2020年。
春が近づく…というには、余りにも早いペースで気温が上がっています。
気候が変わりつつあるのを、肌で感じます。
例年どおりなら、3月中旬ぐらいから楽しめる早咲きの品種が、2月終盤にすでに開花、カワヅザクラなどはいま見頃を迎え、早めに咲いた個体に至ってはピークを過ぎたものさえ見かけます。

早咲の品種を撮影していると、道ゆく人がこんな話をしているのに会います。
「あれは、桜なのか」
「こんな時期に桜が咲くはずはない、きっと梅だろう…」

桜を見るには、まずどんな品種があり、開花の時期の早い・遅い、どこに咲いているか、などを把握しておくほうが、より楽しめますし、見逃すことも少ないでしょう。
日本でもっとも有名な桜は、ソメイヨシノですが、祇園枝垂れが有名な京都の人なら、ソメイヨシノだけが桜でないことは、よくご存知ですね。
桜の品種は一説には600種類もあるそうです。

しかし、実際のところ、それほど多くの品種を覚えて頂く必要はありません。
京都でたくさん植わっているものだけに絞って、似たようなものはグループ化してしまえばいいのです。
私は、開花の順番を踏まえて、こんなふうに単純化して、頭に入れています。

1.早咲きグループ
2.シダレザクラ
3.ヤマザクラ
4.ソメイヨシノ
5.ベニシダレ(とヤエベニシダレザクラ)
6.遅咲きグループ

わかりやすさを重視したものですので、ご容赦ください。
シダレザクラ⇒ソメイヨシノ⇒ベニシダレの順番を覚えておいて、それ以外の品種を「より早い」、「より遅い」とすればいいのです。

ひとつずつ、ご説明しましょう。

1.早咲きグループ

 例年2月~3月に見頃を迎えるたくさんの品種をひとまとめにします。

 他の地方で発見されてから、京都に植樹されたり、品種改良で人為的に生み出された品種が多いです。たとえば、静岡県が原産のカワヅザクラ。自然に繁殖していたものを見つけて新種として認定、各地で植えられていき、京都にも持ち込まれました。

写真は伏見区 淀に地元の有志の方が植えたカワヅザクラの並木です。

撮影データを見ると、2018年は3月18日、2019年は3月11日。そして今年は3月2日現在、すでに満開です。年によって一週間~10日のずれが生じるのが花撮影の難しいところでもあります。

カワヅザクラが京都で見られる場所としては、この淀水路の他にも、右京区の車折神社、清凉寺、上京区の一条戻り橋の東、中京区三条大橋の西、東山の雲龍院など、あちこちにあります。規模としては、上記の淀水路が最大です。

その他の早咲き桜としては、左京区の長徳寺(オカメザクラ)、百万遍知恩寺(フジザクラ)、山科区の勧修寺(タイワンザクラ)、右京区の虚空蔵法輪寺(マメザクラ)、上京区の平野神社(モモザクラ)、下京区の渉成園(シュゼンジカンザクラ)などを挙げておきましょうか。
 

2.シダレザクラ

 京都府の花に指定されているのが、シダレザクラ。私も、個人的にもっとも思い入れのある品種ですし、京都らしさあふれる桜だと思います。祇園「円山の夜桜」はこのシダレザクラです。江戸時代に生まれたソメイヨシノに比べずっと古く、糸のように細い枝が上から下へ吊り下がって咲きます。そこから、昔はイトザクラと呼ばれていました。能の中にも、イトザクラの名が出てくるほどです。

 写真は円山公園。カラスの害などで一時、樹勢が衰えましたが、桜守り 佐野藤右衛門さんの治療の甲斐もあって、元気を取り戻しているようにも見えます。

 古跡にはシダレザクラが多く、主だったところだけでも、京都御苑(旧近衛邸と出水のイトザクラ)、上京区の本満寺、千本釈迦堂、京都府庁、平野神社、左京区の真如堂、金戒光明寺、東山区の高台寺、円山公園、祇園白川ぞい、山科区の大石神社、毘沙門堂、伏見区の醍醐寺、長建寺、右京区の天龍寺、常寂光寺、車折神社、南区の東寺、西京区の十輪寺、勝持寺、善峯寺など。

一本一本に名前を付けられることも多く、樹の形もそれぞれに個性が豊かです。ちょうど人の髪型のようで、片方だけ流れるようになっているもの、縦に細長いもの、横長に伸びているもの、帽子のように均整の取れたもの…比べるだけで楽しくなります。

 開花はソメイヨシノよりも5日~10日ほど早いことが多く、例年は3月終盤に撮影に行きますが、今年は気温が高いため、どうなるかは注意が必要です。新聞や気象会社の開花速報を見ておけば外れにくいと思います。

 開花時期もずれがあり、やや早いのは京都御苑と平野神社、十輪寺など。醍醐寺や毘沙門堂、円山公園などはそれより遅れて見頃に入ります。北のほうが寒い、南のほうが温かいというわけでもないようです。面白い傾向です。
 

3.ヤマザクラ

 どちらかといえば、京都よりも奈良の吉野で特に有名かもしれません。花が咲くのと同時に葉っぱが出ます。こちらも歴史ある品種で、あるいはシダレザクラよりも古いでしょうか。自然に繁殖するために他の品種と混ざりやすく、早めに咲くもの、遅めに咲くものがあり、一概に早い、遅いを決めにくい桜です。ソメイヨシノとそれほど変わらない時期、前後あり、と覚えておいてください。

 京都では、一箇所あたりの本数は控えめで、社寺の境内に一本だけ、という感じですが、広く分布しており、歩いているとちらほら見かけます。上京区の京都御苑、相国寺、本満寺、左京区の詩仙堂、右京区の車折神社、大覚寺、天龍寺…また、山沿いを歩いていると立派な古木に出会うことも。大きく育ちやすいのもヤマザクラです。

 ヤマザクラを目当てに出かけるというよりも、他の桜を見に行って一緒に楽しむような立ち位置かもしれません。

4.ソメイヨシノ

 日本でもっとも植えられている桜の品種で、天気予報で見る「桜の開花予測」とはソメイヨシノの開花のことを指します。江戸時代に品種改良して作られ、自然繁殖できないので接ぎ木によってしか増やせません。全固体の遺伝子が同じで、それゆえに一斉に開花し、花の密度が高く華やかなので、近現代になって日本中で植樹され爆発的に広まりました。近年の傾向としては、3月の15日~31日の間に開花、そこから一週間前後かけて見頃にはいり、見頃が続くのは4~5日間。他の品種に比べても見頃の期間は短めです。
 (実例:2019年は3月27日開花、4月6日満開:気象庁)

 チャンスが短いのは難点ですが、開花情報は各種メディアを通じて豊富に伝えられていますので、調べやすいです。また、ソメイヨシノの花期は、ちょうど桜の時期の真ん中にあたるため、見頃を外してしまった場合、早咲きや遅咲きの品種が代わりに咲いている可能性が高く、それで救われることもあるでしょう。

 ほとんどの社寺に少なくとも一~二本はあり、網羅することもかんたんではありませんが、京都で有名なのは哲学の道や鴨川(特に今出川以北の賀茂川)、嵐山公園、岡崎疏水、インクライン、山科疏水、伏見の濠川、八幡の背割堤などでしょうか。

写真はインクライン。2010年前後には穴場でしたが、インターネットなどで爆発的に知名度があがり、いまでは夜明け前からカメラを持った人たちが待機しているぐらいの名所です。たしかに、見事です。
 

5.ベニシダレとヤエベニシダレザクラ

 これも大変京都らしさを感じる品種です。歴史は比較的あたらしいようで、近代に入って、平安神宮に東北地方から献木されたという記述を読んだことがあります。字面を見るとシダレザクラと混同しそうですが、咲いてみれば、色がはっきり違うので、大丈夫。名前の通り、色味が濃いのです。

 花びらの形によって、一重のものと八重のものがあります。私の周りでは一括してベニシダレと呼んでいます。

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この記事を書いたKLKライター

写真家
三宅 徹

 
写真家。
京都の風景と祭事を中心に、その伝統と文化を捉えるべく撮影している。
やすらい祭の学区に生まれ、葵祭の学区に育つ。
いちど京都を出たことで地元の魅力に目覚め、友人に各地の名所やそれにまつわる歴史、逸話を紹介しているうち、必要にかられて写真の撮影を始める。
SNSなどで公開していた作品が出版社などの目に止まり、書籍や観光誌の写真担当に起用されることになる。
最近は写真撮影に加えて、撮影技法や京都の歴史などに関する講演会やコラム提供も行っている。

主な実績
京都観光Navi(京都市観光協会公式HP) 「京都四大行事」コーナー ほか
しかけにときめく「京都名庭園」(著者 烏賀陽百合 誠文堂新光社)
しかけに感動する「京都名庭園」(同上)
いちどは行ってみたい京都「絶景庭園」(著者 烏賀陽百合 光文社知恵の森文庫)
阪急電鉄 車内紙「TOKK」2018年11月15日号 表紙 他
京都の中のドイツ 青地伯水編 春風社
ほか、雑誌、書籍、ホームページへの写真提供多数。

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やすらい祭の学区に生まれ、葵祭の学区に育つ。
いちど京都を出たことで地元の魅力に目覚め、友人に各地の名所やそれにまつわる歴史、逸話を紹介しているうち、必要にかられて写真の撮影を始める。
SNSなどで公開していた作品が出版社などの目に止まり、書籍や観光誌の写真担当に起用されることになる。
最近は写真撮影に加えて、撮影技法や京都の歴史などに関する講演会やコラム提供も行っている。

主な実績
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いちどは行ってみたい京都「絶景庭園」(著者 烏賀陽百合 光文社知恵の森文庫)
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