北大路駅の秘密の線路

ところで、よく新しい鉄道が作られるときは車両のデザインなどが注目されますが、それ以上に大切なことは「車庫をどうするのか」という問題です。大きな電車、それも何両も連結した編成を何本もどこに止めておくのか、どこで検査をするのかということ抜きには鉄道の建設はありえません。烏丸線の当初の建設計画は竹田に車庫を作るというものでしたが、先述のように最初の開業区間が北大路~京都駅となったので車庫の設置場所がありません。そこで北大路駅や京都駅の構内を図のような工夫をして開業にこぎつけます。

実は北大路駅にはホームからは見えない線路が西側にもう1本あり、そこで日頃の検査をしました。今も国際会館行きの電車に乗って、北大路駅に着く直前に目を凝らしていると西側にすっと線路が分かれているのが見て取れます。その先に車両検査用の「秘密の線路」が1本あったのです。そしてこの線路の天井(約16m)に約25m×5mの穴が開けられていてここから電車を1両ずつクレーンで吊り下げて地下に下したのです。

地下に設けられた検査線

地下に設けられた検査線

天井が空いている部分から1両ずつ降ろされた。

第1編成は開業前年の昭和55(1980)年3月に搬入され、最終的に開業時に必要な4両編成9本、計36両がそろえられました。しかしこれをどのように留置するのかは大問題です。

地下に降ろすためにクレーンで吊り上げられる第1編成

地下に降ろすためにクレーンで吊り上げられる第1編成

昭和55年(撮影 大西 卓氏)

そこで北大路駅のホームは鞍馬口側の4両分だけを使い、奥の北山側は4両編成がもう1本留置できるような使い方をしました。こうすれば夜間にホームをはさんで4編成が収容できます。京都駅でも同様に南側の竹田方面につなぐ線路にも2本留置するようにして夜間は4編成止めることができました。それでも1編成置くところがありません。先の検査用の地下線路があると考えてしまいますが、そこにも電車が止まっていれば入換えが全くできません。そこで何と、大きな検査を兼ねて地上に1編成分の4両を上げて「留置」していました。このような工夫を7年間続けて、当初は営業をしていたのです。

地上にも検査を兼ねて1編成置くことになった。現在の北大路ビブレの一角にあたる。

地上にも検査を兼ねて1編成置くことになった。現在の北大路ビブレの一角にあたる。

夜間は、北大路駅と京都駅に4編成ずつ留置した。

夜間は、北大路駅と京都駅に4編成ずつ留置した。

オープニング運転手の確保

もうひとつ大切なことは乗務員をはじめ地下鉄に従事する人を最初はどうして養成するかです。元市電の運転手さんらが相当数地下鉄に移られたようですが、線路が完成し、電車が搬入されてから養成するようでは開業に間に合いません。そこで何回かに分けて大阪市交通局の研修所に通い、ある人は電車の運転免許(動力車操縦者国家試験)を取得し、ある人は駅の管理者としての知識を身に付けられました。ちなみに開業時に必要な要員は約300人でした。

このように地下鉄烏丸線は開業に向けていろいろな苦労がありました。
その後は
昭和63(1988)年6月 京都~竹田間(3.4km)延伸開業 竹田車両基地開設 6両編成化
昭和63(1988)年8月 近鉄との相互乗り入れ開始(当初は新田辺まで)
平成2年(1990)10月 北大路~北山間(1.2km)延伸開業
平成9年(1997)6月  北山~国際会館間(2.6km)延伸開業 全線13.7kmとなる。
などの歩みを重ねて、今日の姿があるのです。新型コロナの影響で乗客も減り経営が厳しくなっている昨今ですが、工事の遅れや建設費の膨張で批判つづきだった開業前、新聞の投書欄には「地下鉄烏丸線は将来きっと京都の大動脈になるので応援しよう」という20歳の青年の声が載せられていました。

岡崎公園に展示されている市電にも「地下鉄40周年」のヘッドマークが、許可を得た愛好者によって取りつけられた。

岡崎公園に展示されている市電にも「地下鉄40周年」のヘッドマークが、許可を得た愛好者によって取りつけられた。

(2021.06)

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この記事を書いたKLKライター

鉄道友の会京都支部副支部長・事務局長
島本 由紀

 
昭和30年京都市生まれ
京都市教育委員会学校指導課参与
鉄道友の会京都支部副支部長・事務局長

子どもの頃から鉄道が大好き。
もともと中学校社会科教員ということもあり鉄道を切り口にした地域史や鉄道文化を広めたいと思い、市民向けの講演などにも取り組んでいる。
 

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|鉄道友の会京都支部副支部長・事務局長|京都市電/嵐電/京阪電車/鉄道/祇園祭

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