地方の発展

高知県にある四万十市中村という都市をご存じでしょうか。この地を上空から眺めると、京都のように碁盤の目に区切られていることがわかります。中村の地は大文字の送り火に似た行事があるなど「土佐の京都」と呼ばれ、関白・一条懐良の息子である教房が、応仁の乱で京都から疎開してきたことに遡ります。この高知県中村のように、町並みや風情が京都に似ている都市は「小京都」として名を馳せ、山口県山口市、岐阜県飛騨高山、宮城県岩出山町などが有名です。小京都の多くは、地方に疎開した貴族や僧侶たちが、京文化を伝え再現したことから始まりました。最初は模倣に過ぎなかったかもしれませんが、時を経るとともに地方文化と融合し、新たな文化を形成するに至りました。

このように、応仁の乱の副産物として日本文化の原型が成されるとともに、その土地その土地の文化の発展がありました。これも「ヘタレ将軍だけど一流の文化人」足利義政のなせる業といえるでしょう。

飛騨高山

飛騨高山

応仁の乱が京都に残したもの

最後に、応仁の乱がその戦場となった京都そのものに及ぼした影響について考えてみます。応仁の乱により京の町は破壊され、朝廷や幕府はその機能を失いました。それは同時に京都の権力が著しく低下したことを意味します。しかし、小京都に象徴されるように「京都へのあこがれ」は逆に強まりました。あこがれは崇敬につながり、京都の「権威」は以前よりも高くなります。戦国大名が上洛を目指したのは、権威ある京都を押さえることが天下取りにつながると考えたからです。私は、現代の京都の位置づけを「権力はないが権威はある都市」だと考えています(京都人のひいき目?)。この京都のポジションは、応仁の乱の時代にできたものなのかもしれません。

さて、応仁の乱が京都に残したもうひとつが「西陣」の名称です。西軍総大将の山名宗全が自邸を本陣としたため、この地で「西」軍の「陣」地として西陣の名称が誕生しました。このときは単なる陣地としての名前に過ぎなかったのですが、乱後に復興した織物産業がこの一帯を中心に発展したため「西陣織」として後世に、そして世界に轟かせる名称となりました。西陣織は京都の主幹産業として長らく繁栄し、また西陣は観光地として多くの人を惹きつける魅力を放っています。

山名宗全邸跡 (西陣発祥の地)

山名宗全邸跡 (西陣発祥の地)

私は思います。もし、西陣という名前がなかったら、産業そして観光地としてここまでの発展を遂げただろうか?と。この優美な絹織物に「西陣」といういかめしい言葉を戴く組み合わせは、ミスマッチの妙とともに重厚感を漂わせます。そこに大いなる存在感を感じるのは西陣LOVEを自称する私だけではないと思います。

戦争とは、さまざまな悲劇を生みだす絶対にあってはならないものです。しかし、応仁の乱が京都さらには日本に残したプラスの側面もまた見逃すことはできません。応仁の乱、そして足利義政の生き様を通じて学ぶべきもの、それは「なにごとにもオモテの面があればウラの面があり、物事は一面だけでは計りしれない」ということなのかもしれません。

【参考文献】
応仁の乱/呉座勇一
戦国時代前夜 応仁の乱がすごくよくわかる本/水野大樹
マンガ応仁の乱/小和田哲男
歴史人 真説応仁の乱/KKベストセラーズ
歴史人 戦国時代の全国勢力変遷地図/KKベストセラーズ
図解 応仁の乱/小和田泰経
PRESIDENT Online「教科書ではわからない応仁の乱の面白さ」/倉山満
30の戦いから読む日本史 上/小和田哲男
日本史のツボ/本郷和人
京都の謎【戦国編】/高野 澄
逆説の日本史 7-8 /井沢元彦
祇園祭と戦国京都/河内将芳
京都謎解き街歩き/浅井建爾
京都 地理地名地図の謎/森谷尅久
京都の歴史がわかる事典/五島邦治
地形と地理でわかる京都の謎/青木康 古川順弘
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この記事を書いたKLKライター

八坂神社中御座 三若神輿会 幹事 / (一社)日本ペンクラブ会員
吉川 哲史

祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。

日本語検定一級、漢検(日本漢字能力検定)準一級を
取得した目的は、難解な都市・京都を
わかりやすく伝えるためだとか。

地元広告代理店での勤務経験を活かし、
JR東海ツアーの観光ガイドや同志社大学イベント講座、
企業向けの広告講座や「ひみつの京都案内」
などのゲスト講師に招かれることも。

得意ジャンルは歴史(特に戦国時代)と西陣エリア。
自称・元敏腕宅配ドライバーとして、
上京区の大路小路を知り尽くす。
夏になると祇園祭に想いを馳せるとともに、
祭の深奥さに迷宮をさまようのが恒例。

著書
「西陣がわかれば日本がわかる」
「戦国時代がわかれば京都がわかる」

サンケイデザイン㈱専務取締役

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祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。

日本語検定一級、漢検(日本漢字能力検定)準一級を
取得した目的は、難解な都市・京都を
わかりやすく伝えるためだとか。

地元広告代理店での勤務経験を活かし、
JR東海ツアーの観光ガイドや同志社大学イベント講座、
企業向けの広告講座や「ひみつの京都案内」
などのゲスト講師に招かれることも。

得意ジャンルは歴史(特に戦国時代)と西陣エリア。
自称・元敏腕宅配ドライバーとして、
上京区の大路小路を知り尽くす。
夏になると祇園祭に想いを馳せるとともに、
祭の深奥さに迷宮をさまようのが恒例。

著書
「西陣がわかれば日本がわかる」
「戦国時代がわかれば京都がわかる」

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|八坂神社中御座 三若神輿会 幹事 / (一社)日本ペンクラブ会員|戦国/西陣/祇園祭/紅葉/パン/スタバ

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