大河ドラマ「麒麟がくる」が2割増しで楽しくなる4

「敵は本能寺にあり!」光秀一世一代の号令に織田信長はなす術なく葬られ、100年後の教科書にも絶対に載っているであろう強烈な1ページが加えられました。その教科書にも書かれていないのが、今もって日本史最大のナゾとされている「なぜ光秀は本能寺の変を起こしたのか?」です。結果を知っている我々からすれば「なんで、そんなんしたん?」ですね。今回はそのナゾ解きに挑戦です。
 
 

ミッションコンプリートなのに浮かない表情の光秀

ここは「本能寺の変」の舞台であった本能寺前。兵士たちの「エイエイオー!!」という勝利の雄叫びが鳴り響いています。しかし、当の光秀はまるで空(くう)を見るかのようなウツロな眼差しをしていました。私なりに彼の心中を忖度しますと「エライコトやってもーた。どないしよ?」ではないかと思うのです。

皆さん、こんな経験ありませんか。パチンコで熱くなってしまい「ええい、いてまえ!」と帰りの交通費までつぎ込んだ結果、財布がカラッポになったこと。ダイエット中にポテチを発見「1枚だけね…」と自分に言い聞かせたはずなのに、気がつけば袋食べしてしまったこと。時の勢いでやったことに気づき、我に返ってボーゼン自失…。これを命懸けでやっちゃったのが光秀だったんだと思います。(注:編集部解釈)
 
 

なんでそんなんしたん?

では、なぜ光秀は「やっちゃった」のか。「イジメっ子・信長への仕返し」の怨恨説、「天下はオレ様が取ってやるんだぜい!」の野望説、推理小説の定番である“その事件でもっとも得をしたのは誰か?”のロジックから「秀吉黒幕」のトンデモ説などなど、なんと50個以上の説があるそうです。ここでその1つ1つに触れるとそれだけでこの連載が2~3回延び、いちおう次回で完結しようと思ってるのでやめときます。

ただ、1つだけ、それが直接の原因かどうかはともかく、光秀の心境に大いなる変化をもたらした一件を記します。それは信長から下された辞令でした。
「出雲、石見の二国を与える。ただし、近江坂本、丹波を召し上げる」
なんのこっちゃ?ですよね。現代語訳すると次のような感じになります。

国内No.1の大企業、織田株式会社の専務取締役・明智支社長に対し
「坂本・丹波支社長を解任、新支社である出雲石見支社長として異動を命ずる。ただし、出雲石見の地には社屋も工場も販売ルートも一切ないので、すべて自ら調達するように。なお、新支社設立に際し、本社からの資金援助はしない。以上、がんばってね♡」

まあ、こんな感じでしょう。左遷なんて生易しいものではない、エゲツない辞令です。しかもこの時、光秀は御年67才という説もあり、現在なら90才近くにあたるかと。ふつうに絶望しますよね。長年かかって積み上げてきたものをリセットされて、またイチからやり直せなんて。

これをもう少し身近な話でたとえてみます。
明日はビッグプロジェクトのプレゼン日。3ヶ月がかりで作ってきた100ページの大作企画書が完成目前なのに、夜になって超ワンマン上司がやってきて「何コレ?こんなのダメでしょ。今から私がいうコンセプトで全部作り直し!」って言われたらどうします?私なら殺意を覚えますね。(←おーむね実話の体験談です)

だから光秀はムホンを起こした、かどうかはわかりません。ただこれが背景となって、イジメだの野望だのいろいろな感情がゴチャ混ぜになったんじゃないかと思います。

 

ムホンは三角関係のもつれ?

もう一つ忘れてました。結局のところ光秀と信長、2人のウマが合わなかったんでしょう。光秀は確かに有能でしたが、「四角四面でシャレが通じない、つまらん男」これが信長の光秀評だったと思います。信長としては、やっぱりイジリ甲斐のある秀吉の方が好みだったのです。天下統一にメドが立つにつれてワガママが全開になり、長所より短所が目についてしまう。熟年離婚の図ですね。他人事ではありません。

光秀からすると、出世レースで追い抜かれた相手が秀吉だったことが許せなかったのだと思います。よりによって無知無教養、お調子者のサルごときに後れをとってしまったのですから、彼のプライドはズタズタです。夫の不倫相手が、とんでもないおブスちゃんだったとしたらどうでしょう。「私はこんな女にダンナを盗られてしまったの?」という怒りの矛先が、プライドを傷つけてくれた夫に向くことも…。女性心理に疎い私ですが、そんなこともけっこうあるのでは。これは完全に他人事ですね。はい。

ナゾはナゾのままに…

とまあ、いろんな説がありますが、私は100年後の教科書にも「なぜ光秀が本能寺の変を起こしたのかは解明されていない」とされている方がよいと思っています。なぜって?ナゾはナゾのままの方が、あれこれ議論ができて楽しめるじゃない?っていう単純な理由です。歴史好きってロマンチストなんですよ。

ドラマでも小説でも「誰が何をした」よりも「誰の気持ち」が「どのように変わったか」があるからこそ楽しめるんですよね。本能寺の変に至る光秀の心境の変化は、ドラマの題材としては最高なんじゃないでしょうか。「麒麟がくる」ではどのような解釈で、どのような演出がなされるのかが楽しみですね。


余談ですが「麒麟がくる」で斎藤道三(利政)を演じるモッくん、端正なマスクからあんな太い声が出せるなんて驚きです。たしか50代半ばだったと思うのですが、いくつになってもカッコいいです。シブがき隊だったころ、ゴレンジャーみたいな恰好で「♪ナイナイナイ」とか歌ってたなんて、今の若い人には信じられないでしょうね。

それでは次回、「本能寺の変」後の光秀についてお話しして、たぶん最終回になると思います。また再来週お会いしましょう。

(編集部 吉川哲史)

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この記事を書いたライター

祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。

日本語検定一級、漢検(日本漢字能力検定)準一級を
取得した目的は、難解な都市・京都を
わかりやすく伝えるためだとか。

地元広告代理店での勤務経験を活かし、
JR東海ツアーの観光ガイドや同志社大学イベント講座、
企業向けの広告講座や「ひみつの京都案内」
などのゲスト講師に招かれることも。

得意ジャンルは歴史(特に戦国時代)と西陣エリア。
自称・元敏腕宅配ドライバーとして、
上京区の大路小路を知り尽くす。
夏になると祇園祭に想いを馳せるとともに、
祭の深奥さに迷宮をさまようのが恒例。

著書
「西陣がわかれば日本がわかる」
「戦国時代がわかれば京都がわかる」

サンケイデザイン㈱専務取締役

|八坂神社中御座 三若神輿会 幹事 / (一社)日本ペンクラブ会員|戦国/西陣/祇園祭/紅葉/パン/スタバ