送り火はお盆の仕上げ

お盆の最終日、京都の16日は大慌てでおしょらいさんを送りますが、夜にはお盆の仕上げが待っています。「五山の送り火」ですね。みなさんお盆が終わったら、お楽しみの精進落としが始まります。「精進落とし」と言うからには、それまで「精進潔斎」してたことになりますが最近はどうでしょうね。

私は実家にいたころは親が厳しく、13日から15日、そして16日におしょらい送りをするまでは肉魚卵乳製品など一切口にできませんでした。お盆の間だけビーガンみたいになるんですが、さらにニンニクやネギ、玉ねぎらっきょなど香りのきついもの、お酒類のアルコールが入ったものもダメでした。ほぼ仏さんと同じものを食べてた感じですね。でも今は主人も子どもも辛抱できないので仕方なく普通に作っています。掟を破ったようでちょっと悲しいのですが。

「精進潔斎」していたからこそ「精進落とし」が楽しいのやと思いますが、まぁどちらにせよ16日夜はごちそうが並びます。そして夜8時が近づくと「そろそろやな。」とおもむろにテレビをつけます。何をするって?いや、送り火の番組を見るんですよ。

京都のローカル放送では毎年五山送り火の実況中継が放送されるのです。7時代にはもう始まっていて、保存会の方々が山に薪を持って上がらはるところなどが映されます。ご飯を食べながら「あ~今年も暑いのにみなさん大変やなぁ。」とか思いながら8時が来るのを待つのです。

それで8時数分前になると、「ほないこか。」と外へ出ます。やっぱりね、テレビだけではダメ。ほれ、「お盆の仕上げ」をするために大文字を見んとあきませんやんか!外に出たらすぐ見えますし、なによりおしょらいさんを送らんと。ほななんでテレビ付けるのんと言われそうですが、点火前に今どうしたはるのかなぁと思っても、これだけは山を見てもわかりません。リアルタイムに状況を大きく映してくれるのは今のところテレビだけなのでね。それにあんまり早いこと外に出て待っててもだぁれもいやはらへんし、なんかいちびりみたいで恥ずかしいんです。8時ちょっと前、みなさんボチボチ出てきやはります。そしてきれいに大の字が見えてきたころには、近所の人がほとんどいるのやないかと思うくらいのひとだかりになります。

さて、ちょっと時は戻ります。いよいよ火がともる時刻の8時になったころ、合図の火でしょうか、1つだけチラチラ見え始めたら一斉に火が灯ります。一気に大の字が浮かび上がるのです。その瞬間の美しいこと!毎年見てるのに感動します。
「とーぼったとーぼった、大文字がとーぼった~」
昔の子どもは歌ったことでしょう。大人でも歌いたいくらいきれいです。これも一斉にともらんとあかんそうですね。火床をそれぞれのお家が守ったはるんですが、火の点きが悪いと災厄に見舞われるとかいう言い伝えもあったとかで、それはもう1年間ずっと山のお手入れや薪の保管など大変なご苦労の結果の美しい送り火なのです。毎年まずはそこに感謝して見ることにしています。

 

京都人度チェック 大文字を見てすることは?

さて、ここで京都人度チェックです。

・大文字送り火を見ながら何をしますか?

またまたざっくり系の質問ですが、ここは大事です。送り火は「お盆の仕上げ」て言いましたよね。なので何はさておき「おしょらいさんを送る」というのがやるべきことです。手を合わせ「また来年来てください。」と言ってご先祖さんの霊を送ります。父や母にも「来年も待ってるさかいに。」とつぶやきます。よく、火が点くと拍手をする人がやはるのですが、これは点火ショーではないので、私の意見としては拍手はちょっと違うかなぁと思います。もちろんきれいやし手をたたきたくなる気持ちはようわかりますが。送り火の保存会の皆さんも「おしょらいさんを送る火を焚いている」という意識でやっておられます。拍手をしたら、ご自分の大切な人を思い出してその手を合わせていただけたら嬉しいですね。

大文字を見ているところ

大文字を見ているところ

大の字を飲みこむ?!

そして見ている人が次にやることは、「大の字を飲み込む」です。母は「水を入れた盃に大の字を映して飲んだら中風にかからへんのんえ。」と言うてました。とにかくやることは病気にかからへんようにするまじないが一番多いですね。そやけど盃はほんまのとこ小さすぎて映すのは至難の業です。調べてみると少し前までは食事用のお盆に水を入れて映した人もいたようで(注1)、それやったら映るかなぁとは思いますが、それでも遠くからはかなり難しい。そこで最近よう見かけるようになったんが、ガラスコップに水を入れ大の字を透かして映すという方法です。これやったら遠いとこでもできます。うまいこと考えやはったもんですね。

もう1つ、送り火が灯っているときにお蕎麦を食べるという風習があります。江戸時代までは御所で女官の方が廊下に出てお蕎麦を食べやはったそうで、そこから広まったということです。(注2)天保年間には、火が消える前にお蕎麦を食べ終わると災難除けになるということで、皆物干し台に上って必死で食べたということが書物に残っています。(注3)今は火が点いてから消えるまで大体30分位はありますが、昔はどうやったでしょうか?う~ん、私はできたらゆっくり食べたいですねぇ。

これは見ている間にやることではありませんが、火の消えた翌日に山に登ってからげし(消し炭)を取りに行くっていうのもありますね。これも病除けのおまじない。ホンマに今も昔も病気は怖い。からげしがお薬やないのはわかってるけど病は気からて言うし、行動を起こすことが気持ちの張りに繋がってるのかもしれませんね。しかしこれ、以前は火が消えた直後にもらいに行ったそうですよ。まだ燃えてるやつ。今は送り火当日は入山禁止なので入ったらダメですよ。

大文字が見えへん!

毎年送り火を見て、最近危機感を感じるようになったことがあります。以前は大の字が全部きれいに見えてたのですが、ここ2年程前から、大の3画目の先が見えへんようになりました。私らの見てるところから大文字山までの間にビルが建ったんです。京都市内は景観保全のために高さ制限がされていますが、それでもビルが並ぶと山が見えへんようになるのです。人が住んで町が発展していくには仕方のないところもありますが、このことで文化が壊されていくのには本当に胸が痛みます。ビルの屋上でしか見えへん行事になっていくんでしょうかねぇ。

以前京都御所(御苑)で大文字を見たことがありますが、毎年見ている大きさの何倍もあって迫力がありました!炎まで見えてすごかったですねぇ。昔の宮中の方はこんなに大きな送り火を見ながらお蕎麦を食べたはったということですね。

▲京都御苑からの大文字。

▲京都御苑からの大文字。

昔は河原でも送り火?!

では、ちょっと昔の大文字ものぞいてみましょう。

昔々、江戸時代には鴨川の河原でも送り火を焚いていたようでした。「宝永花洛細見図(1704・宝永4年)」には鴨川のほとりで手に松明を持った人たちが歩き回っている様子が描かれています。中には河原に松明を立てている人もいたりして、いろんな送り方をしたはったんやなということがわかります。

▲宝永花洛細見図(国立国会図書館デジタルコレクションより)

▲宝永花洛細見図(国立国会図書館デジタルコレクションより)

もう少し時代が下り、幕末に出た「花洛名勝図会(1864・元治元年)」にも河原での送り火のもようが描かれています。こっちは見物人がかなり多いですけど、その中でも何人かは火を焚いてますね。時代が進むにつれて個人での送り火は少しずつ減っていき、しまいには山で行われる送り火がメインとなっておしょらい送りの役目を担うことになったようです。

▲「花洛名勝図会」新撰京都叢書第4巻

▲「花洛名勝図会」新撰京都叢書第4巻

ところで、送り火はこのように盛大にみんなで見る形になってますが、迎え火はどうなんでしょね?私は焚いたことないんですよ。昔の京都の人はひょっとしたらやってたかもしれませんが、今やろうとすると厳しいでしょうね。焚火は風俗習慣上や宗教上することは例外として認められてるのですが、実際に街中で行うのはなかなか勇気がいります。京都は昔から大火が何度となく繰り返されてきているので、みなさん火に関しては特別敏感です。煙を出すとみんな慌てる。やっぱり迎え火は家ではやらんほうがええかもしれません。消防局でも、例外があるものの「焚火を認めているわけではありません」とのコメントを出したはるので、よくよく注意しておきましょね。

 

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この記事を書いたKLKライター

鳴橋庵 店主・京都上京KOTO-継の会 会長
鳴橋 明美

 
上京の、形になりにくい文化(お祭・京都のおかず・伝統工芸・京ことば)の継承のお手伝いをする「京都上京KOTO-継の会」会長。
「鳴橋庵」店主。
「能舞台フェスタ in 今宮御旅所」実行委員会会長。

組紐とお抹茶体験を鳴橋庵店舗にて行っております。
合間合間に京都のお話を挟みつつ、楽しく体験していただけます。
お申込みは「鳴橋庵」HPまで。

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