「十五夜」は「中秋節」として東アジアでは伝統的な行事ですが「十三夜」は日本固有の風習です。秋の収穫を感謝する意味合いもあり「豆名月」「栗名月」などとも言われ、行事食として豆や栗を食べます。現在でも宮中では十三夜に十五夜同様のお供えや飾りをされ、月見料理がつくられ夕餐をとられます。「十五夜」だけでなく10月に楽しむ「十三夜」も是非お楽しみください。
そして、栗といえば蛤と栗には関わりがあるんです。

裏メニューその3 蛤は「浜栗」

栗名月

栗名月

そもそも蛤の貝殻には様々な色があります。白やグレー、黄色のもの、紫、緑っぽいもの、そして稀に茶色の蛤も見かけます。蛤の語源は「浜栗」。浜に生息する栗のような形の貝、と言われていますが、実際に茶色の蛤は栗に大変よく似ています。とも藤では「栗名月」にちなみ10月の飾りとして茶色の蛤ばかりを盛り、栗に見立てて飾ったり、茶色の蛤の内側に紅葉を描いたりして、蛤の語源の由来をお伝えしています。

吹寄の貝合わせ

吹寄の貝合わせ

裏メニューその4 龍頭の相方、鷁首(げきしゅ)

さて、現在にも伝わる年中行事は日本の風土と共に育まれたものが多いのですが、観月はそもそも平安時代に中国、唐の国から詩文と共に伝わって来たものです。『中右記』によると十五夜の夜、白河上皇をはじめ、数十人が船に乗り込み、楽器を奏で酒を楽しみ、和歌に節を付けて詠ったそうです。この観月の船は二隻一対で「竜頭鷁首」と呼ばれています。竜の相方としては鳳凰を見かけることが多いのですが、観月の船の鳥は鷁(げき)の首。鷁は想像上の水鳥の名前で、風や波に耐えてよく飛ぶことから水難除けとされます。

竜頭鷁首

竜頭鷁首

京都では観月の季節に竜頭鷁首を見る機会がありますので、その際には竜だけでなく、鷁の方も是非ご覧になってください。また平安時代の貴族たちは直接月を仰ぎ見ることはせず、水面に映った月を眺めていたそうです。夫で画家の佐藤潤の作品には「後の月」と題された鷁首を描いたものがあります。竜と同様に華やかに彩られた鷁は知る人ぞ知る伝説の水鳥です。


 

おわりに

いくつかの裏メニューをご紹介してきましたが、蛤にまつわるものもあり大変興味深く感じています。明治時代に旧暦から新暦になり、行事を行う上でずれが生じていますが、旧暦は太陰太陽暦、新月が月の始まりとなる暦ですから、月の影響を受けている潮の満ち引きと日本の節句や行事が関係しているのではないかと大正時代の料理研究家、本山萩舟の『飲食事典』には書かれています。潮の満ち引きの水位の差が大きい「大潮」は春分と秋分の時期に大きくなり「彼岸潮」とも言われ潮干狩りに向いており、おのずと蛤を食べる機会となるというわけです。月の満ち欠けの習いから言うと雛祭のころが蛤を食べる最後のシーズンで、中秋の名月の頃が蛤のシーズンの初めということになります。今では蛤の種類や蛤漁の方法も当時とは違いますし、誰でも自由に潮干狩りが出来る場所も限られていますから、蛤の食べ頃も昔とは変化していますが、大正時代ごろの人々は新暦になったことで節句行事が変化したり失われたりすることを心配していたのかもしれません。

私は今年もまた名月を眺めながら蛤を想い、古来からの風習や月の満ち欠けに思いを馳せています。よく知られている行事も少し角度を変えて見てみると面白い、年中行事の裏メニューをまだまだ探してみたいと思います。

参考文献
扶桑社 宮内庁監修『宮中 季節のお料理』
平凡社ライブラリー 本山萩舟『飲食事典 下巻』
『語源辞典 動物編』吉田金彦 編著 東京堂出版
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この記事を書いたKLKライター

とも藤 代表
佐藤 朋子

京都市中京区の呉服店の長女として生まれ、生粋の京都人である祖母や祖母の叔母の影響をうけながら育つ。通園していた保育園が浄土宗系のお寺であったことから幼少期に法然上人の生涯を絵本などで学び始め、平安時代後期の歴史、文化に強い関心を抱くようになる。その後、浄土宗系の女子中学高等学校へ進学。2003年に画家の佐藤潤と結婚。動植物の保護、日本文化の発信を共に行なってきた。和の伝統文化にも親しみ長唄の稽古を続けており、歌舞伎などの観劇、寺社への参拝、院政期の歴史考察などを趣味にしていたが、2017年、日向産の蛤の貝殻と出会い、貝合わせと貝覆いの魅力を伝える活動を始める。国産蛤の⾙殻の仕⼊れ、洗浄、蛤の⾙殻を使⽤した⼯芸品の企画販売、蛤の⾙殻の卸、⼩売、⾙合わせ(⾙覆い)遊びの普及を⾏なっている。

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|とも藤 代表|貝合わせ/貝覆い/京文化

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