貝覆い(貝合わせ)の遊びは蛤の貝殻の外側の柄の相方を探してゆく遊びです。ですので厳密に言えば貝殻の外側は自然のままにしておく必要があります。
まして、香合として菊の置上をされたものは茶道具ですから、貝合わせや貝桶に混ざってそこにある状況はあり得ません。貝合わせを仕事にした今となっては、こういった絵柄を見るたびに香合が間違って貝桶に迷い込んだような、いっしょくたにされている感じに見えてしまいます。しかし、そもそも着物の絵柄の魅力は着る人を輝かせることですから、題材を存分に使い、王朝文化の華やかさと優美さがひと目でわかる表現になっている絵柄は見事だとも思います。どの絵柄も全体がまとまっているので、絵柄としての不自然さは全く感じません。また現代においては貝合わせの文化や伝統を伝え残して行くための役割も果たしていると思います。

枕慈童と菊酒の貝合わせ

枕慈童と菊酒の貝合わせ

私は呉服屋に生まれ育ちましたから、貝合わせや貝桶の文様の着物を子供の頃から沢山目にしていました。ですので新たに現代的な貝合わせをご提案しようとした時、思いついたのは、まるで着物の文様のようなもの、お持ちになった方の心が華やぐような貝合わせ作品をご提案したいと考えました。着物の文様の自由な表現の世界はわかりやすく伝わりやすい、そして何よりも心が晴れやかになるものです。皆様も貝合わせや貝桶の着物や帯を見かけたら、菊置上蛤香合に気づいていただけると嬉しいです。

 

大人のための雛祭り「重陽の節句」

さて、重陽の節句では大人の雛祭り「後の雛」と言って雛人形を出すことがあります。江戸時代にそのようなことがあったらしく、一般的ではありませんが現代でも復古活動が行われています。雛人形・雛道具には菊の文様が使われていることも多く、私の持っている雛人形や雛道具にもデザインに菊が使われています。
3月に雛人形を出すだけでも大変なのに、9月にもなんてと思われる方も多いのですが、我が家では取り出しやすいところに三人官女などは仕舞っておいて、ことあるごとにすぐに出せるようにしています。人形と共に菊を飾ることで室礼がより一層華やかになりますので皆様も是非、重陽の季節、雛人形を出してみてはいかがでしょうか。京都では雛人形店などの店先のウィンドーで「後の雛」をされているところがあり何気ない日常の中で当たり前のように雅な世界が目に映るのは本当に幸せなことです。

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この記事を書いたKLKライター

とも藤 代表
佐藤 朋子

京都市中京区の呉服店の長女として生まれ、生粋の京都人である祖母や祖母の叔母の影響をうけながら育つ。通園していた保育園が浄土宗系のお寺であったことから幼少期に法然上人の生涯を絵本などで学び始め、平安時代後期の歴史、文化に強い関心を抱くようになる。その後、浄土宗系の女子中学高等学校へ進学。2003年に画家の佐藤潤と結婚。動植物の保護、日本文化の発信を共に行なってきた。和の伝統文化にも親しみ長唄の稽古を続けており、歌舞伎などの観劇、寺社への参拝、院政期の歴史考察などを趣味にしていたが、2017年、日向産の蛤の貝殻と出会い、貝合わせと貝覆いの魅力を伝える活動を始める。国産蛤の⾙殻の仕⼊れ、洗浄、蛤の⾙殻を使⽤した⼯芸品の企画販売、蛤の⾙殻の卸、⼩売、⾙合わせ(⾙覆い)遊びの普及を⾏なっている。

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京都市中京区の呉服店の長女として生まれ、生粋の京都人である祖母や祖母の叔母の影響をうけながら育つ。通園していた保育園が浄土宗系のお寺であったことから幼少期に法然上人の生涯を絵本などで学び始め、平安時代後期の歴史、文化に強い関心を抱くようになる。その後、浄土宗系の女子中学高等学校へ進学。2003年に画家の佐藤潤と結婚。動植物の保護、日本文化の発信を共に行なってきた。和の伝統文化にも親しみ長唄の稽古を続けており、歌舞伎などの観劇、寺社への参拝、院政期の歴史考察などを趣味にしていたが、2017年、日向産の蛤の貝殻と出会い、貝合わせと貝覆いの魅力を伝える活動を始める。国産蛤の⾙殻の仕⼊れ、洗浄、蛤の⾙殻を使⽤した⼯芸品の企画販売、蛤の⾙殻の卸、⼩売、⾙合わせ(⾙覆い)遊びの普及を⾏なっている。

|とも藤 代表|貝合わせ/貝覆い/京文化

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