つながれ未来へ!伝統のものづくりを学ぶ 京都伝統工芸大学校 後編 「京都で伝活!~私たち伝統産業を愛する活動はじめました~」

これまで前編、中編と渡って紹介してきた京都伝統工芸大学校(以下TASKと表記)。

在学期間中のほとんどを実習に費やし、3つのコース、10種の専攻合わせて330人(2025年10月現在)の在校生は、工芸界の第一線で現役バリバリに活躍されている先生から直接指導を受けて学ばれています。先生の中には重要無形文化財保持者(人間国宝)や現代の名工など技を極めた匠もいらっしゃいます。

TASKで4年間学ぶと文部科学省が認可した「高度専門士」の称号が得られます。これは大学の学士と同等と認められ、大学院への進学も可能となります。教員資格を取得するため更に進学される方もあると伺いました。

また、2012年に開校したグループ校「京都美術工芸大学工芸学科」に3年生より編入も可能ということで、技術が身についた上、希望者は大学卒業資格が得られる仕組みにもなっています。

木彫刻実習の様子
(写真提供:京都伝統工芸大学校)

様々な作品発表の場

清水寺経堂での作品展

世界中からたくさんの人が訪れる清水寺にて、毎年ゴールデンウィークに開催される作品展には、その前年度に制作され卒業、修了制作展で発表されたものから選ばれた作品が展示されます。海外のお客様が熱心に見られていたのが印象的でした。

経堂の空間を存分に使っての展示は、世界に伝統工芸を伝える最大の機会とあって、重要な取り組みのひとつと考えられています。

清水寺経堂での展示
(写真提供:京都伝統工芸大学校)

松葉祭

10月最終土日に開催される「松葉祭」。私も毎年行くのを楽しみにしているTASKの学園祭です。学生が授業で学ばれている作品がずらりと展示されています。彫刻の彫り跡、蒔絵の筆遣い、陶芸の絵付…それに構図や配色など切磋琢磨されている様子がうかがえます。

展示の仕方も専攻ごとにカラーがありそれも見どころ。実際の制作に使う材料や道具の展示もされていて、とても勉強になります。

また、専攻ごとに販売コーナーもあります。日常で使えるものはもちろん、ユニークでくすっと笑えるデザインのものもあり、楽しくなります。

松葉祭での展示
(於:京都伝統工芸大学校)

卒業、修了制作展

三条烏丸にあるTASKの施設「京都伝統工芸館」。こちらでは常設展を始め、工芸にまつわる企画展が開催されてします。また、竹工芸や仏像彫刻など制作実演をされていて、間近に作業の様子を見ることができます。高校生を対象にした工芸コンクール「美術工芸甲子園」の展示もここで開催されています。

2007年には皇太子殿下(今上陛下)がご行啓(ぎょうけい)、2011年にはブータン王国の国王陛下ご夫妻がご訪問されています。またショップではTASK卒業生の作品が販売されていて、お買物ができます。

毎年2月には卒業、修了を迎える学生による渾身の作品展示会が開催されます。館内すべてを使っての展示会はとても見応えがあり、在学期間でここまでのクオリティの作品が作れるようになるんだ!と毎年驚きます。

 毎年2月に開催される卒業、修了制作展
(於:京都伝統工芸館)

その他、京都国際マンガ・アニメフェアや京都市動物園、そしてイタリアなど海外での展示など国内外の各所で発表され、多くの方の目に触れる機会を設けておられます。

産官学連携TSUNAGUプロジェクト

TASKでは学んできたことを実践できる、企業や行政とコラボしたプロジェクトにも取り組んでおられます。

今や年末の風物詩となった、清水寺の舞台でその年の世相を反映した漢字一文字の発表。清水寺貫主が揮毫されるあの和紙は、TASKの和紙工芸専攻の学生が手漉きしたものを使われています。縦150cm×横130cm程の大きな和紙は、授業で学ばれているものよりも数段大きく、毎年複数人で協力して制作されています。

大型和紙の作成の様子
(写真提供:京都伝統工芸大学校)

京都市中京区にある創業200年の老舗「柊屋旅館」とのプロジェクト。これまで名だたる政財界の名士や文化人に愛されてきた宿のさらなる魅力を工芸の力で高めようと、滞在するお客様に向けた商品をプロデュースから作成までチームで行われます。

宿の象徴である、柊がデザインされた手描き友禅のネクタイやスカーフ、木工、木彫刻、陶芸、友禅と専攻した技術を集めたお茶セットなど、それまでの学びを輝かせ完成した作品は柊屋旅館にて販売されています。

 柊屋さんでのプレゼンの様子
(写真提供:京都伝統工芸大学校)

ヴァンクリーフ&アーペルデザインスカラーシップ

四つ葉のクローバーがモチーフのジュエリーで有名な、フランスのジュエリーメゾン「ヴァン クリーフ&アーペル」。日本の伝統技術、文化を継承していく学生を支援するために設立された、ヴァン クリーフ&アーペル デザイン スカラーシップはTASKの学生たちにもチャレンジの場が設けられています。

高度な技術を身に付けてきた3・4年生は卒業、修了制作にこのコンペにエントリーする機会があり、芸術性や独自性のある優秀な企画書のプレゼンテーションを行った個人やグループには制作資金の補助になるスカラーシップ(奨励金)が授与されます。

受賞作品は2月に京都伝統工芸館で開催される「卒業、修了制作展」にて見ることが出来ます。

 スカラーシッププレゼンの様子
(写真提供:京都伝統工芸大学校)

こうして、伝統工芸を学んだ皆さんが巣立ち、決して容易ではない次代の工芸界に挑み、担っていこうとする姿を拝見して感銘を受けました。これまで伝統産業のPRをしてきた私たちも、どのような活動がその時のベストなのかを模索しながら応援を続けていきたいと思います。

記事の内容について二本松学院 京都伝統工芸大学校の多大なるご協力を賜りました。

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この記事を書いたライター

三谷 靖代のアバター 三谷 靖代 おきにのうつわ 食空間コーディネーター 工芸品ディレクター

京都生まれ。祖父の代まで染屋を営み、親戚一同“糸へん”の仕事にたずさわる環境で育ち、学生時代はファッションを学び、ウェディング業界へ就職。そこで出会ったテーブルコーディネートに感銘を受け、後に食空間コーディネーターとして起業。京都の伝統産業の産地支援や、五節句や年中行事など生活文化を次世代に伝える活動を行っています。京焼・清水焼の卸売をする夫と夫婦ユニット「おきにのうつわ」を結成して、京焼・清水焼の魅力の発信や講演、展示会プロデュース、また陶磁器以外の伝統産業品のPRや観光業とのコラボなども手がけています。近年スタートさせた「伝活」では実際に京都の伝統産業品を愛でたり、使っている様子をSNSで紹介。
特非)五節句文化アカデミア 理事