京都人の意外なライフスタイル
いきなりで恐縮ですが、第一問です。
次の「○○」埋めてください。
「京都人の○○%は朝食にパンを食べている」
虫食い問題…なんか学校のテストみたいでイヤですね。Kyoto Love.Kyoto編集部内に学生時代を尾崎豊のスピリットで過ごした社員がおります。真夜中に校舎の窓ガラスをたたき割ったのはもちろんのこと、いまだに「卒業とは支配からの解放」だと真顔で言いきる清々しいオジさんです。彼がこれを見たら、私のことを「かよわき大人の代弁者」と言うことでしょう。
「なんの話やねん?」ですよね。すみません、すぐに解答を見るのはつまらないと思い、ちょっと時間稼ぎ、もとい行稼ぎの場つなぎトークでした。話戻しますね。
正解は
「京都人の90%は朝食にパンを食べている」
でした。なんと9割がパン食派なのです。
京都って古都だし、和のイメージ強いし、「朝はやっぱり白メシ」って思いますよね。なのに9割がパンです。砂漠とピラミッドのイメージが強いエジプトなのに実際にはビルが林立している、みたいな裏切られ感でしょうか?
とにかく京都人ってパン好きなんですよね。まずはこちらのデータからご覧ください。
残念、僅差で神戸市に首位の座を譲ってしまいましたが、京都市と神戸市は常にトップを争うライバル同士です。でも港町神戸とパンはイメージぴったりですが、港無し町京都とパンはいまいちピンとこないですよね。そこで今週のテーマは「なぜ京都人はパン食いなのか?」のナゾに迫るべく、様々な説をリサーチしてまいりました。
京都人がパン食いな理由
その① 京都人は新しいもの好きだから
保守的なイメージが強い京都人なのに、新しいもの好き?って意外に思われたかもしれません。でもよく考えてください。京都は千年もの間、日本の都であり続けました。途中、鎌倉とか江戸に政治の実権を預けたこともありましたが、首都はあくまでも京都でした。現代の東京がそうであるように、いつの時代も都は最先端情報の玄関口です。つまり、京都は常に新しいものが入ってくる土地であり、新しいもの好きなのは千年以上の歴史に裏付けられていたのでした。なんとなく説得力ありますよね。
その② 和食に飽きたから
これって一見もっともらしく思えますが、実際のとこどうでしょ?ここでいう和食とは懐石料理のようなものを言われているのでは?京都人のみなさん、昨日の晩ごはんは懐石料理でした?おそらく10人に1人もいないでしょう。フランス人だって毎日フレンチを食べてるわけではありません。なので私的にこの説は却下です。
その③「京都人の合理性」説
京都といえば西陣織をはじめとした伝統工芸、つまり職人の街です。職人さんの朝は忙しく、メザシをオカズにご飯食べて、みそ汁をズズズーっとすすりながら、お新香をポリポリ…なんて悠長なことしてられません。ファストフードという言葉のない時代から、片手でパクついてチャッチャッと食べられるパンは重宝されていました。「早メシ早○○芸のうち」とはよく言ったものです。あ、ここの○○は埋めなくてけっこうです。食べものの記事なんで。
その④ 学生が多いから
学生の街・京都らしい説です。夜遅くまでマジメに勉強している奇特な学生も、明け方まで遊んでいるフツーの学生も、朝はギリッギリまで布団で粘っていたいもの。となると朝からご飯を炊いているとは考えにくい。むしろ通学途中で買って、教室で食べてる人の方が多いかも。これはまあまあリアリティありますね。
その⑤「和菓子の街→アンコが手に入りやすい→アンパンが人気に→パン食が一般になった」説
私もアンパンは好きです。でもそんなにアンパンばっかし食べられません。それこそ飽きます。アンパンを置いていないパン屋さんは少ないけれど、だからといってアンパンだらけのパン屋さんてのもない。というわけで、はい却下。
以上が京都人のパン食いな理由5つの説でした。
編集部が掲げる「第6」の仮説
ここまでの5説は一般的によくいわれている通説であり、これで話が終わったら、ただのまとめサイトです。そんなことでは「ガイドブックより一歩踏みこんだ奥深き京都を探る」を理念に掲げる当サイト「Kyoto Love.Kyoto」の看板を降ろさねばなりません。
そこで、私なりにアンパンかじりながら考えてたどり着いた第6の説を発表します。これは今のところ誰も唱えていないし、どのサイトにもどの本にも載ってないはずです(たぶん、きっと)。ヒントは秒殺で却下したアンパン説にありました。
それでは発表します。
編集部オリジナル説
「和菓子作りに込められた創作精神がパン職人に受け継がれたから」説です。ウダウダと長くてわかりにくい説ですね。順を追って説明します。
まずはこちらのデータをご覧ください。先ほどはパン全般での消費ランキングをご紹介しましたが、今度はパンの種類ごとに分けてみました。まずは「食パン部門」です。
ベストテンには入っているものの、決して上位ともいえないですよね。
では次にお惣菜パン部門を見てみましょう。
なんと38位!ベストテンどころかワースト10に入ってしまっています。こんなんでどうやって総合2位にランクインしたのでしょうか。答えはココにありました。
菓子パン部門では堂々の1位に輝いていました。つまり京都のパン文化を支えているのは菓子パンだったわけです。そして菓子パンと京都をつなげているのは、和菓子づくりのココロではないか、というのが編集部の仮説です。和菓子と茶道には密接な関係があり、京都は茶道お家元の街だけあって和菓子文化が盛んです。なので茶の湯が確立した室町時代より、多くの職人さんたちが競って新たなる味を追究してきました。
どんな料理でもそうですが、和菓子はとくにその創造性が問われるジャンルです。さらに茶道の一期一会の精神が反映され、1つの和菓子を創ることは職人にとって人生を懸けるに等しい真剣勝負だったのではないでしょうか。その気風と文化が京都に根づき、西洋文化であるパンが輸入されたとき、パン職人にも受け継がれたのだと思います。そうした脈々と連なる職人魂によって数多くの個性的な菓子パンが生まれ、京都人のパン食につながった。これが編集部が掲げる第6の仮説「和菓子作りに込められた創作精神がパンに受け継がれたから」説です。いかがでしょうか。
パン食はもはや京都文化
近年はスイーツとしても注目を集めている菓子パン。和菓子というと、オトナのお菓子のイメージが強いですが、菓子パンは子どもから大人まで万人受けするのも人気の理由でしょう。
また、パンはお米以上に他の食材との相性が良いようです。好みは人それぞれだと思いますが、おはぎのようにお米とアンコは合っても、お米とホイップクリームやお米とフルーツのマリア―ジュは私的にはご遠慮申しあげたいと思います。その点、パンはアンコなど和菓子の材料とも、クリームやバターなど洋菓子の材料やフルーツとも相性の良い万能選手です。それだけに多くの職人さんの創意工夫と試行錯誤、そして熱意が注ぎこまれてきたのが菓子パンだといえます。
ちなみに、これまた意外なデータですが、コーヒーやバター、牛乳の消費ランキングでも京都は常に上位を占めています。これってみんなパンと一緒にテーブルに並ぶものですよね。パン好きだからコーヒーを飲むのか、コーヒーが好きだからパンを食べるのか。いずれにしてもパンは京都の食文化の中核、とまでは言いませんが少なくとも「大きな一角」を担っていると言えます。そこには500年以上にわたって受け継がれてきた職人たちの技と誇りが息づいていました。
朝の目覚めは一枚のパンから。
これが京都人スタイルどすえ。
(編集部/吉川哲史)