点になった大文字 -LED点灯が暗示したもの-

※本稿は2020年11月掲載の記事です

生活様式を一変を余儀なくされた今年・・・大文字五山送り火も例外なく影響を受けていました。
大文字の五山送り火は、お盆の行事。お盆は、京都にしかないものではありません。
五山送り火は、ご先祖があの世にお帰りいただくというのがこの行事のおこりです。
しかしメディアやSNSにより観光という視点でとらえられるようになっている近年かもしれません。
観光という視点は、点灯しなければ観光経済がまわらない、ただし点灯すれば人が集まりクラスターの可能性がある。
クラスターはださないように。
今年意見をいただいた事で今までになく行事という視点と観光という視点での課題をいただいたところです。
ただ大文字保存会の収入面では支えになるというものではありません。
文化継承に活動経費、資金も大きな課題となっています。

五山送り火、山の管理などはそれぞれ事情が異なります。
大文字で言えば山を管理する、8月16日の点火の準備は、2月からスタートしています。
今年もコロナ渦の影響を受ける事までの想定なく準備はスタートしていました。


とはいうものの山の管理や維持、薪わりや山上まで薪を運ぶ作業など大文字送り火という文化や行事の継承は、どこも同じ課題を持つように、大文字保存会にもあります。
高齢化や家族形態の変化で、継続するには今までと同じ形では厳しい、それは今年に限らず課題となっています。

ひとつの方法として、大文字保存会をNPO(特定非営利活動法人)にした経過があります。
歴史の流れの中で現在の形となった「大」の字の送り火を継続するために、地域活動の形、組織であれば存続できるのではないか?という思いでした。

左京・食と伝統の文化フェスタ「伝承燃ゆ」

それは、五山送り火、大文字だけのことではないことなのかもしれません。
今後の伝統継承について考える機会として昨年左京区役所で開催された「左京・食と伝統の文化フェスタ」の中で行われたパネルディスカッション「伝承燃ゆ」では、左京区内に伝わる山間地域の行事に関わる方々が伝承にまつわる現状と課題を話したものでした。

現状をそれぞれが伝え、今後少子高齢化、人口減少のなかで文化を守っていくのか?
同じ形が無理であればどう向き合っていく事ができるのか?
先の議論にまでは至りませんでしたが、課題を行政も含めて共有するという事が確認できた場でした。
今年のコロナ禍や今後の伝統継承への困難な課題を予測するかのようで不思議ですが、今後昨年議論ができなかった事を行政がどのように関わってくださるのか?
期待するところです。

パネルディスカッションで語る筆者

今年の大文字の点火は、大乗仏教、五行七十五法という教えから今回は、五行プラス中心の仏様を併せて六点を灯すことになりました。
この形では初めての試みでしたが、ご先祖様を送るというお盆の行事を行う意味で決断した事です。

もちろん護摩木なども販売、受付もなく、入山規制など例年にない対応もしてきました。

その保存会の対応に追われる中で、ひとつの大きな注目や関心をもって見ていただいているという事も責任を感じた出来事がありました。

例年の大文字送り火
今年の大文字送り火

8月16日の大文字点灯に先駆けて何者かがLEDで大文字の点灯という事がおこりました。
点灯された意図も誰が実施したのかもわからないままですが、火床に電球を設置し、点灯し、撤去し下山するなどは、一人でできることではない事。
ケガや事故につながらなかったとはいえ、保存会の関知しないところで起こったことであるだけに、山の管理状況や、16日の点灯を前に「犯人捜し」のような世間の話題になった事、行政やメディアからも問い合わせやご心配をいただき大きな課題や責任をさらに感じたところです。
しかし山の管理に実情はといえば、緊急事態宣言から入山についても注意喚起をマスコミにも協力いただき伝えていても、自粛のストレスなど入山による事故などが相次いでいました。
防ぐことも取り締まることもできずただただ地元は対応に追われていたのが現実です。
これは今年に限らず、またどの山間地域にもレジャーの事故の対応は、地元に負担となっている事はなかなかニュースにはなりませんが、行事の継承と同時に地元では行事当日だけでなく自然に向き合い暮らしているという事はなかなか伝わりません。
関心を持っていただく事や自然にふれていただく事も大切な事、と同時にそれぞれの生活や行動に責任を持っていただくなどのルールやマナーについてもお互いに確認する事が必要なのではないかと感じるこの頃です。

大文字の火床

大文字も2年前の台風警報で保存会の護摩木などは受付を中止になりました。
保存会は護摩木などの収入や補助金なども受けることがなくボランティアなどで開催・維持をしているところです。
台風被害は、他もそうですが大文字も被害をうけているのが現状で、まだまだ倒木や樹木の植林などは、台風被害がなくても山の荒廃と獣害に追われるばかりです。
山の管理をできる人も少なくなり、ますます自然と向き合うことが求められる事も一方での課題です。

今回伝承継承について当たり前のようにあったことを維持してゆくことが困難であることが白日の下に晒されたこと。
今年もしコロナ渦がなければ課題を答えというものがない中で、先延ばしになり、作業や天候など目先のことに追われていただけで終わったのかもしれません。

先祖から受け継いだものを当たり前にしていた時代から文化を維持することが生活様式、生活環境の変化、長寿、少子化・・・行事に関わる人の減少という社会の変化から生まれた課題は同じではないだろうか?
今の生活様式を変えることも難しいが、ただ文化をどのような形にしても継承する事はなくしてはならないと感じます。

8月の送り火から3ヶ月近くが経った今、自分たちのやり方を先達が行っておられた趣旨に戻せたと実感しております。
只、これからの50年、100年先を考えた時、送り火だけでなく京都古来の伝統文化の継承のやり方にも限界があるのと思っています。
答えは、ひとつではないでしょうが、与えられしこの時期に、大文字や送り火など大きな行事だけでなく京都、あるいは全国における伝統継承の課題をこのようなサイトなどの発信を通じ、議論される事を願います。

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この記事を書いたライター

 
NPO法人大文字保存会理事長(75歳)
令和元年より大文字保存会理事長就任
同年より京都五山送り火連合会会長就任

|大文字保存会理事長|大文字/伝統/お盆/送り火