学生で出版するフリーマガジンFASTNER.のメンバーが、京都の学生たちの活動をひもとく本企画。
紙面に載せきれない熱い思いをKyoto Love KyotoにWEB連載!
彼らは今、何を思い、何を発信しているのか。
*本インタビューの一部は、FASTNER.34号本紙中の「連載」にも掲載しています
京都の下京区に、ユニークな教育の場がある。運営する合同会社TSUKUMの代表、徳山さんに、その理念や未来の展望について語っていただいた。
「次世代のワクワクさん集団」を目指して
「私たちは『次世代のワクワクさん集団』を目指しています」と徳山さんは笑顔で語り始めた。NHKの工作番組「つくってあそぼ」に出演していた「わくわくさん」をご存じだろうか。TSUKUMもその精神を見習い、ものづくりを通じた教育活動を展開している。
「わくわくって、普通は未来への期待感みたいなイメージがあると思うんですけど、僕らは違うんです」と徳山さん。「自分の中から湧き出る自然な欲求や意思。そういうものを『ワクワク』って呼んでるんです。それに素直に従って、まるで遊ぶように、この世を冒険するように生きる人を、僕らは次世代のワクワクさんって呼んでるんです」
TSUKUMの3本柱
現在のTSUKUMの事業は主に3つ。まず一つ目は、小中学生向けのプログラミング教室だ。「これが今のメイン事業ですね」と徳山さん。
二つ目は、イベント事業。「3Dプリンターやレーザーカッター、もちろんプログラミングも含めて、工作からデジタルなものづくりまで、様々なワークショップを、企業や商業施設向けにやっています」
三つ目は、デジタル工作機械の導入支援。「これは相談があったらやる程度のものですが」と控えめに語る徳山さんだが、その目は輝いていた。
なぜ「ものづくり」なのか
「ものづくりには、アート的な側面とテクノロジー的な側面があるんです」と徳山さん。人類の歴史を紐解きながら、ものづくりの本質を語る。
「遥か昔から、人間はものを作ってきました。自分たちの機能を拡張するためのツールを作る一方で、自己表現のために人形などを作ったりしてきた。この2つの側面を持つものづくりは、昔から人間にとって重要な営みだったと考えられます」
さらに徳山さんは、教育学の観点からものづくりの重要性を説く。「構成主義」や「構築主義」という概念を引用しながら、「自分にとって意味のあることを現実世界に具現化する、アウトプットすることで、学習がさらに進んでいく」と熱く語る。
「ものづくりって、シンプルに失敗が多いんです。自分が具現化しようとしてるものに対して何度も何度も失敗する。その失敗と、どうしたらうまくいくかなっていう試行錯誤が、ものづくりにはコンパクトに凝縮されてるんです」
プログラミング教室の始まり
TSUKUMのプログラミング教室は、意外な形で始まった。
「もともとは3Dプリンターのワークショップから始まったんです。マインクラフトで作った建物を3Dプリンターで出力する方法を知っている人が少なくて。そこからマインクラフトを使ったプログラミング教室の話をいただいて…」
人とのつながりが、今の事業の形を作っていったという。
教育への思い
「最初から教育に興味があったわけじゃないんです」と徳山さんは意外な告白をする。「正直、起業したいという想いが一番最初のキッカケでした」
しかし、せっかく起業するなら自分が情熱を注げられる分野だと思い、それが教育だと気づいたという。
「教育っていうと子供向けみたいなイメージが強いですし、実際に今はそうなんですが、僕らが伝えたいのはもっと広い層です。この意味のない世界に対し、自ら積極的に意味付けをして、自分の中から湧き出るワクワクを表現しながら生きること。そういった哲学、生き方を伝えていきたいんです」
社会の疑似体験教室「TSUKUM Lab」
今後の展望を聞くと、徳山さんの目が輝いた。
「テクノロジーに強い、PBL(プロジェクトベースドラーニング)を取り入れた探求学習の場をつくりたいです。最終的には、子どもたちが協同的にものをつくり、学習していく教室を作りたいんです。プログラミングだけでなく、3Dプリンター、イラスト、動画制作、料理まで。様々な好き・得意を持つ子どもたちがチームを組んで一つのプロジェクトに取り組む。そんな場所を作りたい」
この構想には深い意図がある。「チームで何かを作り上げる経験は、将来の仕事にも直結します。小中高大とほとんど座学で過ごし、急に社会に放り出される現状。その間にある大きな壁を、少しでも低くしたい。これは世の親御様にも同意してもらえる部分かと思います」
「例えば、先生を驚かせるロボットを作りたいって子がいたとします。それをやるにはプログラミングが必要だし、ロボットの形を作る必要がある。それが3Dプリンターかもしれないし工作かもしれない。PR動画を作りたければ動画制作も必要になる。一つのプロジェクトをやる上でいろんな役割が必要で、それぞれが好きなこと、得意なことを持ち寄って協力する。そんな社会の疑似体験ができる場にしたいんです」
探求学習への思い
徳山さんは、現在の探究学習の在り方にも一石を投じる。
「探究って『探し究める』って書くんですが、僕はあえて「探求学習」と呼びたい。「探し求める」と書いて「探求」は英語で言うとクエスト。クエストってクエスチョン(問い)の語源です。だから、問題を解決するんじゃなくて、自ら問題を探す、問いを出すことが大事なんです」
「日本の教育では、与えられた問題を解く能力は高いけど、疑問を持ったり批判したり、『なんでだろう』って好奇心を寄せたりするところが弱い気がするんです。そこを改善していきたいですね。クエストの方が冒険感があって面白そう」
「人生はお先まっしろ」
TSUKUMの根底にある哲学は「人生はお先まっしろ」だという。「この世界に意味なんてない。だからこそ、今を楽しむことが大切なんです」
一見、軽薄に聞こえるかもしれない。しかし徳山さんは真剣だ。「私たちはスタートアップでもベンチャーでもない。アドベンチャー企業なんです。社会にインパクトを与えるとか、そういうことよりも、この組織自体が生き物のように、楽しんで冒険していけるようにしたい」
コミュニティの力
「人間は社会的な生き物です。だからこそ、コミュニティの重要性は高い」と徳山さん。TSUKUMが目指すのは、単なる教室やスクールではなく、一つの生態系のようなコミュニティだという。
「自己効力感ではなく、組織効力感。自分一人ではできないけど、みんなと一緒ならできる。そんな経験を積んでほしい」
起業への思い
「最初に起業したいと思ったのは、正直、すごく薄っぺらい理由でした」と徳山さんは笑う。「社長ってかっこいいじゃないですか。キングダム的な世界観で、会社に入ってすごい優秀な成績を残した人が社長になれる、みたいな」
しかし、実際はそうではないことに気づいたという。「誰でもいつからでも社長になれる。自分で人生のハンドルを握って、全て自分の責任だけど全て自由。自分で意思決定ができる。逆にそういう生き方にあこがれたんです」
挑戦する勇気
会社を立ち上げる際の困難や恐れについて尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「あんまりなかったかな。会社が倒産しても、そんなに失うものがないかなって。むしろ、これからどうなるんだろうっていうワクワク感の方が強かったですね」
この「冒険心」こそが、TSUKUMの原動力になっているようだ。
芸術への興味
教育以外の分野での活動についても聞いてみた。
「芸術の分野で何か活動してみたいですね。絵を描くとかじゃなくて、何かを表現する、自分で作品を作る。小説かもしれないし、エッセイかもしれない」
「会社という芸術作品に満足できたら、次は芸術っぽい芸術もいいかなって」
子供への憧れ
徳山さんは、子供に対する特別な思いを語った。
「僕自身が子供に憧れているんです。幼い子供のような人間になりたい」
その理由を尋ねると、「無邪気さかな」と答えた。「自分から湧き出るワクワクを素直に表現できる。大人になると、社会とか他者の価値観といった現実に在りもしないものに縛られがち。でも、それを一度取り払って、本当に自分の中から湧き出るものに素直に行動できる人間になりたいんです」
おわりに
インタビューの終わりに、徳山さんはこう締めくくった。
「未来も含め、現実に存在しない意味や価値観に縛られることなく、自分から湧き出る『ワクワク』に従って、みんなと一緒に冒険していきたい。それが僕らのTSUKUMなんです」
話を聞いていると、徳山さんの情熱が伝わってくる。「会社は遊び、おもちゃみたいなもの」と言いつつ、その目は真剣そのものだ。
TSUKUMの冒険は始まったばかり。彼らが作り出す新しい学びの形が、どんな未来を創造していくのか。今後の展開が楽しみである。
Kyoto Love. Kyotoから、FASTNER特別版に向けて
京都には、10年以上の歴史を持つ『FASTNER.』というフリーマガジンがあります。京都にゆかりのある学生が20名ほど集まって、企画から制作まで一貫して誌面づくりを行っています。その誌面はとてもクオリティが高く、京都が誇る学生文化のひとつではないかと思われます。
Kyoto Love. Kyoto編集部は、FASTNER.の活動を応援し、より多くの方に知ってもらうため、WEBメディア『Kyoto Love. Kyoto』の中で、『FASTNER.WEB版』を公開していくことにしました。誌面では書ききれなかった内容を掲載したり、新たな試みをする場にしてもらいたいと考えております。WEB版からFASTNER.に出合った方は、ぜひ紙の状態でも読んでもらえましたら幸甚です。(Kyoto Love. Kyoto編集部)
Interviewee
合同会社TSUKUM
徳山倖我さん
会社名:合同会社TSUKUM
メール:info@tsukum.com
HP・instagram
Interview & Text
FASTNER.代表 早坂虹汰
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Photos
©️合同会社TSUKUM