいません。
● コンテンツのためにあえて「いけず」を言うだけで個人的な意図はありません。」
岡「それでは、一番有名なところで『ぶぶ漬けどうどす?』などのいけずがありますね。相手の家などで長話をしていると『ぶぶ漬け、どうどすか?』って言われて、そろそろ帰ってくださいねという意味だったりとか。『綺麗なネクタイしてはるなあ』が派手なネクタイしてあんた何考えてんのという意味、『元気なお子さんやなあ』っていうのは静かにせんかい!という意味、などが有名ですね。
いけずは一見、丁寧な言葉なのでポジティブな内容なのかなと思ったら、裏の意味としてすごくネガティブなドスの効いた内容が隠されています。ご参加の皆さんは普段言われないんでご存じないかなと思うのですけれど、これが「いけず」でございます。ぜひ皆さん思う存分、普段の自分ではない自分でいけずを言っていただければなと思っております。」
トイレのいけず
岡「まずトイレ編です。いけずの有効な使い方って言いにくいことを言えるっていうか、ちょっとしづらいお願いができるっていうところなんですね。例えば男性の方に「立っておしっこしないでください」と伝える時、いけずな言い方ないでしょうか?。」
仲町「遠慮せんとおいどをしっかり据えておくれやす。」
―おいどは京言葉でお尻ですよね。大変はんなりして綺麗な言葉ですね。
吉川「そういえば子ども時代に近所のお宅を邪魔した時、『お手洗い貸してください』と言ったら、『お宅トイレあらしまへんのか?』って言われたんですよ。家帰ってやれってことなんでしょうね。」
―怖っ!かなりダイレクトですね。
中島「小さくて座りづらいかもしれませんけど・・・」
岡「おお…!座ってくださいと直接言わず、座る前提でへりくだってる感じがいいですね!」
岡「このトイレットペーパーを使いすぎないでくださいという場合はどうでしょう。」
中島「資源を大切に。」
吉川「最近は紙代も高なりましたからな~。」
―いいですね。このように全然関係ない話を急にしだすといういけず構文はありますね。
大西「上手いいけずってなかなかハードルが高いというか、京都人が言われたな!って思うやつと、一般の方がなるほどな~って思うのとちょっとギャップがあるのかなって気がしています。」
岡「あー、野生のいけずは毒が後で回ってくるんですね。」
大西「そうそう!毒が回るww」
bot「わかります。Xに載せる時も野生だとしんどいんで調理して加工して、これは京都どころか関西の言葉ですらないけど、ここは標準語に直した方がいいみたいな。」
大西「ある種パッケージ化してちゃんと出さないと分かりづらいですからね。」
玄関のいけず
岡「玄関でも言いづらいお願いってありますよね。スリッパ履いてねとか、脱いだら靴揃えてね、など。最近だと『体調悪いなら帰ってください』とか言いづらいと思うんですが、いけずな言い方ありませんか?。」
bot「いけずのつもりはないんですけど・・・『体調悪いのに来てくれただけで嬉しいです。』」
大西「言います!『来てくださっただけで嬉しいです。ありがとうございます・・・帰れよ!』みたいな。」
―「個人の見解ではないですね。」
大西「個人の見解ではありません。」
まろ「うちは京町家の普通の家なんですけど、インバウンドの方が多くなったので、宿と間違って前でたむろしてはるんですよ。そしたら夏場にうちの祖母が出てきて『いや、暑いでっしゃろ~、暑いな~。』って言って打ち水しながら追い払っていました。」
―四季に合わせたいけず、暑さも人も払えそうですね。
山下「忙しい時に勝手に入ってきた方に早く帰ってほしいなと思うときありますよね。」
大西「めっちゃある。」
山下「言葉でいうんじゃなくて、座らないとかで表現したりしますね。」
―暇じゃないですよみたいなことをなんとか遠回しに言いたいですね。
大西「バタバタしててすみません。本当にすみません。来てもらったのに申し訳ないです。」
岡「ぼく、大西さんに一回言われたような…?」
大西「言ってませんよ!」
岡「それでは次に、靴の泥が汚い時のいけずはありますか?」
中島「○○さん、いつもワイルドで・・・」
bot「天気悪かったです?もう雨やみました?」
―天気悪いの見た分かるやんっていうのに聞いてくる感じですね。
中島「タケノコでも掘ってきはったんですか?」
bot「↑それ、春より夏に言ったほうがより効きますね。」
大西「琵琶湖でも行ってはったん?」
岡「琵琶湖!笑 滋賀県を若干くさすようなニュアンスも京都らしくて最高です。」
岡「これは言いづらいだろうと思ったんですけど、手土産持ってきてくださいってどう言いますか。」
bot「どちらからお越しですか。」「山梨ですか?この時期はぶどう美味しいですよね?」
まろ「急いで来はったん?」
―買う時間も無かったんやねということですね。
吉川「手ぶらでよろしいな。」
―怖っ!!いっぺん帰らないといけませんね。
仲町「お荷物すっきりしてはりますな。」
―品があってとても良いですね。
食卓のいけず
岡「京都人の方とご飯を食べたときに言われて気になったこととかありますか?」
仲町「食事ではなくてお茶なんですけど、19歳の時に京都のうつわ屋さんでものすごく薄い煎茶碗を見つけたんです。『こんなに薄かったらやけどしませんか?』って言ったら、そこの女主人がひたっと寄ってきて『あんたまだ若いから教えてあげるけどな、お茶ってほんまはぬるくして飲むんやで。』と言われました。」
―京都人としては最大限の優しさやったんでしょうね。
岡「例えばお客さんが食事を残してきた時ってどうしますか。」
吉川「なんか食べてきはったんですか?」
bot「遠慮せんでよろしいのに~」
―遠慮してないのは分かってますからね。怖いです。
岡「他にお友達が来たりとかして、くちゃくちゃ食べて不快な時はどうしますか? 結構言いにくいですよね。」
大西「難しいな・・・指摘することないですもんね。」
bot「横の人を褒めます。塾講師してる時によくやってたんですけど、授業中に暴れてる子がいたんですね。横の子はすごい真面目にやってるから、『ほんま真面目に聞くし、静かに集中してすごいなぁ~』って言ったら周りが静かになるんです。」
―年季入ってますね!
中島「確かに! 横にいる子とか他の人を持ってきますね。『○○さんが食べるとき、全然音しないんですよ!』とか。」
まろ「食べるときも元気やな~」
―なんか、それ他のこともディスられてますね。気づかない人も、それなりにいそうで素晴らしいですね。
吉川「そばはずるずる食べてもよろしいらしいですね。」
岡「おお…これは高度!マナーの豆知識を話しているように見えて、実はいけずになっているんですね。」
Guts「相手に考えさせることの方が、京都的におしゃれなんじゃないかなと思いますね。あんまりどきついことをするより、ちょっとおしゃれにしたいっていう気持ちがあるじゃないですか。その辺ちょっと一歩置くのがいけずとして良さそうな気がしますよね。」
その他のいけず
岡「タバコ吸わないでくださいも表現したいですね。」
仲町「さっきのうつわ屋の女主人さんの話なんですが、何度目かの時に青磁のかわいい灰皿がテーブルに置いてあったので、タバコ吸っていいですかって聞いたんですね。当時流行ってたメンソールのものです。吸い始めたらそこの女主人が『あ~ええ香りやわ。私タバコの香り好きやねん、吸わせてや~。』って言われたのですぐ止めました。」
―怖いですね。それは吸わない方が良さそうです。
仲町「それのおかげか、結局全然タバコ吸わない大人になりました!」
―いけずには禁煙効果もあるんですね!
岡「最後に、営業のチラシ入れないでください。すごいニッチなんですけど、営業マンがチラシを入れづらくなるいけずないですか。」
中島「これ以上入らへんみたいやなあ、狭いポストですいません。」
岡「狭いポストっていう言い回しが素晴らしい!へりくだっているように見えて、違和感もしっかり出しつつ、裏の意味に結びつく。至高のいけずですね!」
いけずステッカー
いけず座談会の様子の一部をお送りしましたがいかがでしたでしょうか?実は、いけず座談会が行われたのはとあるいけずグッズを製作するためだったそうなんです。その名も「いけずステッカー」!!
● 商品名 裏がある京都人のいけずステッカー
● 発売日 2023年11月3日(文化の日)
● 本体サイズ H100mm×W148mm×D1mm
● 種類 全4種(トイレ編、玄関編、食卓編、ポスト編)
表は丁寧で気品がある京都人の様子です。大西常商店 若女将の大西里枝さんの笑顔と着物姿が美しいです。
!!!!?
般若のような顔、あの美人にこんな表情が存在するということが信じられません。セリフも表側と全く異なります。これが京都人の裏側ということなのでしょうか?人間不信になりそうです。
ない株式会社のプレスリリース(2023年11月3日 11時00分)京都の「いけず文化」をお土産に「裏がある京都人のいけずステッカー」販売開始
おわりに
今回のいけず座談会を経て、「いけず」は意外と考えるのも大変で、京都人は頭脳をフル回転して、相手が直接的に傷つかないいけずを考えているということがわかりました。京都人なりの優しさやマナーなんですね。
ぜひ、いけずステッカーを生活に取り入れて京都の気分を味わってみてください!