みたまと語らう京都の8月 ~お盆に始まる行事の数々~

8月に入ると、今まで真っ白やったお日さんの光に、急に色が付いたような気がしませんか?立秋を過ぎたら少しずつ木の影が長うなって、蝉の声が物悲しい聞こえるような…8月は、過去に悲しい出来事がたくさんあった月。そして、遠いところに行ってしもた人たちと再会する大事な時期でもあります。

月が代わってすぐ、京都の人たちはお盆の準備の手始めとして、菩提寺のお寺さんへ、「おしょらい(お精霊)迎え」に行きます。先祖の「おしょらいさん」を、お家でおもてなしするために、お寺へお迎えに行くのです。(注)

子どもの頃、お寺からの帰り道、母はよう笑いながら言うてました。
「ほうら、背中にいっぱいご先祖さんが乗ったはるわ。重たいやろ。」
「え、見えるの?ホンマに乗ったはるの?」
そう言われたら急に、肩が重たくなったみたいな気がしましたよ。
慌てて何度も肩を撫でてみたりして… それは幼心にもご先祖さんの存在を感じる、不思議な経験でした。

お盆休みは今は15日と16日が一般的ですが、私らは13日から16日まで、毎日お膳を差し上げます。今はお盆休みのないスーパーもありますが、その間にお飾りするものを揃えられるような地元のスーパーはお休みになるので、やっぱり12日までには全部揃えんとあきません。

買いそろえた物
お盛物が2つあるのは、家の分と法界の仏さんの分。

お盆に備えて、お仏壇の掃除もします。仏さんとお位牌の埃を丁寧にぬぐい、普段ゆっくりと見ることができひん過去帳をめくると、いつも会話に乗ることのないご先祖さんの姿が見えてきます。あ、この人も帰ってきたはるかなぁ。母からよう聞いたご先祖さん。ふと振り返ってみたら、そこにやはるような感覚が…

お盆のお膳は4日間。蓮入りのお花とお盛物(おもりもの)と呼ばれるお供え物、果物、蓮のお菓子と、初日はお迎え団子をお供えします。買うものもかなり多いし、お供えの仕方も決まっていて大変やけど、母は私が子どもの頃から毎年少しずつ教えてくれました。

お盛物の中身

13日は
白いご飯・さつまいもの炊いたん・三度豆のごまのおひたし・きゅうりのどぼ漬け。
14日は
おそうめん・おなすのおひたし・新生姜のお漬けもん。
15日は
白蒸し(もち米を蒸したもの)・おひら(高野豆腐・花麩・かんぴょうの炊いたん)・おなすのどぼ漬け 
と続きます。

実は、お供えはご先祖さんのためだけにするのではありません。お寺から帰る時、必ず知らん仏さん(法界の仏さんと言います)も連れて帰ってしまうので、その人らも供養せなあかんと言われました。この期間だけは、どなたさんもウエルカムなのです。“すべての人にお布施をする”というお盆の精神が生きているのですね。ただし、ちょっとだけうちの仏さんよりは品を落とすようにって。数とか大きさとか。お箸の質も。いけずちゃいますよ。きまりです。

そして最終日、16日はかなり朝早うからお膳の用意。あらめは、前の日から水に浸けといたものを冷蔵庫から出してきて、お揚げさんと一緒に炊きます。そのとき、色のついた浸け汁は残しておきます。

あらめと浸け汁
16日のお供え

お供えが終わったら、急いで全部のお供え物を新聞紙の上にあけて、ぐるぐるっと包んでしまいます。準備が済んだら、「おしょらい(精霊)送り」のため、近くのお寺へ直行!昔は川に流していたお供え物を、今は指定されたお寺や神社で集め、市に処分してもらうのです。

お寺でお供えを集める

普通は、「ご先祖さんは早く来てもろて、ゆっくり帰ってもらう」と言いますが、京都のお帰りはバタバタと急かしてお見送りです。とても「ゆっくり帰ってもらう」とかいう雰囲気はありません。

なんでか、て? 母は言うてました。
「早う帰らんと、ご先祖さんの位が下がるて聞いたえ。」
どうやら、先着順なようで。小さい頃は椅子取りゲームを思い浮かべてしもてましたよ。

 おしょらい送りから帰ってきたらすること。あのあらめの浸け汁を玄関先に撒くのです!一緒についてきた法界の仏さんもみんなきれいに帰っていただくために。いけずちゃいますよ。これはきまりです。

 そして夜には東を向いて、大文字を見てご先祖さんや有縁無縁のお精霊さんを送ります。

「また来年待ってるえ。」

遠くに見える大文字

バタバタと忙しかったけれど、終わってみるとやっぱり寂しい。毎年そう思いながらも、無事お盆を終えられたことはありがたいなぁと思うのです。

お盆が過ぎると、夏もテンポを上げて走り出します。
23日の前にある土日が多い地蔵盆。子どものためのお祭と言われますが、実はこの1年に亡くなった方の初盆の供養をする祭事でもあるのです。お盆は血縁関係のある人たちで行うことが多いのに比べて、地蔵盆は町内というコミュニティの中で、亡くなった方と語らいをする場でもあります。町内で亡くなった方を町内で弔う。京都の昔からの交流がここに残っています。

地蔵盆数珠回し

8月は、亡くなった人と丁寧に接し、おもてなしをする月。その過程で、生きている人たちとの交流を密にする大事なひと月。京都の人間には、8月の意味合いが、この蒸し暑さとともに心に深く刻まれています。
そうそう、京都は特に「法界の仏さん」が多いでしょ?ほら、あちこちに、そこにもあそこにも。どこのお家にも拾ってもらえへんかった仏さんがやはりますよ。くれぐれも知らんお墓触らんようにね…お家まで付いて行きたい、って肩に手を掛けたはるかも…

さ、そろそろお盆の買い物に出かけんと。仏さん待ったはるえ。

(終)

注:浄土真宗の門徒さんは、お盆でもご先祖さんはお墓におられる、という考えから、家でのお盆行事をされません。

よかったらシェアしてね!

この記事を書いたライター

 
上京の、形になりにくい文化(お祭・京都のおかず・伝統工芸・京ことば)の継承のお手伝いをする「京都上京KOTO-継の会」会長。
「鳴橋庵」店主。
「能舞台フェスタ in 今宮御旅所」実行委員会会長。

組紐とお抹茶体験を鳴橋庵店舗にて行っております。
合間合間に京都のお話を挟みつつ、楽しく体験していただけます。
お申込みは「鳴橋庵」HPまで。

|鳴橋庵 店主・京都上京KOTO-継の会 会長|お盆/織田稲荷/京都人度チェック/パン/氏子/十三参り