随分と長い間、お待たせしてしまいました。お待たせというか「なんだそりゃ」と、もう、すでに忘れられているかもしれない「京の変人烈伝」です。よろしくお願いします。前回はvol.0だったので、今回が映えある第一回目となります。
というわけで、京の変人のトップバッターはなんと!ぶっ飛んでいる仏師さんです。といっても、ハンググライダー好きの仏師さんのご紹介ではありません。この方、名前を三浦耀山(みうら ようざん)さんとおっしゃいまして、なんと脱サラをして仏師さんになったという非常に珍しいお方です。私自身、仏師さんという職業があるのは知っていましたが、お話を聞くのは今回が初めてになります。私がコメンテーターを務めます朝日放送「キャスト」の中の「越前屋変人類研究所」の取材でお会いしたのですが、見た目は真面目そうなのに、やっておられることは、本当にぶっ飛んでました。
脱サラ仏師の誕生
1973年生まれ三浦さんは、早稲田大学政治経済学部を卒業後、通信系の企業に就職。生まれが埼玉だったこともあって最初は東京勤務でしたが、3年後に大阪に配属され、関東とは全く違う関西の「じゃりン子チエ」文化に驚いたそうです。中には、実際にテツのようなおっさんもいるわけですから、関東出身の三浦さんはびっくりされたようです。京都人の僕でさえも、最初に大阪に住んだ時は大阪人の独特の世界観にびっくりしたものです。
三浦さんは関西にいる間、なんとなく読んだ「見仏記」(みうらじゅん・いとうせいこう著)に影響を受け、週末になると御朱印帳を持っては、いろんな寺社仏閣を訪ねては仏像を見るようになったそうです。そのうち見ているだけでは物足りなくなって、ついには自分で彫ってみたいという衝動に駆られます。「仏像を彫ってみませんか?」という滋賀の仏師さんが主催していた仏像彫刻教室をたまたま見つけて、通い出します。1年間通って、すっかり仏像を自分で彫るという魅力にハマってしまい、なんと会社を辞めて、そのままその教室を主催していた仏師さんに弟子入りしたのでした。
なんというハマり方なんでしょうか。わかりやすいといえばわかりやすいのですが、優良企業という安定を捨ててまで仏師になろう!なんて普通の人は考えませんよね。三浦さんは13年間の修行を経て、晴れて独立、京都に自分の工房を構えました。
パンクファッションに鼻ピアス?
とりあえずご本人に会うため、京都市の御所の近くにある土御門仏所(つちみかどぶっしょ)を訪ねたところ、出てこられたご本人の姿に驚きました。なんと!見た目がロン毛でロンドンブーツを履いてる仏師さんだったわけでもなく、パンクファッションに身を包んだ鼻ピアスの仏師さんだったわけでもなかったのです。三浦さんはごく普通のどこにでもあるような作務衣を着て、頭は綺麗に剃り上がっているという、見た目はいかにも仏の道関係といった人当たりの良さそうな人だったのです。
「どこがぶっ飛んでるんじゃ!」という気持ちを抑えつつ、案内されたのはご自宅を通り抜けた奥にある工房でした。ここに秘密が!と思って辺りを見渡したのですが、図面や材料の木材が普通に並び、作りかけの仏像が一体置かれてる、なんの変哲もない工房でした。師匠のところで13年間、独立して6年、今ではすっかり一人前の仏師になっておられる三浦さんに、しばし仏像はどう作るのか?という専門的な話を聞いていたのですが、聞けば聞くほど、すごい世界ではあるのですが、やはり何がぶっ飛んでいるのか?全くわからず、気になって仕方がありません。
すると、「ここでは何なんで、別の場所に行きましょう!」って話になりました。ここでは何なんで!って、何なんですか?ここじゃないんですか?ここじゃないとすればどこなんだろう?とあまりにも謎すぎて、反対に私の頭の中がぶっ飛んできました。
連れて行かれたそのさきに
それでもって、工房を出て連れて行かれたところが、京都駅の近くにある浄土宗「龍岸寺」というお寺でした。見た目は普通のお寺だったのですが、本堂の中に入ってびっくり。
そこに置いてあったのは、なんとガチャガチャでした。気になったのでコインを入れて、ガチャガチャとやってみると、なんと出てきたカプセルの中に入っていたのは仏様でした。「これは『ガチャ仏』と言って、私が彫った仏像を3Dプリンターで作ったやつなんです!」と嬉しそうに三浦さん。「ガチャ仏」ってあなた、それも海洋堂さんではなくて、本物の仏師さんが彫った仏様をカプセルに入れてガチャガチャ回すなんて、そもそもありがたいのか?ありがたくないのか?よくわかりません!
「ガチャ仏」を作った三浦さんも普通じゃないとは思いますが、そもそも「ガチャ仏」をお寺に置くことを許可した龍岸寺さん自体がぶっ飛んでると思いました。それもそのはずでした。なんと「ガチャ仏」は三浦さんと龍岸寺の池口住職との共同開発だったのです。いずれにしろ、ぶっ飛んでるというのは、この「ガチャ仏」のことだったのか?となんとなく納得しかけた時でした。
次の瞬間、我が目を疑う光景がそこに!
「えっ、嘘でしょ!」私は自分の目を疑いました。
なんと!本堂の脇からブーンという音とともに目の前にドローンが飛んできたのです。ドローンを本堂で飛ばすとは何事か!となるはずが、池口住職もそばで立って笑っておられます。「なんで!」そう思って、飛んで来たドローンをよく見ると、なんとそのドローンの上に仏様がお乗りになってるじゃアーリませんか!(ここはチャリー浜調でお願いします)
「これは『ドローン仏』と言いまして、先程の『ガチャ仏』とはまた違って・・・・・」と、冷静に説明しだした三浦さん。「ちょっと待て!」相席食堂の千鳥じゃないけど、思わずVTRを止めたくなりました。でもその後、三浦さんから空飛ぶ仏像を作った理由をよくよく聞いてみると、なるほど理にはかなっていました。
なぜ、ドローン仏を飛ばそうと思ったんですか?
「仏教には阿弥陀来迎という教えがあるんですけど、それは亡くなった方をですね、阿弥陀如来様が極楽浄土から雲に乗ってお迎えに来るんです。その時に阿弥陀様を先頭にいろんな菩薩様たちが雲に乗ってプワーンって降りてくるんですよ。それで極楽浄土へ連れて行ってくれると」 どうやら、それは本当の話で阿弥陀来迎図という形で平安時代から仏画に描かれてきたそうです。
続けて三浦さん
「宇治の平等院鳳凰堂というのは極楽浄土の仏様の世界を表現していて、その中に『雲中供養菩薩』というのがありまして、菩薩様たちが雲に乗った状態で来られたものをお堂の壁の高いところに貼り付けて、あたかも宙に浮いているように見せています。その当時の仏師は実際に飛ばすことができないので、壁に貼ることによって宙に浮いているという表現をしていたんですね。で、そんなことを考えていたある日に、ふと今の時代だったら本当に仏様を飛ばせるんじゃないか?と思ったんです。たまたまAmazon見てたら、ドローンがあって・・・。それもこんなに安いのか?と、思わずポチりまして(笑)で、たまたま3Dプリンターの会社の方と仲良くなったので、じゃあ実際に3Dプリントで作った軽い仏像を乗せて飛ばしてみましょう!って飛ばしたら、これがけっこういい感じで飛んだんです。」
三浦さん、それはそれは嬉しそうに語っておられました。Amazonでポチッとした!辺り、個人的には大好きです。
ドローン仏、本堂を飛び回る
続いて三浦さん
「で、実際にお寺で飛ばさせてもらえないかなあ…と龍岸寺の池口住職にお願いしたら、「それはいいですね!」と意気投合しまして、それで本堂で飛ばしました。今は阿弥陀如来、観音菩薩、勢至菩薩と三尊編成で飛ばしているんですけど、阿弥陀来迎っていうのはですね、またの名を阿弥陀如来二十五菩薩来迎図と言いまして……」
「いやちょっと、ちょっと待って下さい(笑)!阿弥陀様だけでもすごいのに、まさか菩薩が25体も飛んでくるんですか? 」
どうやら三浦さんは阿弥陀如来様と25体の菩薩様を合わせて、計26体もの仏像を同時に本堂の中で飛ばしたいようでした。現代のドローン技術と何千年前からある仏様がコラボレーションする。もともとは仏像自体は国家事業的な意味合いで国の威信をかけて作ったもので、鋳造技術とか彫刻技術といった、その当時の一番高い水準の技術が全て仏像に詰まっていたのです。そういう意味では、現代の先端技術で仏像を飛ばそうと試みる三浦さんの「ドローン仏」は決して間違ってはいません。まるほど、そういうことだったんだなと妙に納得はしたのですが、最後に、どうしても気になった疑問があったので聞いてみました。
「26体の仏様が本堂を飛び回るのは圧巻だと思うのですが、流石にそんなに飛ぶと、あちこちで仏様同士が当たって事故が起きると思うんですが、そこは大丈夫なんですか?」
黙って聞いていた三浦さんが冷静にこう答えてくれました。
「ハイ、そのときはプログラミング制御します。」
ん~やっぱり、この仏師さんはぶっ飛んでいる。
▶︎浄土宗 龍岸寺(りゅうがんじ)HP