今月はうるしのお話。
うるしのうつわというと、手入れが大変で扱いにくい、お正月だけしか使わない、なにを盛れば良いかわからない…なんてお話をよく伺います。

私もかつてはそう思っていました。

テーブルコーディネートに出会ったのは学生時代。結婚式場でアルバイトをしたことがきっかけで興味を持ち、その後就職し、会社員をしながら休みを利用してコーディネートについて学んでいました。
そんな時に見たテーブルには必ずと言っていいほど、お椀やお盆、お重箱などの漆器が使われていて、陶磁器だけでは表現出来ないおしゃれでセンスの良い表現にとても感銘を受けました。漆器の魅力をもっと知りたいと、あちらこちらの漆器店や古美術店、東寺の骨董市やアンティークイベントなどに見に行きました。

そんな時、出会ったお椀。

うるしのお椀

うるしのお椀

芭蕉の葉が大胆に蒔絵で描かれたふた付きのお椀。店主さんによると江戸期~明治期のものではないかと。漆器に関して初心者の私に、とても丁寧に絵の解説やうるしの扱い方など教えていただき、はじめて自分で買った年代もの。今でも大事に使っています。

また、うるしのうつわは陶磁器に比べて、軽く、割れにくく、それに熱い汁ものを注いでも持てないほどの表面温度にはならないので、子ども向けや福祉の食器としてもオススメです。


京都のうるし

日本のうるしの歴史は古く、中国からも伝わりましたが、すでに縄文時代から漆工が行われていたんだそう。福井県内で出土し、博物館で展示されていた6000年前のうるしの櫛を以前に見たときはその耐久性にとても驚きました。

奈良時代には蒔絵が生まれ、平安京への遷都と共に技術が受け継がれ京漆器が誕生。室町時代に盛んになった茶の湯文化の影響で漆器産業の中心となり現在に至ります。

京都の漆器の特徴はその生地の薄さ。繊細なフォルムから“はかなさ”を感じますが、他の産地と違い、うるしの割合が多い下地を使って塗り固めるため、見た目とは違い丈夫で強いものに仕上がります。高価なのはその理由から。
絵柄も余白を大切にした洗練されたものが多く見受けられます。
また、食器だけでなく、茶道に使うお棗や炉の縁、タンスや棚などの家具なども作られているのも特色です。

うるしの原材料はウルシの木の樹液。ウルシ科の落葉広葉樹で、初夏から初秋にかけて、道具を使い樹皮に横筋を入れ、出てきた樹液を採取します。(うるし掻きと言います)
6月中旬~7月上旬頃に取れるうるしを「初辺(はつへん)」、以降8月中のものを「盛辺(さかりへん)」、終盤の9月に採取される「末辺(すえへん)」と言われ、掻く時期によってうるしの粘度や色合い、硬化速度も違い、用途によって使い分けられています。

うるし掻きされた木の写真

うるし掻きされた木の写真

(於:やくの木と漆の館)

現在、うるしはそのほとんどを中国から輸入しています。安価な中国産が入ってきたことで、かつて日本中にあったうるしの産地、うるし掻きだけでは生計を立てられないことから次第に栽培や採取も少なくなり、国内産のうるしは国内消費量のわずか5%となっています。
ですが、良質なうるしの生産を守るために、古くからのうるしの産地、京都府の北西部にある福知山市夜久野町ではうるしの木の植樹、うるし掻き職人の育成、うるし文化の発信など次世代につなぐ取り組みを続けておられます。

採れたうるしは、発酵させたのちに熱を加えて水分を抜き、“透きうるし”を作ります。これに鉄分を加えて混ぜ、紙で濾すと“漆黒”の語源となる、つやのある美しい黒うるしに仕上がります。また、透きうるしに顔料を混ぜると色漆が出来ます。

うるしの作品が出来るまで

伝統産業全体に言えるのですが、工芸品制作の工程は分業で行われることが多く、漆器制作もその例にもれず。工程は大きく分けて3つに分けられます。

漆器の製作工程

①素地…ヒノキや桐、ケヤキなどの木材を用い、お椀やお盆など木の素地を成形します。
お椀などの円形のものはろくろを回し、刃物で削って作る「挽物師(ひきものし)」、箱状のものや台などを釘を使わず板や棒を組み立てる「指物師(さしものし)」、薄く切った木を曲げて、円形状にして容器を作る「曲物師(まげものし)」など、それぞれの専門家が作成します。

②下地・髹漆(きゅうしつ)…素地を丈夫にするために、下地用のうるしを擦り込み、場合に寄っては布を貼って補強、さらにうるしに砥の粉(★)に混ぜた「錆漆(さびうるし)」を塗り重ね、固まった後に研いで下地の完成になります。
そこから下塗り→中塗り→上塗りとうるしを3段階に塗り、その工程の間には炭を使って研ぐ作業が行われます。
特に上塗りの工程はつややかな表面に仕上げるためにホコリは厳禁。服装もホコリの立たない素材のものを選び、エアコンや扇風機、冬ならストーブなど風が起こる物はすべて止め、ホコリが落ち着くまで静かに過ごしてから作業を始めるんですって。
★砥の粉とは京都市山科区で採れる非常に細かな粒子の石。うるしの下地のほか、木工製品の仕上げ
に使われます。

塗った漆を乾かす漆風呂。室(むろ)とも。 適度な湿度でうるしを固めます。

塗った漆を乾かす漆風呂。室(むろ)とも。 適度な湿度でうるしを固めます。

(於:蒔絵平野)

③加飾…塗りの工程で仕上げられたうるしに装飾を施します。
色うるしを使って筆で直接絵を描く「漆絵」、専用の小刀で彫り、その溝にうるしと金粉をすり込んだ「沈金」、うるしで絵を描いた部分に金粉を蒔く「平蒔絵」、炭粉を使って平蒔絵よりさらに立体的に描く「高蒔絵」、金粉を蒔いた上からうるしを重ね、硬化後に炭を使って研ぐ「研出蒔絵」などがあります。

加飾に使う道具(一部)

加飾に使う道具(一部)

左上:金粉・銀粉、左下:うるしの色々、右から:うるしを混ぜるヘラ、金を蒔く粉筒、蒔絵筆、針描(蒔絵の上から引っ掻いて線画すること)用の針

(於・蒔絵 平野)

また、貝や金箔・銀箔をかたどって切ったものを付ける「螺鈿」「平文(ひょうもん)」、卵の殻を細かくしたものを使う「卵殻蒔絵」も研出蒔絵の一種です。

以前、自身が螺鈿体験をして作成したお盆。製作体験するたびに、職人さんのすご技を痛感します…。

以前、自身が螺鈿体験をして作成したお盆。製作体験するたびに、職人さんのすご技を痛感します…。

うるし=かぶれる!と思われる方も少なくないと思います。ですがそれは、山でうっかりうるしの木に触ったり、職人さんが液状のうるしを使っての制作中におこること。塗り終わってから時間が経ち十分に固まって、お店で並んでいるうつわはほとんど心配ないとのことなので、ご安心を。

 

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この記事を書いたKLKライター

おきにのうつわ
食空間コーディネーター 工芸品ディレクター
三谷 靖代

京都生まれ。祖父の代まで染屋を営み、親戚一同“糸へん”の仕事にたずさわる環境で育ち、学生時代はファッションを学び、ウェディング業界へ就職。そこで出会ったテーブルコーディネートに感銘を受け、後に食空間コーディネーターとして起業。京都の伝統産業の産地支援や、五節句や年中行事など生活文化を次世代に伝える活動を行っています。京焼・清水焼の卸売をする夫と夫婦ユニット「おきにのうつわ」を結成して、京焼・清水焼の魅力の発信や講演、展示会プロデュース、また陶磁器以外の伝統産業品のPRや観光業とのコラボなども手がけています。近年スタートさせた「伝活」では実際に京都の伝統産業品を愛でたり、使っている様子をSNSで紹介。
特非)五節句文化アカデミア 理事

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