このシリーズのエピソード5は「僕はギタリスト」というタイトルでした。

ただし、生来の音感の悪さを克服すべく悪戦苦闘しながら練習に励む、ド素人ギタリストです。
そのエピソードの中で、竹のアコースティックギターの事を書きました。木とは異なる音響特性を持っている竹を活かした事例で、ヤマハから発売されたのが約20年前。
補足しておきますが、その企画や開発、製造や販売に至るそのプロジェクトに、僕は、、、一切関わっておりません。楽器屋さんに注文して、1本買っただけ、です。

竹のギターのくだりは、さておき。竹は楽器として古来より使われています。

古来の音楽!と言えば、雅楽。神社で聞くMUSICです。
雅楽の三管は全て、竹で作られた楽器です。三管とは、鳳笙[ほうしょう]・龍笛[りゅうてき]・篳篥[ひちりき]の3種の管楽器。
鳳笙は径が1㎝前後の細いマダケ17本を円形に立て並べたもので、金属製のリードが竹筒に共鳴して音が鳴るという、パイプオルガンと同じ構造。

手前が笙に使う特に細い真竹白竹で直径12㎜。奥が太めの真竹白竹で直径9㎝ほど。

手前が笙に使う特に細い真竹白竹で直径12㎜。奥が太めの真竹白竹で直径9㎝ほど。

鳳笙(ほうしょう)

鳳笙(ほうしょう)

篳篥は、タテ笛。つぶした葦を2枚重ねて振動させるダブルリードの楽器で、オーボエと同じ。
龍笛はヨコ笛。リードをもたないエアーリード構造。フルートです。
神社で奏でられる音楽は、これらの楽器のサウンド。アジア大陸各地にも似た楽器があるらしく、日本には奈良時代に、中国・朝鮮半島を経て雅楽とともに伝わったそうです。

龍笛(りゅうてき)と篳篥(ひちりき)

龍笛(りゅうてき)と篳篥(ひちりき)

尺八[しゃくはち]も、竹で作られた楽器です。ギターの場合、弾く位置をずらすことで、1本で簡単にキーを変える事ができます。オルガンやキーボードでも、そうなのですが、尺八の場合は、キー毎に調音してあるようで、キーがかわる場合は楽器そのものを変える仕組みです。G用とかD用とか、キー毎に分けられているブルースハープと同じ性格ですね。

尺八

尺八

幾層にもある竹の根の跡が、尺八らしい姿です。真竹[マダケ]のいちばん根元の、肉厚があり節間の短い部分からしか材料が取れない為、竹1本から尺八1本しか作れない、ということになります。
僕は、この細かな節間が、尺八の音を出す上において、一番大事な事なのだと思っていました。が、どうも、そうではなく、飾り、だそうです。確かに、根元のない尺八も作られています。でもやはり、そこがないと、何となく物足りなく見えます。
いやぁ、プレーヤーにとって、楽器のビジュアルは重要事項です。誰だって、自分のお気に入りの、カッコいい楽器を弾きたい!

尺八に使う真竹白竹の根の部分

尺八に使う真竹白竹の根の部分

根を磨くと尺八に見られる丸い模様が現れる

根を磨くと尺八に見られる丸い模様が現れる

篠笛[しのぶえ]という楽器も竹でできています。横笛で、いくつかの穴を開閉でメロディーを奏でます。こちらは女竹[メダケ]という、どうみても竹なのだけれど笹の一種に属する妙な品種です。ただ、いわゆる“タケ”とは節の形も性質も違います。マダケが力強い形態をしているので男竹、メダケは優しい形状なので女竹。《※今の時代、その区別は的外れ、ですが。》

篠笛(しのぶえ)

篠笛(しのぶえ)

この女竹は、忍竹[シノブタケ]とか篠部竹[シノベタケ]とか20以上の名前をもっています。日本各地で自生してきた竹なので、その地その地で付けられた名前が存在して、混在しているのでしょう。《※なので、竹屋としては、メンドクサイ。「女竹と忍竹は同じものです」という説明を何度したことか。》
そして、篠竹[シノタケ]という別名も持っています。篠笛を作る竹だから篠竹なのか、もしくは篠竹で作る笛だから篠笛なのか。タマゴが先か、ニワトリが先か。
これらの楽器に共通しているのは、吹奏楽器。筒であることが必要な楽器です。
節があって、空洞である。そのことを生かしたからこそ、はるか昔に成立した楽器です。

篠笛に使う女竹は節の長い竹が必要。奥は女竹の煤竹

篠笛に使う女竹は節の長い竹が必要。奥は女竹の煤竹

節と空洞。音に関わるものが、もう一つ。
バランスの合う位置で竹を取り付け、そこに一滴ずつ水を落とし、水の重さでシーソーのように竹が傾き、水があふれだすタイミングで竹が反動し、竹のお尻が石にあたって“コ~~ンン”。庭にある鹿脅し(シシオドシ)です。確かに“澄んだ音”がします。ある意味、これはパーカッション。

竹と音楽。意外と深い関係があります。
中島みゆきさんの曲には『竹の歌』という作品があります。
 ♪私がなりたいものはといえば 地下に根をはる あの竹林♪
自然の厳しい環境に「ひれ伏しながらも、決して折れない竹」。そうありたいものです。

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この記事を書いたKLKライター

銘竹問屋四代目・ギタリスト
利田 淳司

 
1967年京都市生まれ。
関西学院大学法学部卒。
1915年創業の銘竹問屋・(有)竹平商店4代目、代表取締役。
NHK「BEGIN JAPANOLOGY」「美の壺」などのメディアへの出演や「第8回世界竹会議」の開催組織委員・「日本人の忘れ物知恵会議」のパネラー等を務め、日本の銘竹の美を海外・国内に向け発信する活動を行っている。

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利田 淳司

 
1967年京都市生まれ。
関西学院大学法学部卒。
1915年創業の銘竹問屋・(有)竹平商店4代目、代表取締役。
NHK「BEGIN JAPANOLOGY」「美の壺」などのメディアへの出演や「第8回世界竹会議」の開催組織委員・「日本人の忘れ物知恵会議」のパネラー等を務め、日本の銘竹の美を海外・国内に向け発信する活動を行っている。

|銘竹問屋四代目・ギタリスト|竹/明智藪/嵐山/祇園祭/ギター

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