この時、渡す方は小指と薬指を底に掛け、低い声で

「千秋万歳(せんずまんぜい)御貝桶渡し申し候」といいます。
受け取る方は「千秋万歳(せんずまんぜい)御貝桶請け取り候」と言います。

 黒々と光った漆塗りの貝桶にはたっぷりと蛤貝が入っていますから随分と重たかったでしょう。貝桶渡しの儀が終わると輿渡しの儀が行われようやく嫁が婚家に入ります。当時の婚礼では嫁が婚家から戻らぬようにと祈りが込められ、小さな所作まで厳密に決まりごとがあり、まるでまじないのように何重にも縁起を担ぎました。

現代の挙式にも伝統文化を

昔の婚礼を想像するとそのやりとりが仰々しく、また大層過ぎるように思えます。結婚をする当人同士が主導の現代では考えられないことです。年々、結婚式は自由に行われるようになっていますが、古い婚礼を知れば知るほど、婚姻とは本来、婿側にとっても嫁側にとっても慎重になるべきことなのだと思うようになりました。ライフスタイルの変化とともに変貌する結婚式の中に日本人ならではの伝統的な一面を取り入れることは夫婦の間に新しい生活への責任が芽生えるかも知れません。

現代的な貝合わせを挙式に

リングピローとしての貝合わせ

リングピローとしての貝合わせ

最近では蛤の貝殻を神社婚や人前婚での指輪交換にお使いになる方がおられ、とても嬉しく思っています。私どもでは和装、洋装に関わらずお使いいただける現代的なモダンなデザインの貝合わせを様々にご提案し、すでに沢山のカップルにお使いいただいております。婚礼に蛤のお吸い物を食べるのは江戸時代の享保(18世紀)以降で、徳川吉宗が考えたと「明君享保録」に書かれており、また陰暦の10月は神無月で出雲に集まった神の間で縁結びが評議され、陽暦11月は婚礼月に適しているという古い伝説もあるようです。伝統的な婚礼の儀式や儀礼には日本の歴史文化が凝縮されています。蛤の文化、貝合わせの文化が日本の結婚式の中にこれからも残るように、とも藤では様々にご提案してゆきたいと思っています。

参考文献
『結納の研究』太田武男著 株式会社一粒社
『結婚の歴史』日本における婚礼式の形態とと発展 江馬務著
日本風俗史学会編集 文化風俗選書1
『飲食事典』下巻 本山萩舟著 平凡社
『昭和の結婚』小泉和子編 河出書房新社
『お江戸の結婚』菊池ひと美著 三省堂
別冊太陽 日本のこころX 婚礼 平凡社
「出世娘栄寿古録」五雲亭貞秀 (国立国会図書館デジタルコレクション)
「徳川種姫婚礼行列図」(文化遺産オンライン)
Twitter Facebook

この記事を書いたKLKライター

とも藤 代表
佐藤 朋子

京都市中京区の呉服店の長女として生まれ、生粋の京都人である祖母や祖母の叔母の影響をうけながら育つ。通園していた保育園が浄土宗系のお寺であったことから幼少期に法然上人の生涯を絵本などで学び始め、平安時代後期の歴史、文化に強い関心を抱くようになる。その後、浄土宗系の女子中学高等学校へ進学。2003年に画家の佐藤潤と結婚。動植物の保護、日本文化の発信を共に行なってきた。和の伝統文化にも親しみ長唄の稽古を続けており、歌舞伎などの観劇、寺社への参拝、院政期の歴史考察などを趣味にしていたが、2017年、日向産の蛤の貝殻と出会い、貝合わせと貝覆いの魅力を伝える活動を始める。国産蛤の⾙殻の仕⼊れ、洗浄、蛤の⾙殻を使⽤した⼯芸品の企画販売、蛤の⾙殻の卸、⼩売、⾙合わせ(⾙覆い)遊びの普及を⾏なっている。

記事一覧
  

関連するキーワード

佐藤 朋子

京都市中京区の呉服店の長女として生まれ、生粋の京都人である祖母や祖母の叔母の影響をうけながら育つ。通園していた保育園が浄土宗系のお寺であったことから幼少期に法然上人の生涯を絵本などで学び始め、平安時代後期の歴史、文化に強い関心を抱くようになる。その後、浄土宗系の女子中学高等学校へ進学。2003年に画家の佐藤潤と結婚。動植物の保護、日本文化の発信を共に行なってきた。和の伝統文化にも親しみ長唄の稽古を続けており、歌舞伎などの観劇、寺社への参拝、院政期の歴史考察などを趣味にしていたが、2017年、日向産の蛤の貝殻と出会い、貝合わせと貝覆いの魅力を伝える活動を始める。国産蛤の⾙殻の仕⼊れ、洗浄、蛤の⾙殻を使⽤した⼯芸品の企画販売、蛤の⾙殻の卸、⼩売、⾙合わせ(⾙覆い)遊びの普及を⾏なっている。

|とも藤 代表|貝合わせ/貝覆い/京文化

アクセスランキング

人気のある記事ランキング