「お茶の町」京都に生まれて50年。いまだに解決できない「?」が私にはあります。それは「バナナはおやつに含まれるのか?」もとい「コーヒーはお茶なのか?」問題です。「喫茶店」はお茶を喫する(飲む)店のはず。なのに、喫茶店のメニューは大半がコーヒーです。他にも「お茶する」「お茶の時間」と言いながら、実際に飲んでいるのはコーヒーであることも多いはず。子どものころから、ずーっと疑問でした。しかし、スターバックスの日本進出とともに「カフェ」という言葉が浸透したことで「コーヒーなのに、なんで喫茶店やねん?」問題は、やわらいできたように思います。
ところで、私は平日休日を問わず上京区内で行動することが多いのですが、ある日ふと気づいたことがあります。それは「上京区にはスタバが一軒もない。それどころかドトールなどのチェーン系カフェもないのでは?」ということです。もしかして、第一発見者は私なのかも?です。発見ついでに、そのナゾ解きにも挑戦してみることにしました。
データが示す上京区カフェゼロの実態
京都市には2021年9月19日現在32ものスタバが出店しています。11区の中で店舗がないのは上京区と西京区だけです。さらに別表①をご覧ください。京都市の行政区別カフェ店数です。一目瞭然、上京区には清々しいまでに「ゼロ」が並んでいます。ALLゼロは上京区のみです。
ひょっとして上京区民はカフェ難民なのでしょうか。いいえ、もちろんそんな訳ではありません。こう見えても私、趣味がカフェめぐりなので、上京区にもおいしいコーヒーが飲める店、鴨川ほとりの眺めのいい店、雰囲気OKの店、趣味性の高い店など、いろんなカフェがたくさんあることを知っています。でもやっぱり上京区民からすれば、こんなデータを見せられると「なんでやねん?!」と言いたくなりますよね。
そんなわけで、スターバックスコーヒー本部に電話でお尋ねしてみることにしました。快く応じていただいたその回答は「なかなか条件に合致する場所がなく、ご縁がなかった」とのことでした。ちなみにその条件は社外秘だそうです、残念。今後のご縁に期待ですね。結局、「上京区にはなぜチェーン系カフェがないのか?」問題はナゾのままです。そこで、私なりの仮説を立ててみることにしました。
いろいろと調べてみたところ、スタバ出店の基準となりそうな要素がいくつか見つかりました。大きく分けて「人口」「ブランド」「ロケーション」の3つの切り口から考えてみることにします。
「人口が少ないから」説
これは考えるまでもなく、あたり前のハナシですよね。ちなみに、大阪を例にとると「人口10万人」がひとつのボーダーラインになるようです。では京都市内ではどうなのか?別表②のとおり、たしかに上京区の人口は少なく、市内11行政区中の9位にすぎません。しかし、1㎢あたりの人口を示す人口密度では3位にランクしており、むしろ集客ポテンシャルは高いはず。やっぱり「なんでやねん?」です。
スタバにふさわしくないから?説
さて、ここまでは人口を中心に「数」という軸で見てまいりました。でも、スタバは人が多ければどこにでも出店するというわけではありません。現に東京23区内でもスタバが出店していない区があります。で、次に考えてみたいのが「ブランド」です。スタバは「雰囲気」や「居心地」を非常に大切にしています。お客様がスタバを選ぶ理由でもあります。なんとなく、わかるような気がしますよね。スタバでは学生やオバちゃんたちが大声でペチャクチャ喋っているイメージは薄いです。つまり「落ち着いた雰囲気」であることがスタバ出店の1つの条件となります。
では、上京区は「落ち着かない町」なのでしょうか?「居心地がよくない町」「雰囲気がよくない町」なのでしょうか?ある不動産会社の調査「住みたい町」「住みここちの良い町」のランキング(※)によると上京区は、住みたい町で市内5位、住み心地のよい町で市内3位となっています。つまり、雰囲気、イメージ的にはクリアしているわけですね。
※大東建託㈱「いい部屋ネット 街の住みここち&住みたい町ランキング2021〈京都府版〉」より
ロケーションが合わない説
最後の切り口は「ロケーション」です。スタバが出店するのは、駅近や駅ナカ、そして繁華街やビジネス街、また少し離れたところであれば駐車場が確保できるところが多いですよね。では上京区はどうでしょうか。区内にある2つの駅、今出川駅も丸太町駅もターミナル駅というほどではありませんし、繁華街やビジネス街といえるほどのストリートもありません。
そして、もうひとつ。実は北区と左京区もスタバが1~2店と少ないエリアですが、北区には北大路ビブレ、左京区には洛北阪急スクエア(カナート)があり、その施設内に出店しています。そうです、「上京区にはショッピングモールなどの大型商業施設がない」ということです。人口密度よりも、もっとピンポイントな特定エリアにおける「密」があれば、出店対象となりそうです。
そこで上京区で該当する場所を思い起こしてみましたが、春秋の御所の一般公開か、毎月25日の天神さんの縁日、あとは入学式直後の同志社大学キャンパスくらいでしょうか。どれも季節的要因が強いですね。うーん、残念ながら上京区は条件から外れているようです。
さて、以上をまとめると、人口そのものよりも「人が密集している場所の有無」が基準なのではないかという結論となりました。あたり前といえばあたり前の答えではありますが…
上京区の真髄ココにあり
しかし、ここに上京区らしさが表われていると私は思います。人の密集とは、よくいえば賑わい、悪くいえば「人混み」です。上京区には京都の歴史を担ってきた重みと誇りがあります。一千年以上もの間、御所=天皇が鎮座した歴史の重み。冷泉家、茶道家元、西陣織など有形無形の文化と伝統を紡ぎ続けてきた誇り。そこには「賑わい」「人混み」という言葉は不要です。むしろ「上京ブランド」を損なうといってもよいでしょう。
私なりに上京区の空気をひと言でいえば、「凛」という言葉が浮かんできます。「凛」を辞書でひも解くと「厳しく引きしまっているさま」とあります。私は休日の朝に上京区のアチコチを散策しています。ときどき京都御苑や千家お家元の近く、あるいは西陣の石畳を歩くと、自然に背筋が「ピン」と伸びるような気がするのは、そういうことなんだと思いました。
一方で地図を見ればわかるように上京区は京都市のほぼ真ん中に位置し、郊外(ロードサイド)といえる場所はありません。つまり、上京区は「京都の中央でありながら静寂を保つ」という相矛盾する2つを内包しているわけです。別の言葉でいえば「凛とした佇まい」、すなわち「静けさの中にも存在感があること」ということです。そして、これこそが上京ブランドだと思います。雅なる公家文化を受けつぐ町・上京区の真髄がここから見えてきます。その特性を考えるとカフェが少ないのも頷けますよね。ちなみに上京区と対をなす下京区には、市内最多の12店のスタバを含む27ものカフェが出店しています。さすがは商工の街・下京区。こんなところにも上京と下京の対比が見られて面白いものですね。
もし、上京区にスタバを誘致するなら…
つまるところ、上京区にチェーン系カフェは不要だという結論になりそうですが、スタバファンの私としてはやはり1軒くらいあってほしいとも思います。
そこで、私なりの「上京区のココにスタバがあったらいいな」を考えてみました。ポイントは「そこそこ集客力があって、かつスタバのイメージと一致すること」です。
河原町今出川東入
賀茂川と高野川が合流し「鴨川」となる地、出町エリアです。比叡山麓や大文字山を背景にした鴨川の流れ。山紫水明を愛でながらのコーヒーは格別です。
堀川今出川上ル
イチョウ並木が彩る四季の移ろいとともに、物想いにふける…。私的とっておきスポットです。特に紅葉の季節には絶景を堪能できるので、ぜひともテラス席が欲しいですね。
烏丸今出川下ル
いわゆる御所西、ステータス高いです。御所を仰ぎながらのコーヒーは、高貴な香りが漂いそうですね。駅近アクセスもGOOD!
烏丸丸太町上ル
大丸ヴィラや平安女学院など洋風建築が並ぶ一角は、スタバと相性がよさげです。お向かいの御所との和洋折衷を織りなす佇まいは、時空を超えたひと時を楽しめそうです。
大宮今出川下ル
西陣のど真ん中「千両ヶ辻」と呼ばれるエリアです。町家のバリスタが淹れる一杯は、西陣織職人のこだわりを連想させてくれます。
七本松今出川(上七軒)
京都五花街で最も古くからあるのがココ上七軒。提灯に明かりが点る夕暮れ時には、一風変わった妖艶なスタバを見せてくれそう。
こうしてみると、ロケーション的には文句なしですよね。たしかに採算ベースは合わないかもしれません。でも、上質の佇まいを持つ上京区は、スタバが掲げるサードプレイス、すなわち「家でも職場でもない、飛びきり居心地のよい場所」として極上の地といえます。スタバブランドの広告塔として位置づければ、その意味は大いにあるのではないでしょうか。スターバックスさん、ぜひご一考を!