その年は稲が不作で、村人たちは上人に差し上げる食物がないことを嘆き悲しんだが、幸いに大根だけは豊作で、収穫したての新鮮な大根を塩だけで炊いて差し上げたところ、親鸞聖人は村人たちが丹精込めて炊いた大根をたいそう喜ばれ、そのお礼として、薄の穂を束にして筆代わりとし、「歸命盡十方無礙光如來」の十字名号を書いて寺に納められたと伝えられている。
この故事に因んで、今日では報恩講行事の一環として行われているのが大根焚である。
いつしかこの大根には中風除けの効験があるとの伝承が生まれ、近年では京都内外から大勢の参拝者があり、毎年3000本の大根を準備しているという。
なお、親鸞聖人が書かれたという名号の掛け軸は今も大切に伝えられ、大根焚当日には本堂に掛けられる。
また本堂の裏には、親鸞聖人が筆にしたという薄に因んで、「薄塚」が祀られている。

了徳寺に伝わる親鸞聖人のような高僧が地域へ来訪したとする伝承には、先に紹介した「大師講」の行事と共通するものがあり、大根焚にも、冬至が近いこの時期に遠いところから神々がやってきて人々に何らかのメッセージを残してゆくという、古い来訪神の信仰を垣間見ることができる。
この時に訪れ来る神仏は、弘法大師や親鸞聖人などすべて普通では滅多に謁見することができないような偉大な存在であり、このような高僧がまさに来訪神と同様の存在としてとらえられているのである。
そしてこのような偉人、すなわち異界からやってくる神的存在への施し物、供物として、京都ではこの季節を代表する野菜としての大根がクローズアップされたのではないだろうか。
その意味では、「大根焚」は火を焚くという点からすれば、御火焚の系譜を直接に引く行事であり、また内容からすれば、広義の意味での大師講の一類型であるといえるかもしれない。

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この記事を書いたKLKライター

佛教大学歴史学部教授・公益財団法人綾傘鉾保存会理事
八木 透


1955年(昭和30)年 祇園祭鉾町の家系に生まれる。
京都生まれの京都育ち 生粋の京都人
同志社大学文学部卒業 佛教大学大学院博士後期課程修了 文学博士
専門は民俗学

世界鬼学会会長、日本民俗学会監事、京都民俗学会会長代行・京都府および京都市文化財保護審議委員 ほか 多数歴任

毎年、祇園祭山鉾巡行および五山送り火には実況解説役としてテレビ出演している。

『婚姻と家族の民俗的構造』(吉川弘文館)、『男と女の民俗誌』(吉川弘文館)、『京のまつりと祈り-みやこの四季をめぐる民俗』(昭和堂)、『日本の民俗信仰を知るための30章』(淡交社)など、著書多数

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1955年(昭和30)年 祇園祭鉾町の家系に生まれる。
京都生まれの京都育ち 生粋の京都人
同志社大学文学部卒業 佛教大学大学院博士後期課程修了 文学博士
専門は民俗学

世界鬼学会会長、日本民俗学会監事、京都民俗学会会長代行・京都府および京都市文化財保護審議委員 ほか 多数歴任

毎年、祇園祭山鉾巡行および五山送り火には実況解説役としてテレビ出演している。

『婚姻と家族の民俗的構造』(吉川弘文館)、『男と女の民俗誌』(吉川弘文館)、『京のまつりと祈り-みやこの四季をめぐる民俗』(昭和堂)、『日本の民俗信仰を知るための30章』(淡交社)など、著書多数

|佛教大学歴史学部教授・公益財団法人綾傘鉾保存会理事|祇園祭/五山送り火/火祭/御火焚/大根焚

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