5. DIY住戸の暮らし

筆者は、DIY住戸の入居者に対して、継続的に住み方調査をさせてもらっている。入居者がどのようなDIYを行っているのかについて少し紹介したい。

1事例目は、土間部分をアトリエ空間として利用している事例である。作業に必要な家具類をDIYで制作している。白に塗装された明るさと機能性を重視した空間となっている。

写真1.白い機能的なアトリエ空間

写真1.白い機能的なアトリエ空間

2事例目は、入居者の書斎兼打ち合わせスペースとして使われている空間である。和室をフローリングタイルの洋室に変更し、押入れ部分に本棚を制作している。この部屋は、堀川団地の既存の和風の内装と洋風の設えが折衷された空間となっている。

写真2.和洋折衷の書斎

写真2.和洋折衷の書斎

3事例目は、ギャラリー兼応接室として使用している事例である。ヘリンボーン貼りのフローリングやウィリアム・モリスの壁紙が特徴的である。壁の塗装なども入居者によって非常に丁寧に行われている。なお、この部屋のヘリンボーンフローリングは、周辺地域の方や大学生も参加し、ワークショップ形式で制作されたものである。

写真3.ヘリンボーンフローリングの空間

写真3.ヘリンボーンフローリングの空間

6.まちづくりとの連携

今回の再生事業のもう一つの特色は、まちづくりと連携した改修事業であったということである。特に最初の入居者募集のときには、入居者の選定・居住実験の他にもDIY関連のワークショップや見学会など地域の人も参加できるイベントを実施しながら進められた。

その中でも、堀川団地の特性を生かしたイベントが土壁塗りのワークショップである。堀川団地はRC造の団地でありながら、住戸内の間仕切りが土壁で作られているという極めて珍しい団地である。このワークショップでは、左官職人を講師として招き、土作り・竹子舞編み・壁塗りを2回にわけて行った。ワークショップで用いた土壁自体もリノベーションの解体工事の中で出てきたものを再利用している。合計26名の方が参加し、堀川団地の魅力を地域で共有する良い機会となったと感じている。

写真4.土壁ワークショップの様子

写真4.土壁ワークショップの様子

写真5.ワークショップで塗った土壁

写真5.ワークショップで塗った土壁

それ以外にも、DIY住戸では入居募集時にはオープンハウスを行ったり、入居後にも見学会を開いたりしている。私も見学会の案内をすることがあるが、堀川団地に強い関心を持たれる参加者も多く、堀川団地の魅力を伝える機会となっている。

7.まとめ

DIY住戸について調査していく中で、1つ大きな発見があった。堀川団地の場合、DIY住戸とは言っても、必ずしもDIYできることが入居の主な理由になっていないということである。むしろ、団地再生のコンセプトへの共感や堀川団地そのものの魅力に惹かれたことなどを入居理由に挙げる入居者が多かった。

しかし、入居者にDIYニーズがまったくなかったわけではない。軽微なDIYに対するニーズはいずれの入居者も持ち合わせており、自分のライフスタイルに合わせて‘ちょこっと’だけDIYを行いたいという入居者が多かった。我々は、この状況を「弱いDIYニーズ」と呼んでおり、この弱いニーズに対応した支援も必要と考えている。堀川団地の昔の面影を残すDIY住戸は、このような弱いDIYニーズを持つ入居者とうまくマッチしたものだったと言えそうだ。

なお、このDIY住戸は、空き部屋が出るたびに募集されることとなっている。京都府住宅供給公社のホームページなどで募集されるはずなので、この記事で興味を持っていただいた方は是非次の機会にご応募いただきたい。

参考文献
文1)新建築2015年2月号,新建築社,pp.138-145,2015年
文2)土井脩史,髙田光雄,前田昌弘,江川知里:DIYを導入した賃貸集合住宅における入居者のライフスタイルに関する研究―京都府・堀川団地における住戸改修実験を通じて―,住宅系研究報告会論文集10,pp.217-224,2015.12
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この記事を書いたKLKライター

住宅計画研究
土井 脩史

 
住宅計画研究者。博士(工学・京都大学)、一級建築士。
京都橘大学現代ビジネス学部都市環境デザイン学科・専任講師。
京都・大阪を主な研究対象として、これからのストック活用時代における住宅計画のあり方について研究している。

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