山田さん:そうですね。スポーツ感覚で神輿を担ぐ人もいますが、僕の場合は、父やOさん、そして神様のことがあってこその神輿ですね。考え方は人それぞれなので、良い悪いとか言うつもりはありませんが、毎年いろんなお祭に行って神輿を担ぐ人もいます。でも僕のここ(肩)はスサノヲノミコト(※)のために空けているもので、「よその神様は乗せたくない」と思っています。

(※)素戔嗚尊。山田さんが担ぐ神輿に乗る八坂神社の神様。
自分が神輿で担ぐのはスサノヲノミコトだけでいいと語る

自分が神輿で担ぐのはスサノヲノミコトだけでいいと語る

立岡:お神輿、いや祇園祭に対する本気度が伝わってきますね。

法被は死装束

山田さん:輿丁が着る法被ね、あれは死装束でもあるんですよ。

立岡:どういうことでしょうか?

山田さん:我われ輿丁が亡くなった時は、法被を身につけて、扇子や足袋も棺に入れる人がほとんどなんです。だから法被は死装束そのものです。自分は「たとえ神輿を担いでいる最中に死んでも文句は言わない」という覚悟で祇園祭に臨んでいます。最近は法被に派手な刺繍を入れたがる人もいますが、僕は死装束なのにそんなことするのはちょっと違うかな、と思っています。

立岡:たしかに…。そんな意味があったのですね。

輿丁の法被について語る山田さん

輿丁の法被について語る山田さん

山田さん:もうひとつ思い出があります。友人の輿丁が病で余命いくばくもないと聞かされてお見舞いに行ったときのことです。奥さんから「もう意識はない」と聞いていたんですが、「お前もうすぐ祇園祭の神輿やぞ、がんばれ!」と言葉を投げかけたら、「うん」と言ってくれたんですよ。神輿という言葉に反応してくれたのがうれしかったですね。後で奥さんに聞いた話ですが、亡くなる1日前に神輿の動画を流したら、意識がないなずなのに、掛け声である「ホイット」を、ささやくような声で言って、左肩に神輿を乗せるような動きをしたそうです。

その後すぐ亡くなってお葬式のときに、奥さんが「みんなで棺を担いでやってほしい」と言われました。はじめは躊躇したんですが「思う存分やってください」と言われたので、涙ながらに精一杯担ぎました。きっと棺の中で、こんな(ユサユサと揺れて)なっていたと思いますが、喜んでもらえたんじゃないかと思います。このように僕らにとっての神輿とは楽しいとかではなく、命を懸けたもの、人生そのものなんです。

立岡:良い話だ…(涙)。他にも輿丁についてわかるお話があったら、ぜひ教えてください。

山田さん:僕は、お朔日参りといって、毎月1日に八坂神社へ行ってお祈りをしています。

立岡:毎月ですか!

山田さん:僕の場合は自営業ということもあって、時間の都合はつけやすいですし、今ではもうお朔日参りに行かないと気持ち悪くなる感じですね(笑)。神輿を担ぐ時と同じく、舞殿を時計回りの方向に周ってお参りするのが習慣になっています。

立岡:そこは染み付いているわけですね(笑)

山田さん:あと、7月はきゅうりは食べないかな。

立岡: きゅうりですか!?それはまたどうしてでしょうか?

山田さん:八坂神社の御神紋は「五瓜に唐花(ごかにからはな)」と「左三つ巴(ひだりみっつともえ)」言われるものなんですが、五瓜に唐花の模様ときゅうりの断面が似ているんですよ。

右が「五瓜に唐花」

右が「五瓜に唐花」

立岡: そういうことか。なるほど〜!

山田さん:でも、八坂神社の境内で、冷やしきゅうり売っているんですけどね(笑)

立岡: なんと!まぁ、美味しいですもんね(笑)そう言えば、山田さんはお神輿のためにジムで鍛えておられるとか?

山田さん: ここ数年はコロナ禍のために行ってないんですけどね。コロナの前は、神輿をしっかり担ぐためのトレーニングメニューをこなしていました。

立岡: お神輿のためのメニューですか!

山田さん:トレーナーの人に「神輿をガッと持ち上げるメニュー」を組んでもらってるんですよ。主に足腰を鍛えるトレーニングですね。それを足袋を履いてやっています。

立岡: ジムで足袋!

山田さん:そうです。できるだけ神輿を担ぎ上げるときの状況に近い感じのほうが本番で力を出せますから。若い子に「山田さん、力ないやん」とは言われたくないですしね(笑)

 

昔はありえなかった!?三基の神輿が石段下に揃う奇跡

立岡: たくさんの素敵なエピソードをありがとうございました!ここからは、2022年の祇園祭についてお話をおうかがいしたいです。ズバリ、お神輿の見どころ…というと少し言い方が違う(※)かもしれませんが、見て欲しいものがあれば教えてください。

(※)「見どころ」とは書いていますが、神様が乗るものなので、基本的には見せ物ではなく、お祈りをするものという認識です。お神輿を上から見るのも良くないと考える方もいらっしゃいます。

山田さん:残念ながら今年は披露できないのですが、一番はやっぱり17日の神幸祭18:00頃に、八坂神社の石段下に3基の神輿が揃い踏みすることですね。2,000人近い輿丁が石段下を埋め尽くす迫力は凄いですよ。

立岡 : ぜひ見たいです!が、今年はないのですか?

山田さん : 「究極の密」ですからね。来年を楽しみにしてください。この3つの神輿が揃うというのは、これまでの歴史を考えるとありえないくらいの奇跡なんですよ。

立岡: そんなにすごいことなのですか?

山田さん:あんまり大きな声では言えないのですが、昔は神輿会同士の関係が良くなかったと聞いています。というか、かなりバチバチしていたらしいです。

立岡 : 穏やかではないですね…。

山田さん: 法被の懐にドスを入れていたなんて話も聞きますね。

立岡:まさに「祭りと喧嘩は江戸の華」ですね。京都ですけど…。(妙にテンション上がる)うわあ、なんかますます見たくなってきた。来年は絶対石段下に行きます!

写真提供 三宅徹氏

「少しずつでも前に進むことに意味がある」。コロナ禍と祇園祭を振り返って

立岡: 今年のお神輿はコロナ対策のために例年のコースとは異なり、八坂神社から御旅所まで直行となりますが、ここまで来るのにも長い道のりでしたね。

山田さん:そうですね。2020年は神輿を神輿庫から出せず、2021年は八坂神社の舞殿まで。いろいろ葛藤がありました。

立岡: この2年間についても、お話を聞かせていただけますか?

山田さん:「疫病退散のお祭だし、自分たちは死んでもいい思いでやっているのになんで神輿を出せないんだ」と言うのが、正直な思いでした。でも、僕たちが決めることでもないのもよくわかっているんで、輿丁として何をしたらいいんだろうと、悶々としていましたね。

悩みに悩んで、猿田彦神社(さるたひこじんじゃ)という導きの神様がいる神社に行って「導いてくれ!」と祈ったこともありました。

山田さん:そうしているうちに、今は神様が「ちょっと待て」と言っている時期なんだ、とも考えられるようになりました。それまでに、1年くらい掛かっているんですけどね。

お神輿を出せない悔しさと、今は待つべきという気持ちが混在する

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この記事を書いたKLKライター

編集者
立岡 美佐子

東京から京都に引っ越してきた、編集者。

普段は、『TRANSIT』や『FRaU』など雑誌やメディアづくりに関わったり、企業や個人のWEBサイトを制作していますが、それは表の顔。裏では人を軸に京都を深ぼるイベント「ひみつの京都案内」を運営しています。

東京の大学在学中も京都が好きで、同志社大学に国内留学していました(専攻は歴史学)。趣味は、合気道と食べ歩き。

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