実は私、高校生のころ失踪した友人を捜すため、夜中の深泥池に行ったという経験があります。(あらかじめ言っておきますが、この話にオチはありませんこと、ご承知のうえで読んでください)

ある日、いつものメンバーで遊んでいたのですが、友人F君の表情が冴えません。「飯でも行こか」と誘っても「俺はええわ」とそそくさと帰っていきました。「あいつ、どーしたんやろ?」と気にはしたものの、青春に悩みはつきもの。スグ立ち直るやろと思ってました。

ところがその夜、F君のお母さんから「息子がまだ帰ってこない」と電話が入ります。「え?どうゆうこと?!帰ったんとちゃうん?」です。とりあえず、友人たちに連絡し捜索隊を結成しました。ゲームセンター、パチンコ屋、ビリヤード場、マクドナルドなど、F君が居そうなところをシラミつぶしに捜しますが、それらしき姿は見当たりません。最初はちょっとした探偵気分だったのですが、だんだんと「マジでヤバいんとちゃうか」という雰囲気になります。もう少し回ってみるか?と再び捜索にでるも手掛かりはなし。みんな無言状態になります。同時に私の脳裏にはある場所が浮かんできていました。そう、自殺の名所・深泥池です。たぶん、みんなも同じことを考えていたと思います。でも言いだせない、妙な緊張感が走ります。

闇夜に包まれた深泥池

闇夜に包まれた深泥池

誰かが沈黙のダムを決壊するがごとく言いました。「最後にミドロ(深泥池の略)に行ってみよ。それで見つからんかったら、しゃーないで」と。全員、無言でうなずき深泥池に向かいます。ピーンと張りつめた空気が私たちにズシリとのしかかったまま、気がつけば池に到着していました。「シーン………」と静まりかえった深夜の深泥池。チラリと見やった時計の針は25時を回っていました。街灯の明かりはあるものの、気分的には「漆黒の闇」です。懐中電灯を片手にぐるりと一周。誰もが「どうか、こんなところでF君の原チャリや靴に出合ったりしませんように…」と祈りながら、念のためもう一周…。幸いにも“形跡”は見つかりませんでした。ここで捜索は断念。ものすごく後味の悪いまま解散しました。

で、結局どうなったか?翌朝F君から無事を知らせる電話が入りました。いろいろムシャクシャしていて、家に帰りたくないので、従兄弟のマンションに転がり込んでいたそうです。今なら携帯電話があるので、一発で解決する話ですが、時は昭和。電電公社がNTTとなったばかりのころでした。

さて、ここまで読んでいただいた皆さんにとっては、「なんやねん!それ」ですよね。スミマセン。でも、私と友人たちにとっては、とにもかくにも「無事で何より」だった忘れられない思い出です。ただひとつ言えること。深泥池という舞台装置が事件のインパクトを倍増させたことは間違いありません。今でも深泥池を通るたびに、あの夜の漆黒がよみがえります。

私の思い出は、たかだか30数年前の出来事ですが、この池は14万年もの間、数々の伝説、事件、噂(?)の舞台となってきました。太古の昔と変わらぬ「シーン」という音とともに、深泥池は今日も佇んでいます。

(編集部/吉川哲史)

<参考文献>
「深泥池の自然と暮らし」生態系管理をめざして/深泥池七人会編集部会
「深泥池における水・熱収支に関する研究」京都大学防災研究所年報 第50号/京都大学大学院工学研究科編
京都府レッドデータブック2015/京都府ホームページ
「天然記念物 深泥池生物群集」/京都市ホームページ 

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この記事を書いたKLKライター

八坂神社中御座 三若神輿会 幹事 / (一社)日本ペンクラブ会員
吉川 哲史

祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。

日本語検定一級、漢検(日本漢字能力検定)準一級を
取得した目的は、難解な都市・京都を
わかりやすく伝えるためだとか。

地元広告代理店での勤務経験を活かし、
JR東海ツアーの観光ガイドや同志社大学イベント講座、
企業向けの広告講座や「ひみつの京都案内」
などのゲスト講師に招かれることも。

得意ジャンルは歴史(特に戦国時代)と西陣エリア。
自称・元敏腕宅配ドライバーとして、
上京区の大路小路を知り尽くす。
夏になると祇園祭に想いを馳せるとともに、
祭の深奥さに迷宮をさまようのが恒例。

著書
「西陣がわかれば日本がわかる」
「戦国時代がわかれば京都がわかる」

サンケイデザイン㈱専務取締役

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わかりやすく伝えるためだとか。

地元広告代理店での勤務経験を活かし、
JR東海ツアーの観光ガイドや同志社大学イベント講座、
企業向けの広告講座や「ひみつの京都案内」
などのゲスト講師に招かれることも。

得意ジャンルは歴史(特に戦国時代)と西陣エリア。
自称・元敏腕宅配ドライバーとして、
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