堀川団地の面影を残すちょこっとDIY 堀川団地にまつわる物語 その7

1. はじめに

この「堀川団地にまつわる物語」では、京都市上京区の堀川通り沿いに位置する堀川団地について様々な角度から紹介している。
以前の記事でも紹介したように堀川団地では2020年までに4棟のリノベーション事業が行われている。堀川団地では1990年から新規入居者の募集を停止していたという経緯があるため、今回のリノベーションで約20年ぶりに新規入居者を受け入れることとなった。堀川団地再生では、「アートと交流」がメインコンセプトとなっていたことから、アートやものづくりに関わるクリエイターを入居者として募集した。そのクリエイターたちの職住近接で個性的なライフスタイルに対応するために整備されたのが、入居者が自由に改装することのできるDIY可能な住戸(以下、DIY住戸)である。今回は堀川団地のDIY住戸について紹介することとしたい。


2.DIY賃貸住宅の意義

まずは、DIY賃貸住宅について解説させていただく。一般的な賃貸住宅の場合、「原状回復義務」が存在するため、入居者自らが自由に内装を改装することは困難である。しかし、この「原状回復義務」を緩和・一部免除することによって、入居者によるDIYを認める賃貸住宅の事例が近年増えてきている。
このDIY賃貸住宅には2つの意義がある。1つ目は入居者視点からの意義であり、賃貸住宅であっても、入居者の思い通りに内装を整備したいというニーズをかなえられることである。2つ目は家主視点からの意義であり、住戸改修作業の一部または全部を入居者がDIYで行うことで家主の住戸改修に対する費用負担を抑えることができるため、比較的安価な家賃で住戸を貸すことができる。すなわち、このDIY賃貸は、入居者・家主双方にとって意義がある方法と言える。


3.団地の面影を残すDIY住戸

堀川団地の場合、DIY住戸と言っても全ての住戸改修を入居者自身が行うわけではない。既存住戸の経年劣化も進んでいたことから(図1)、まずは、公社が既存の状態から最低限居住可能な段階まで内装や設備を整備し、その上で賃貸を行っている。

図1.改修前住戸

このDIY住戸の設計は、集合住宅のリノベーションに豊富な実績を有する建築設計事務所OpenA(代表:馬場正尊氏)が担当した文1)。ここでは、堀川団地の既存内装を一部残しながら改修が行われており、内装を完璧に仕上げるのではなく、ハーフメイドな状態で住戸が供給されている。また、既存内装を残す割合を「面影度」と呼んでおり、面影度75%、50%、25%、10%という4タイプの住戸が計画された(図2〜5)。

図2.面影度75%のDIY住戸
図3.面影度50%のDIY住戸
図4.面影度25%のDIY住戸
図5.面影度10%のDIY住戸

馬場氏が設計に関わったのはこの4住戸のみであったが、この「面影度」という考え方はその後も継承され、浴室設置やペアガラスへの交換など、少しずつ変更を加えながら2021年度時点では11戸のDIY住戸が供給されている。
なお、堀川団地のDIY住戸では、入居者のDIYによる改修のうち、公社が承認したものについては原状回復義務が免除されることになっており、事前に改修承認申請を提出すること、改修完了後に公社がチェックすることが求められている。建物の耐震性能などに影響を与えないように「スケルトンを傷つけないこと」がDIY承認の条件となっている。


4.入居者の募集

堀川団地のDIY住戸には、入居者の募集方法にも特徴がある。堀川団地の再生コンセプトである「アートと交流」を実現してくためには、このコンセプトに共感し、実践してくれる人に入居してもらう必要があった。そこで、入居者をコンペ形式で選定することとなった。入居希望者に対して、住み方やDIY内容に関するプレゼン資料を作成してもらい、学識者・公社職員・団地住民の代表らが審査を行った。入居者の応募条件は、対象住戸をクリエイティブに編集する提案を持っていること、提案した内容をDIYで実現できること、団地や地域コミュニティとの交流を図る計画を持っていること等である。

最初のDIY住戸には、アートやものづくりに関わっている入居者が3名、団地住民との積極的な交流を提案した入居者が1名選定された。その後も、個性的なクリエイターが数多く入居し、堀川団地で新しい暮らしを実践されている。


5. DIY住戸の暮らし

筆者は、DIY住戸の入居者に対して、継続的に住み方調査をさせてもらっている。入居者がどのようなDIYを行っているのかについて少し紹介したい。

1事例目は、土間部分をアトリエ空間として利用している事例である。作業に必要な家具類をDIYで制作している。白に塗装された明るさと機能性を重視した空間となっている。

写真1.白い機能的なアトリエ空間

2事例目は、入居者の書斎兼打ち合わせスペースとして使われている空間である。和室をフローリングタイルの洋室に変更し、押入れ部分に本棚を制作している。この部屋は、堀川団地の既存の和風の内装と洋風の設えが折衷された空間となっている。

写真2.和洋折衷の書斎

3事例目は、ギャラリー兼応接室として使用している事例である。ヘリンボーン貼りのフローリングやウィリアム・モリスの壁紙が特徴的である。壁の塗装なども入居者によって非常に丁寧に行われている。なお、この部屋のヘリンボーンフローリングは、周辺地域の方や大学生も参加し、ワークショップ形式で制作されたものである。

写真3.ヘリンボーンフローリングの空間

6.まちづくりとの連携

今回の再生事業のもう一つの特色は、まちづくりと連携した改修事業であったということである。特に最初の入居者募集のときには、入居者の選定・居住実験の他にもDIY関連のワークショップや見学会など地域の人も参加できるイベントを実施しながら進められた。

その中でも、堀川団地の特性を生かしたイベントが土壁塗りのワークショップである。堀川団地はRC造の団地でありながら、住戸内の間仕切りが土壁で作られているという極めて珍しい団地である。このワークショップでは、左官職人を講師として招き、土作り・竹子舞編み・壁塗りを2回にわけて行った。ワークショップで用いた土壁自体もリノベーションの解体工事の中で出てきたものを再利用している。合計26名の方が参加し、堀川団地の魅力を地域で共有する良い機会となったと感じている。

写真4.土壁ワークショップの様子
写真5.ワークショップで塗った土壁

それ以外にも、DIY住戸では入居募集時にはオープンハウスを行ったり、入居後にも見学会を開いたりしている。私も見学会の案内をすることがあるが、堀川団地に強い関心を持たれる参加者も多く、堀川団地の魅力を伝える機会となっている。

7.まとめ

DIY住戸について調査していく中で、1つ大きな発見があった。堀川団地の場合、DIY住戸とは言っても、必ずしもDIYできることが入居の主な理由になっていないということである。むしろ、団地再生のコンセプトへの共感や堀川団地そのものの魅力に惹かれたことなどを入居理由に挙げる入居者が多かった。

しかし、入居者にDIYニーズがまったくなかったわけではない。軽微なDIYに対するニーズはいずれの入居者も持ち合わせており、自分のライフスタイルに合わせて‘ちょこっと’だけDIYを行いたいという入居者が多かった。我々は、この状況を「弱いDIYニーズ」と呼んでおり、この弱いニーズに対応した支援も必要と考えている。堀川団地の昔の面影を残すDIY住戸は、このような弱いDIYニーズを持つ入居者とうまくマッチしたものだったと言えそうだ。

なお、このDIY住戸は、空き部屋が出るたびに募集されることとなっている。京都府住宅供給公社のホームページなどで募集されるはずなので、この記事で興味を持っていただいた方は是非次の機会にご応募いただきたい。

参考文献
文1)新建築2015年2月号,新建築社,pp.138-145,2015年
文2)土井脩史,髙田光雄,前田昌弘,江川知里:DIYを導入した賃貸集合住宅における入居者のライフスタイルに関する研究―京都府・堀川団地における住戸改修実験を通じて―,住宅系研究報告会論文集10,pp.217-224,2015.12
よかったらシェアしてね!

この記事を書いたライター

 
住宅計画研究者。博士(工学・京都大学)、一級建築士。
京都橘大学現代ビジネス学部都市環境デザイン学科・専任講師。
京都・大阪を主な研究対象として、これからのストック活用時代における住宅計画のあり方について研究している。

|住宅計画研究|堀川団地/戦後/住宅/商店街