1. はじめに

この「堀川団地にまつわる物語」では、京都市上京区の堀川通り沿いに位置する堀川団地について様々な角度から紹介している。
以前の記事でも紹介したように堀川団地では2020年までに4棟のリノベーション事業が行われている。堀川団地では1990年から新規入居者の募集を停止していたという経緯があるため、今回のリノベーションで約20年ぶりに新規入居者を受け入れることとなった。堀川団地再生では、「アートと交流」がメインコンセプトとなっていたことから、アートやものづくりに関わるクリエイターを入居者として募集した。そのクリエイターたちの職住近接で個性的なライフスタイルに対応するために整備されたのが、入居者が自由に改装することのできるDIY可能な住戸(以下、DIY住戸)である。今回は堀川団地のDIY住戸について紹介することとしたい。


2.DIY賃貸住宅の意義

まずは、DIY賃貸住宅について解説させていただく。一般的な賃貸住宅の場合、「原状回復義務」が存在するため、入居者自らが自由に内装を改装することは困難である。しかし、この「原状回復義務」を緩和・一部免除することによって、入居者によるDIYを認める賃貸住宅の事例が近年増えてきている。
このDIY賃貸住宅には2つの意義がある。1つ目は入居者視点からの意義であり、賃貸住宅であっても、入居者の思い通りに内装を整備したいというニーズをかなえられることである。2つ目は家主視点からの意義であり、住戸改修作業の一部または全部を入居者がDIYで行うことで家主の住戸改修に対する費用負担を抑えることができるため、比較的安価な家賃で住戸を貸すことができる。すなわち、このDIY賃貸は、入居者・家主双方にとって意義がある方法と言える。


3.団地の面影を残すDIY住戸

堀川団地の場合、DIY住戸と言っても全ての住戸改修を入居者自身が行うわけではない。既存住戸の経年劣化も進んでいたことから(図1)、まずは、公社が既存の状態から最低限居住可能な段階まで内装や設備を整備し、その上で賃貸を行っている。

図1.改修前住戸

図1.改修前住戸

このDIY住戸の設計は、集合住宅のリノベーションに豊富な実績を有する建築設計事務所OpenA(代表:馬場正尊氏)が担当した文1)。ここでは、堀川団地の既存内装を一部残しながら改修が行われており、内装を完璧に仕上げるのではなく、ハーフメイドな状態で住戸が供給されている。また、既存内装を残す割合を「面影度」と呼んでおり、面影度75%、50%、25%、10%という4タイプの住戸が計画された(図2〜5)。

図2.面影度75%のDIY住戸

図2.面影度75%のDIY住戸

図3.面影度50%のDIY住戸

図3.面影度50%のDIY住戸

図4.面影度25%のDIY住戸

図4.面影度25%のDIY住戸

図5.面影度10%のDIY住戸

図5.面影度10%のDIY住戸

馬場氏が設計に関わったのはこの4住戸のみであったが、この「面影度」という考え方はその後も継承され、浴室設置やペアガラスへの交換など、少しずつ変更を加えながら2021年度時点では11戸のDIY住戸が供給されている。
なお、堀川団地のDIY住戸では、入居者のDIYによる改修のうち、公社が承認したものについては原状回復義務が免除されることになっており、事前に改修承認申請を提出すること、改修完了後に公社がチェックすることが求められている。建物の耐震性能などに影響を与えないように「スケルトンを傷つけないこと」がDIY承認の条件となっている。


4.入居者の募集

堀川団地のDIY住戸には、入居者の募集方法にも特徴がある。堀川団地の再生コンセプトである「アートと交流」を実現してくためには、このコンセプトに共感し、実践してくれる人に入居してもらう必要があった。そこで、入居者をコンペ形式で選定することとなった。入居希望者に対して、住み方やDIY内容に関するプレゼン資料を作成してもらい、学識者・公社職員・団地住民の代表らが審査を行った。入居者の応募条件は、対象住戸をクリエイティブに編集する提案を持っていること、提案した内容をDIYで実現できること、団地や地域コミュニティとの交流を図る計画を持っていること等である。

最初のDIY住戸には、アートやものづくりに関わっている入居者が3名、団地住民との積極的な交流を提案した入居者が1名選定された。その後も、個性的なクリエイターが数多く入居し、堀川団地で新しい暮らしを実践されている。


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この記事を書いたKLKライター

住宅計画研究
土井 脩史

 
住宅計画研究者。博士(工学・京都大学)、一級建築士。
京都橘大学現代ビジネス学部都市環境デザイン学科・専任講師。
京都・大阪を主な研究対象として、これからのストック活用時代における住宅計画のあり方について研究している。

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住宅計画研究者。博士(工学・京都大学)、一級建築士。
京都橘大学現代ビジネス学部都市環境デザイン学科・専任講師。
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