やさしいきもののお話
つくり方にもやさしさを
外部から皮膚を守り、暑さ寒さから身を守る衣類はとても貴重で大事なものでした。
生地が傷まないように、長く大事に使えるようにと 細やかな工夫がされているのを現代の着物でもみることが出来ます。 もし手元に着物があったら是非みてみてください。
①袖口や裾から見える裏地
八掛と呼ばれる裏地が袖口、裾、衿先についています。 表地とは違った色味を選んだりして、チラッと見えるのがお洒落なのですが この、チラッと見えるのがミソ。 わざと見えるようにしているのは、擦れたり汚れたりしやすい部分を守ってくれているからなんです。
擦れて破れてしまっても、位置をずらして縫い直せばまた綺麗な姿に元通り!
②布地を守る「キセ」
お洋服などは布の継ぎ目を左右に割るのですが、着物の場合は左右どちらかに倒して、縫い目にほんの少し布が被る形になっています。 この部分を「キセ」と言って、着物独特の手法なのです。 縫い目を隠すという理由もありますが、これが良いクッションになります。 引っ張られた時にかかる負荷を和らげたり、もし強い力で引っ張られても布より先に糸が切れるようになっています。
③手縫いだからこそ出来ること
ミシンが無い時代だったから手縫いで仕立てていたんでしょう?と思われるかもしれませんが 手縫いってすごいんです。 ミシンで縫うと糸が布地に対して垂直に貫通して行きますが、手縫いは斜めに入って斜めに出ていく。 これだけで、布が引っ張られた時に多少の遊びが出来るんですね。 また、着物は解いて作り直すことを前提にしているので、木綿など単衣の着物では 縫い止めるだけの場所はざっくりとした縫い目になっていることもあります。 解きやすいように、と言う配慮と「止まるところが止まっていたら大丈夫」という大らかさがあるのです。
数えあげるとキリが無い「きもののやさしさ」
美しい見た目の中に、思いやりと知恵がたくさん詰まっていたのです。
布を大事に、何世代後もこの布が活躍してくれますようにとの願いを込められて 着物は長い年月を経て知恵を吸収し、今の形になりました。
「解けばまた何にでも作り替えることが出来る」 これが着物の本質だと思います。 現代のように物が充実していなかった時代に、みんなで支え合ったやさしい知恵です。
直すことを前提に作られた衣服、それが着物です。 何度でも蘇る逞しさと、全ての人を包み込むやさしさを美しさの中にそっと携えています。
安く衣類が手に入り、毎シーズン新しく買い替えては古いものを処分してしまったり。 ブームが来てはすぐさま消える、何かとサイクルの早い現代ですが わたしは着物に袖を通す度、ゆったりとした時間の流れと深い思いやりを感じます。
「エコ」や「SDGs」なんて言葉がなくっても、 自然と共存し、ものを大事にすることが当たり前な社会の方が本当に豊かな社会だと思います。 この先、人や自然が無理なく無駄なく生きられる知恵として、着物が持つやさしさがもっと注目されると良いなと思っています。
是非、着物を手に取って そのやさしさに触れ、体に纏ってみてください。
肌にかかる柔らかい温もりと一緒に、心もふっと温かく感じることと思います。
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京都市右京区生まれ。
奈良大学史学科(西洋史専攻)卒業。
23歳の時から着物に興味を持ち、意匠や細工の美麗さだけでなく、さまざまな姿に変え生活着として大切に利用されてきた着物という衣服に感銘を受け普段着として楽しむ日々が始まる。
「日常の和の暮らし」を題材にイラストを交えたコラムも執筆する傍ら、元時代劇スタッフである結髪師の友人と共に日本髪女性の撮影を行なっている(「和顔美人づかん」)。
2011年よりYouTube番組「京都きものTV」出演・撮影・ディレクション等、番組スタート時よりメインメンバーとして参加。番組は現在月イチペースで更新中。
|イラストレーター|着物
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