【京都人度チェック①】「お千度」ってどんな行事?

私の住む上京には、お寺・神社や町家がぎょうさんあります。「もうそれだけで十分京都らしい。そんな寺社や町家をずっと守ってね」ってみなさん言わはります。確かにそれらは京都らしいことは間違いない。そやけど、なんかそれだけでは「形」の文化でしかないように思えて、ちょっと違和感がありました。ホンマにそれだけ守ってたらええのん?それだけで京都らしさが無くならへんのん?いや、やっぱり、そこに住む人の暮らしの文化を守らなあかんやろ。ほんまもんの「京都人」を育てていかんと、京都らしさは守られへんのやないかと、私はそう強う思てるのです。

季節ごとにも、地域ごとにもある暮らしの文化。私の住む上京区あたりにも、この辺独特の年中行事や習わしなどの文化があるのですが、上京に住んでいても、そういったことを知らん方が増えて来ているように思えます。

そこで今回から、私が主宰する「京都上京KOTO-継の会」で行っている「京都人度チェック」で、暮らしの中にある行事や習わしを一つずつチェックしていきます。古くからある習わしや行事を知ってもらいたい、そんな思いで作ってきたものです。京都の方は、今更聞けへん暮らしの文化を見てください。実践もしてもろたらなお嬉しいです。京都人度がランクアップしますよ!よそに住んだはる方は、京都人のわけの分からん部分をのぞき見できるかもしれません。
さぁチャレンジ!

まずは春に行われる地域の行事から…

京都の神社で行われる「お千度」とはどんな行事でしょうか?

「お千度」と聞くと、なんかちょっと似てるなぁと思いつくのは「お百度」。私なんか「お百度」ていうと、時代劇のシーンを思い浮かべてしまいますねぇ。町人の娘がお寺や神社でお参りをしている姿。雪の降る夜、おとっつあんの病気が治るようにと裸足になって、竹串を持ってお百度石との往復をする。足はしもやけで真っ赤…つまづいてもまた立ち上がって雪の上をお堂に向かって小走りに駆けて行く…とか、一人きりでちょっと暗いイメージ。

さて、「お千度」はどうなんでしょうか。行くところは神社ですが、どこでもええということではなくて、必ず氏神さんなんですね。そして行くのは一人だけやない。町内会の人がぞーろぞろ集まって行くのが基本です。まぁ「お百度」みたいな悲壮感はないですね。いや見る限り絶対楽しそうです。願掛けの内容も個人的なことというよりは、町内安全など、町内みんなの幸せを願ったものがほとんどですね。

季節も大体決まってて、4月の桜が咲いてる時か、10月終わりから11月にかけての紅葉のころ。どっちにしても気候のええときです。神社さんにはあらかじめお詣りをする日をお伝えします。大挙して行きますしね。時期が限られてるのでたいがいは他の町内と被ってて、境内にはたくさんの人が集まったはります。4月の桜の下、あっちこっちでペチャクチャお話にも花が咲いてます。おんなじ町内でも久しぶりに顔を合わせる人がいますし、格好の交流の場ができるわけです。

で、実際は何をするかというと、今はほとんどの町内が、本殿に上がってお祓いをしてもらうだけになってます。そやけど、昔はもっと面白いことをやったはったんですよ。いや、それが本当のお詣りの姿やったんですが…

何をするかていうと、みなさん揃って竹串や木札を持って、ぞろぞろと本殿や拝殿の周りを回るのです!これ、知らん人が見たらホンマ謎の行動ですよ。面白い言うたら怒られるかもしれんけど、子どもらは楽しんでますねぇ。

このとき難儀なのは、「お千度」なので「千回」回らんとあかんわけです。「お百度」やったら百回で済むのに…いやそういう問題やないんですが、実際千回も回れますか?時間どれだけかかるのん?!こんな忙しい時代、「そんなんやってられへんわ!」て帰る人が出て来そうですよね。

しかし大丈夫です。ここはみなさん智恵も回ってます。
例えば、町内の人50人で行ったとしたら、
1000÷50=20
そう、みんなで分担!
皆で20回回ったらええことになります。

もっと賢い(ずるい)人が昔からいたようで、
「700回」とか書いてある串を用意しておいて、
「これ持って回ったら700回回ったことになる~」ということにするらしいのです!
すると
(1000-700)÷50=6 になる。
6回回ったらええ、ていうことですか?
楽ですね~

まぁこれはどの神社にもあるというわけではないので、
大体は
1000÷(参拝者の人数)
ということに収まるようですが。
はい、みなさん正直者ですよ!

今宮神社さんのお千度にお付き合いしたことがありますが、まだまだ多くの町内がお千度詣りをしたはりますね。今も信心深い氏子さんが大変たくさんやはります。こちらには今でも100町ばかりがお詣りに来られるそうですが、残念ながら本来の拝殿をぐるぐる回る方式をとるお町内は2つだけ。それでも昔ながらのお詣りの仕方を残したはるところがあるとは、さすが古いものが残る上京やなぁと思いましたね。

今宮神社にあるお千度用の竹串。

今宮神社にあるお千度用の竹串。

お詣りの仕方はこんな感じ。

こちらの町内では、竹串の代わりになる木札を自前で持ったはりまして、それが入った箱を拝殿前に置き、みなさんそれぞれ20本ほど持って時計回りに回るのですが、面白いのはその途中にする作法。拝殿の四隅を曲がる時、自分が持っている木札で、ちょうど腰の高さあたりにぴゅっと出ている隅木(すみぎ)の上を「ツン」て突くのです。ほんのちょっとですよ。傷つけるほどやありません。それをその日来た町内の人が全員やる。

こちらの町内は時計と反対回りですよ。今宮さんに据え置きの竹串を使(つこ)うたはります。

さぁ、それでですね、この隅木をよう見てください。

ほれ!

えぐれてる!!

1つの町内の方が全員木札や竹串でここをつついて行かはるのです。
ちょっとつつく回数を数えてみましょか。

50人いたら50回。
それを20周すると1000回。
1つの町でね。

昔はほぼ全部の町内がやったはったそうなので、
1000(回)×町内数。

いまでも100町あるので倍はあったでしょう。
行った町が200町として、
1000(回)×200(町)=20万回。
1年間でね。

それを何百年もしてきたわけです。
300年はこの行事が続いてるとして、
20万回×300(年)やとすると…
6000万回もつつかれた?!!

…そら、えぐれもしますわ。
「雨だれ岩をもうがつ」みたいに
「ツンツン隅木をもうがつ」。

私これ見て一人感動してました。
この穴は、氏子さん一人一人の思いの深さ、信仰心の篤さの表れやな、と。

この世の中、疫病・天災など、どうにもならんことがいっぱいありますが、そのたびに京都の人はこうやって祈りを捧げて乗り越えてきました。このえぐれた隅木を見てると、今度もきっときっと乗り越えられる、そう強く確信しましたよ。

ほんまはこの後で「直会(なおらい)」ていうて、みんなで会食するんです。今宮神社さんの場合は、たいがいあぶりもち食べてわいわいしやはります。昔はお花見や運動会までした町内もあったとか!「お千度」は神事だけやなくて、レクレーションも兼ねてたわけですね。よく「地蔵盆」が町内のコミュニケーションを図る手段になっているといわれますが、きっと「お千度」もその1つやったに違いありません。

さぁ、長うなりましたね。
ほなまた、次も「京都人度チェック」やりましょね!

注:令和2年(2020年)4月の「お千度」は、新型コロナウイルス感染拡大の影響でほぼ中止になるとのことです。来年またここでぐるぐる回る風景が見られることを切に祈っております。

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この記事を書いたKLKライター

鳴橋庵 店主・京都上京KOTO-継の会 会長
鳴橋 明美

 
上京の、形になりにくい文化(お祭・京都のおかず・伝統工芸・京ことば)の継承のお手伝いをする「京都上京KOTO-継の会」会長。
「鳴橋庵」店主。
「能舞台フェスタ in 今宮御旅所」実行委員会会長。

組紐とお抹茶体験を鳴橋庵店舗にて行っております。
合間合間に京都のお話を挟みつつ、楽しく体験していただけます。
お申込みは「鳴橋庵」HPまで。

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