ひなまつりのごちそう

3月3日は桃の節句。京都では旧暦で祝うところも少なくないが、おひなさんを飾って、女の子のお祭らしい食べもんをいただくならわしである。その食べもんも、東とは違う京都ならではのものがある。

ひな飾りは家に合わせて

新暦では梅が盛りの時期、そして旧暦では桜の花見が始まるので、その間に挟まれて桃は影が薄い。ぽってりと濃い桃色のまるこい花はいかにも幼い女の子らしいのであるが。私自身も写真を探したけど、梅と桜はあるのに桃のは一枚もない。観賞用に植わっているのも思いつくのは京都御苑と二条城だけ。それさえ同時に楽しめる梅と桜に気を取られ、「桃も咲いてるよ」ということをスルーしてしまう。ごめんよ、桃。

とはいえこの影の薄さゆえ、節句の象徴としてクローズアップされるのにふさわしいとも思う。さて、そんな桃の節句には、おひなさんを飾る。お金持ちの家は段飾り、貧乏な、もとい簡素に祝う家ではお内裏様(男雛女雛の対)だけ、もしくはミニサイズのや色紙やったりする。我が家も男雛女雛だけ、しかもさらにコンパクトな立ち雛であった。今思えば、出したり仕舞うたりするのに簡単で、飾る場所に気も遣わんので、無精な人間には良かったかもしれん。

写真は以前、鞆の浦へ行ったとき、旧家に飾ってあったおひなさんである。江戸時代後期に関西で流行した御殿飾りだそうで、紫宸殿を模した建物にお内裏様、そしてお付きの者はぞろぞろとその下に並んでいた。もちろん家財道具もたいへん立派やったので、相当なお家柄やろう。ここまで大きいと収納する場所も取るなと思うのは、庶民の発想である。

ほんまもんの「ひなあられ」

さて、おひなさんには桃の一枝を飾る。きちっと生ける家もあれば、菜の花と一緒に投げ入れる家もある。そして節供は菱餅とひなあられ。近年、京都の学級給食には菱餅型の三色ゼリーが出て、それが人気なんやけど、私が子どものころは菱形のお餅または砂糖の固まりであった。生姜板みたいな甘いだけの固まりは、子どもの口にも甘すぎて食べる気にならず、あれはどないしてたんかなぁ。削って煮炊き物に使うてたんかもしれん。

ちなみに菱餅って元はゴギョウ(母子草)を練り込んだ草餅やったそうで、最初は緑一色やったそう。それが白との二色になり、桃色が加わって現在の形に。三色には桃色が魔除け、白色は子孫繁栄と長寿、緑色は厄除けの意味が込められている。

そして、ひなあられ。場所によってはお米のポン菓子やったり、おこしを丸めたものやったりするそうであるが、京都をはじめ関西では文字通り「あられ」だ。コロコロとかわいいあられは醤油・サラダ・海老・青海苔・砂糖の味が付き(全部甘い製品もある)、スペシャルはチョコ。チョコのは数が少ないので、目ざとく見付けて口に放り込んだ者勝ち!

こちらも元は、菱餅を砕いて焼き上げたのが起こりといわれ、その伝でいくと関西のあられが最も原型を留めていると思う。

京都の「ばら寿司」

そしてごちそうは、ばら寿司。ちらし寿司ともいうが、お寿司屋さんのみたいに生魚がいっぱい載ったのとは違う。関東では五目寿司というのかな、野菜や乾物を甘辛く煮て混ぜこみ、魚貝はせいぜいちりめんじゃこぐらい。お皿に盛って錦糸玉子と紅生姜などをあしらう。このシンプルさが後を引くのだ。

ちなみに丹後のほうでは同じ「ばら寿司」でも鯖缶のそぼろを酢飯にサンドしたものを指し、こちらもおいしい。写真はアレンジで、京都のちらし寿司をデコレーションケーキ型にして、クリームの代わりに鯖缶そぼろを挟んである。お子様に大ウケであった。

ネーミングがユニークな「ひちぎり」

そしてお菓子は「ひちぎり」、漢字では「引千切」。ころんと丸いお餅にあんこ玉を載せたもので、たいてい白・桃・緑の三色にあんこも白・こし・粒が載る。生地は庶民的なお餅屋さんなら団子かういろう、和菓子やさんならこなしのことが多いけど、いずれも丸めた先っちょが切れているのが特徴。すなわち、「引きちぎって作る」から「ひちぎり」なのだ。

なんとも雑な印象やけど、江戸初期の宮中であまりに来客が多くて餅を丸める暇がなく、引きちぎったまま供したのが起こりとか。ほんまに雑やったんが、名前にも出ているというところが雅でなくてほほえましい。

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川添 智未

京都市北区生まれ、中京区在住。たまねぎ工房の屋号でライター・フードコーディネーターをしている。酒好きが高じロ利酒師・日本酒学講師となって酒セミナーを開くほか、京の食文化ミュージアムあじわい館「食と酒のかたりべ」でもある。飲み食い以外の趣味は犬で著書に「洛中いぬ道楽」「いろこよみ-風景に見る日本人の心-」、相方は犬用介護ハーネスの玉葱工房(http://www.tamanegi.com)
ブログ【京都・町家ぐらし】

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