「コンチキチン、コンチキチン」。涼やかな祇園囃子の音色とともに、京都の町は夏を迎えます。
全国、いや世界から注目され多くの観光客が訪れる祇園祭。華やかな山鉾巡行や勇壮な神輿渡御など見どころいっぱいのお祭ですが、その舞台ウラにはエピソードの宝庫ともいえる裏話が隠されていたのでした。
申し遅れました。私、東京から京都に移住してきた編集者の立岡美佐子と申します。実際に京都に住んで驚いたのは、その奥深さ。街角に佇む石碑をよく見れば、歴史的な事件の場所だったり、町屋のなかを見せてもらえば、面白いものがたくさん出てきたりする町、京都。住み始めてすぐ、その奥深さに魅了されてしまいました。
そんな京都を代表する祭である祇園祭のひみつを知るべく訪れたのは、鷹山保存会理事長の山田純司(やまだ・じゅんじ)さんのオフィス。鷹山(たかやま)の山鉾町である三条新町周辺。そこに山田さんの作業場という名の趣味部屋がありました。鷹山の復活秘話とともに、生粋の京都人が語る祇園祭の楽しみ方についてお話しいただきました。
立岡:本日は、よろしくお願いします!さっそくですが、素敵なお部屋ですね。さっきの取材(※)の和室も良かったですが、こちらは趣味全開!といった感じです。
※3人の夢がみんなのものに。ご縁と熱意で実現する、鷹山の山鉾巡行山田さん:みなさん「隠れ家っぽい」と言われます(笑)。私のお気に入りの部屋です。ここでは仕事をするときもあれば、モデルカーのコレクションを眺めたりして過ごしています。
立岡:なんて理想的な空間!鷹山関連の資料も沢山あるんですね。本日は、鷹山や祇園祭にまつわる、とっておきの裏話をうかがいたくお邪魔しました!
鷹山の御神体は動いた!?
山田さん:まずは「鷹山の御神体が動いたかもしれない」という説からまいりましょうか。
立岡:動いた!?それは一体どういうことでしょうか?
山田さん:鷹山の御神体は、鷹匠、犬飼、樽負の御三方なのですが、この樽負がちまきを食べるからくりがあったという文献があるんです。正式なものではないため、実際のところはわかりませんが、想像してみると面白いですよね。
これは、実際に人が演じていた可能性もあるそうです。現在の御神体は、どれも公家風の装いをしているのですが、『日吉山王祇園祭礼図屏風』には、鷹山の上に複数の人物が描かれていて、そのうちの3人が能舞台などでつける頭(かしら)を装着しているんです。研究者の先生が言うには、そこで舞台が行われる特別な山だった可能性もあるのだとか。
立岡:歴史ロマンを感じます!いろいろな紆余曲折を経て今の御神体があるのですね。
山田さん:あとはね、犬飼が連れている犬について考察するのも面白いんですよ。鷹山の犬はこんな感じの白の毛並みに黒のブチがあるのですが、いろんな方から「当時の日本に、こんな洋犬はいないのではないか?」というご指摘を受けるんです。
立岡:たしかに、ダルメシアンっぽいワンちゃんですね。
山田さん:でも、昔の文献をみるとブチのある犬が描かれているんです。室町や戦国時代から元々いた犬種なのか、それとも海外との交流で日本に来た犬なのか考察のしがいがあると思いませんか?
立岡:なるほど〜。じっくり資料と向き合うと、いろいろなことが見えてくるのですね。
鷹山の復活は2020だった?
山田さん:実は「2020年に鷹山を復活させよう」という声もあったんです。
立岡:鷹山さんは後祭だから7月24日の巡行ですよね。それって、東京オリンピックの開会式が予定されていた日じゃないですか!?めっちゃ盛り上がりそうですね!
山田さん:はい、結局は間に合わなかったのですが、後になって考えてみたら、新聞の一面はオリンピック一色になるので、逆によかったかもなんて(笑)
立岡:もともと鷹山の山鉾巡行は、休み山になった1826年から200年後の2026年だったと聞いています。それが2022年に復活するだけでもかなり順調なのに、もっと早まった可能性もあったのですね。
山田さん:はい、関係者の努力はもちろん、他の山鉾町をはじめとする多くの方々の協力で期間がグンと早まりました。
立岡:京都には祇園祭の山や鉾の保存や運営を行う山鉾町がありますが、ぶっちゃけどのような関係なのでしょうか…?
山田さん:そうですね。普段は、お互いに切磋琢磨していますが、困ったときはお互いに支え合います。祇園祭を良いものにしたいという思いは一緒ですからね。
立岡:素敵な関係ですね!
祇園祭のメインは、神輿渡御
立岡:ちなみにお神輿との関係性はどういったものなのでしょうか?
山田さん:八坂神社の祇園祭は神輿渡御です。山鉾巡行は町衆が主体の行事です。山鉾は本来、お神輿が通る前に町を清めるためにあるものなんです。
立岡:お神輿には八坂神社の神様である、素戔鳴尊(スサノオノミコト)をはじめとする神様がお乗りになっていると聞きました。華やかな山鉾巡行と勇壮な神輿渡御。祇園祭には、「静」と「動」の魅力があるってことですね。
【祇園祭関係者が語る!祭の見どころ】
山田さん:テレビでは四条通を山鉾がゆっくり移動していく様子がよく映されますが、新町通をすごいスピードで戻ってくる山鉾も見ごたえがありますよ。
立岡:新町通ですか?
山田さん:四条通と新町通では、山鉾の移動スピードや曲調が違うんですよ。新町では山鉾の動きや曲がグンと速くなりますね。
立岡:そうなのですね!なんで、曲調やスピードが違うんですか??
山田さん:山鉾は、八坂神社の近くまで行く「渡り」と、そこから戻ってくる「戻り」の2つの流れがあるんです。渡りでは「渡り囃子」というゆったりした曲を奏でます。そこから、山鉾町まで戻るときは「戻り囃子」となり、テンポの速い曲になるんです。曲に合わせて、曳き手もスピードアップしますし、「帰ってビールが飲めるぞ!」という気持ちも山鉾のスピードに変化を与えているんじゃないかなぁ(笑)
立岡:たしかに、それは大きなファクターですね(笑)
山田さん:道幅も四条通よりずっと狭くなるので、間近で迫力ある山鉾を鑑賞できるのも新町通の良い点ですね。
立岡:今年の後祭は、新町通に行こうかな♪
京都人が語る!祇園祭の楽しみ方(やんちゃ坊主ver.)
立岡:ここまでは、鷹山や祇園祭の知られざる一面についてお話を伺ってきましたが、山田さんは祇園祭をどのように楽しんでこられたのですか?
山田さん:子どもの頃は、よく「2B(ニービー)」を投げあって遊びましたね。
立岡:2B。鉛筆の濃さ…ではないですね。
山田さん:今は製造中止になってしまったのですが、僕らの年代には爆竹をパワーアップしたダイナマイトのようなものがあったんです。すごい爆発音がするんですよ!
立岡 : はあ…?
山田さん : 昔はお神輿が通る前は、近所の子たちで集まって、花火をしたり2Bを投げ合ったりしていたんですよ。火をつけてから爆発するまで、だいたい20秒くらいでしょうか?宵山のときなどは、近所の子たちと道を挟んで、2Bを投げ合い度胸比べをしたものです。
立岡:関東人の私がもつ祇園祭のイメージがどんどん崩れていきますが、面白いですね。
京都人が語る!祇園祭の楽しみ方(大人ver.)
立岡:子どもの頃、山田さんがやんちゃだったことがよくわかりました(笑)。大人になってからは、どんな風に祇園祭を楽しんでいたんですか?
山田さん:祇園祭はデートに誘う絶好のチャンスなんですよ。本命は宵山に誘うのが常識でしたね(笑)宵々山ではなく、宵山なのがポイントです!
立岡:そんな常識が…(笑)。あれですね!好きな子をクリスマスのイブイブに誘うか、イブに誘うか的なやつですね?
山田さん:いやいや、重要度では、圧倒的に宵山です。
立岡:「クリスマス<<<<<宵山」ということですね。
山田さん:もちろん!男性は本命の彼女を宵山に誘うし、逆に断られたら、お相手には別の本命がいることに…。あとは、本命といる時に別の友達とすれ違うなどのハプニングが起きることもよくあります。
立岡:さすが祇園祭!!様々なドラマがあるんですね(笑)
今年の鷹山の見どころは…三条新町での辻回し!
立岡:いろいろと、興味深いお話をありがとうございました。最後に、約200年ぶりに復活する鷹山の一番の見どころを教えてください!
山田さん:やはり三条新町での辻回しですね。山鉾は、曲がり角で辻回しと呼ばれる方向転換を行います。10トンを超える豪華な山が、グルリと回る様は圧巻です。なかでも三条新町の交差点は他の場所と比べてとても狭いんですよ。技術的にも大変高度なものになりますし、青竹を敷いて音頭取りの合図に合わせて一斉に山を回転させるダイナミックな様子を私も楽しみにしています。
立岡:今年は、ぜひ私も見に行きたいと思っています。本日はどうもありがとうございました!
祇園祭の山鉾巡行に約200年ぶりの復活を2022年に遂げるのが鷹山。その鷹山保存会の山田理事長に復活までのストーリーや、祇園祭に懸ける想いを語ってもらいました。もちろん今年の見どころもご紹介します。