御大礼が残したもの

最後に昭和の御大礼が残した主なものを挙げておく 。

鉄道

昭和2年(1927)12月に鞍馬電気鉄道(現在の叡山電鉄)が設立され、昭和3年12月1日に山端(現在の宝ヶ池)~市原間が開業している。御大礼に合わせて開業する予定であったが、工期の遅れがあったようである。

同じく御大礼に合わせて新京阪鉄道(現在の阪急電車・京都線)の天神橋(現在の天神橋筋六丁目)~西院間が開業しているが、詳しくは島本由紀氏の『関西初の地下鉄は京都から』を参照されたい。

宿泊業

まだ大きなホテルがなかった時代であり、外務省が手配して都ホテル(現在のウェスティン都ホテル京都)と京都ホテル(現在の京都ホテルオークラ)が外国大使・使節のために貸し切られた。京都ステーションホテル(現在の京都センチュリーホテル)は、昭和の御大礼に合わせて11 月に開業されたが、1 年足らずで5 階建てのホテルが竣工したことに当時の人々は驚いたという。

市内の旅館450軒の有名どころは関係者や参列者が予約済み、市内の寺院でも地方の檀信徒や団体を受け入れて満員という状況だった。こうした状況下では価格高騰や劣悪な接客が懸念されたが、京都府の指導と経営者・従業員向けの事前講習会もあって、価格が抑えられるとともに設備の改装修復・夜具の新調が行われるなど、むしろ御大礼前よりサービスの改善が見られたとされる。

なお、内閣総理大臣をはじめとする政府高官・軍の幹部など約2千7百人は、大多数が旅館でなく市内有力者の豪邸や別邸などに分れて滞在しており、宿不足の状況が伺える。

夜回り

京都府知事および大礼警備本部は公報や新聞紙面での呼びかけ、各戸への「大礼に関する心得」「鹵簿奉拝者心得」といったビラ配布により、市民への注意喚起をはかっている。特に火災の発生が最も警戒されており、焚火の禁止、こたつ・暖炉・火鉢等の火気注意と外出時の消火の徹底、かまど・風呂場・神棚や仏壇の燈明付近に燃えやすいものを置かないこと、子どもの火遊びに注意するなど、事細かに記されている。

11月3日~17日までは各戸から1人を出しての夜回りが義務付けられ、自身番(詰所)が各町1個、市内290か所余りに設置されたという。また御大礼期間中に火災が起こらぬよう、11月5日~10日までの5日間、愛宕神社で鎮火祭が行われている。


三船祭

御大礼記念として、車折神社の御神体を奉乗する御座船、龍頭で彩られた舞楽船、鷁首で彩られた管弦船などを大堰川に浮かべて誌歌を楽しんだという平安時代の御舟遊祭(現在の三船祭)が復興され、10月17日にはじめて催行されている。

をどり

御大礼奉祝記念として2 度目の都をどり『奉寿萬歳楽(ほうじゅまんざいらく)』が祇園甲部歌舞練場で 11 月 4 日~12 月 10 日まで開催されている。特に第 4 幕の「瑞穂の国振(くにぶり)」は悠紀・主基斎田の御田植を模した踊りとなっており、好評を博している(「瑞穂の国振」は令和元年10 月の温習会で「主基の御田植」として再演された)。

また鴨川をどり『代々のみやこ』は、先斗町歌舞練場で11月6日~12月6日まで開催されている。天武天皇が吉野宮で琴を奏して歌われたおり、雲中に天女が現れて舞い、五度袖をひるがえしたという”五節の舞”の起源に取材した「袖振山の天津乙女(あまつおとめ)」が話題を呼んでいる。

いずれも11月10~16日は即位礼と大嘗祭の歌舞音曲停止のため休演、または参列者接待のため一般観覧中止となっている。


高山彦九郎像

座して御所を遥拝する、江戸後期の勤王家・高山彦九郎の銅像が三条大橋の東詰に設置され、11月8日に除幕式が行われている。

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この記事を書いたKLKライター

京都ハレトケ学会 主宰
中野 貴広


京都ハレトケ学会 主宰。
京都六斎念仏保存団体連合会・京都中堂寺六斎会 会長付/公式カメラマン。

2006年に滋賀から京都市へ移住したことをきっかけにまつりの撮影を始める。
会社勤めのかたわら、ライフワークとして郷土史家の事績をたどっている。

作品展示
2014年 『中堂寺六斎念仏』展 京都市伏見青少年活動センター
2015年 『都の六斎念仏』展 京都府庁旧本館
2016年 惟喬親王1120年御遠忌・協賛展示『親王伝』 京都大原学院
2017年 『京のまつり文化』展 綾小路ギャラリー武
2018年 『京のまつり文化』展 ごはん処矢尾定
2019年 『続・京のまつり文化』展 ごはん処矢尾定

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京都ハレトケ学会 主宰。
京都六斎念仏保存団体連合会・京都中堂寺六斎会 会長付/公式カメラマン。

2006年に滋賀から京都市へ移住したことをきっかけにまつりの撮影を始める。
会社勤めのかたわら、ライフワークとして郷土史家の事績をたどっている。

作品展示
2014年 『中堂寺六斎念仏』展 京都市伏見青少年活動センター
2015年 『都の六斎念仏』展 京都府庁旧本館
2016年 惟喬親王1120年御遠忌・協賛展示『親王伝』 京都大原学院
2017年 『京のまつり文化』展 綾小路ギャラリー武
2018年 『京のまつり文化』展 ごはん処矢尾定
2019年 『続・京のまつり文化』展 ごはん処矢尾定

|京都ハレトケ学会 主宰|宝船図/桜/桂離宮/祇園祭/御大礼

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