お稚児さんの親として心がけておられることはありますか?

よく聞かれることですが「お稚児さんを出すのって経済的負担が大きいのでしょ?」と。もちろん少なからずお金はかかります。しかし、直会(なおらい)にお金をかける、母親が着物を誂える、お客様を迎えるから家を直す・・・そんな支出を計算しだしたら果たしてどこまでが稚児を受けることによってかかるお金といえるのか。ひょっとしたらそんな噂話だけがおもしろおかしく広まって、将来的に稚児や禿の受け手が少なくなるかもしれません。

稚児の親であり、私自身も稚児の経験があるからこんなことが言えるのかもしれませんが、後世の稚児家に「神事や儀式などで本当に必要なのはこれくらいですよ」とはっきり言えるような前例になりたいと思っています。

また、私自身も稚児の親をとても楽しませてもらっています。中西さんには説明しなくて良いから楽だといわれます。稚児に選ばれたらまず祭の説明をされるのですが、私は流れを知っているので、「どうしたらいいんや」と慌てる必要がないからです。

ちなみにこのような説明は、ずっと口伝で行われてきました。38年前と今では、儀式が減ったり、増えたり、変わったりしていますが、みんなが楽しんでくれているのが伝わってきます。
 
 

最後に祇園祭に願うことをお聞かせください。

2016年に山鉾行事がユネスコ文化遺産に登録されました。それ自体はたいへん喜ばしいことなのですが、祇園祭に限らず「祭」の原点が失われているのではないかと危惧いたします。
いうまでもなく祭は神様に喜んでいただくために執り行うのですが、同時に地域(町や村)の人々が酒を酌み、喜びを分かち合い楽しむ場でもあります。
山鉾巡行でも一昔前は鉾の中で床がビシャビシャになる程、お酒を飲んだり、新町通などで2階の窓から見ている人に話かけたり、時に扇子を差し上げたり、その扇子をそのお家の家宝としていただいたり、そんな交流がここかしこでありました。

ですが近年は「周りの目」を必要以上に意識してしまい「やってはいけないこと」が増えてしまった気がします。食事でも、鉾の中でいただいていると、「なんだあれは」となってしまい、しゃがんで見えないようにしていただくようになりました。

これまで1150年続いてきた祇園祭です。神事としての厳かさや、観光行事としての見栄えはもちろん大切ですが、担い手である町衆も観る人も楽しめる祇園祭であり続けてほしいですね。

本日は普通ならなかなかお聞かせいただけないような貴重なお話をいただきありがとうございました。

京菓子鼓月本店

京菓子鼓月本店

※2019年夏の記事です。

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この記事を書いたKLKライター

鼓月 代表取締役
中西 英貴

 
昭和46年 京都市生まれ
明治大学商学部卒業後三和銀行(現)を経て祖母が創業した株式会社鼓月に入社し平成17年より現職。
代表銘菓は「華」「千寿せんべい」など。
10歳の時に稚児を務め、その翌年以来長刀鉾囃子方として祇園祭に関わる。現在笛方。
烏丸錦の孟宗山との二足の草鞋を履く。
趣味はトライアスロン。 

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昭和46年 京都市生まれ
明治大学商学部卒業後三和銀行(現)を経て祖母が創業した株式会社鼓月に入社し平成17年より現職。
代表銘菓は「華」「千寿せんべい」など。
10歳の時に稚児を務め、その翌年以来長刀鉾囃子方として祇園祭に関わる。現在笛方。
烏丸錦の孟宗山との二足の草鞋を履く。
趣味はトライアスロン。 

|鼓月 代表取締役|祇園祭/長刀鉾/稚児家

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