私たち夫婦はお酒が大好き。
今まで、ビール、焼酎、ワイン、ウイスキー、日本酒、泡盛…一通りのお酒を試し、一通りお酒の失敗も経験して…紆余曲折、近年は日本酒を好んで飲むことが多くなりました。
とは言いましても、日本酒の味や香りについて語るにはまだまだ至らず。自分たち好みのお酒を見つけるために、色んな食事と組み合せて飲み比べ、チョコレートやあんぱんとの組み合わせに出会った時はとてもびっくりしたりと、日々勉強中です。


京都の酒造りは飛鳥・奈良時代にはすでに始まっていたと言われ、専門の役所「造酒司(みきのつかさ)」が設置されたほど朝廷にとってお酒は重要なものでした。
現在、京都の日本酒は京都市(洛中エリア・伏見エリア)、京丹後市、宮津市、福知山市、京丹波町、亀岡市、城陽市などで造られています。
長年培われてきた技術で醸す日本酒は、京都市指定の伝統産業のひとつになっています。

 

京都市が全国初!日本酒乾杯条例

「日本酒乾杯条例」って聞かれたことはありますか?
有数の酒どころのひとつである京都市で2013年、全国初となる「京都市清酒の普及の促進に関する条例」いわゆる「日本酒乾杯条例」が誕生しました。宴席などで飲まれるのは洋酒が主流の昨今ですので、乾杯は地元京都産の日本酒で行いましょうという取り組みです。この条例の施行以降、たくさんの宴席にて積極的に日本酒で乾杯されているのを見るようになりました。(ただし日本酒で乾杯しなくても罰則はないですよ!)

この京都市の乾杯条例を皮切りに全国の酒どころのある自治体にも広がり、兵庫県伊丹市や秋田県、新潟県長岡市、山形県山形市などでも条例が施行されています。

その後、条例は日本酒以外の飲物にも波及して、ワイン(山梨県甲州市など)、梅酒(和歌山県田辺市)、焼酎(長崎県・鹿児島県など)、泡盛(沖縄県与那原町)、ビール(北海道恵庭市)や、さらにはアルコール以外に牛乳(北海道中標津町)、トマトジュース(愛知県東海市)なども加わり、地元の産業を後押しする取り組みがなされています。

余談ですが、ご当地の焼きものに注いで乾杯しようと笠間焼(茨城県笠間市)、常滑焼(愛知県常滑市)を推奨する条例なんてものもあります。

そういう私たちも、元からのお酒好きもあって、自身の結婚パーティでは京都のお酒で鏡開きを行い、乾杯したのも良い思い出。

京都のお酒で鏡開き

京都のお酒で鏡開き

そんな酒どころの京都。今後さらに京都のお酒を全国に、そして世界に広まるよう、ある研究をしている行政機関があります。
 

京都生まれの酵母

かつて日本酒と言えば、国税庁により「特級」「一級」「二級」と区分され、それぞれに決められた酒税が掛けられていました。(そういえばうちの親も「お正月やし、奮発して特級酒にした!」なんて言ってました。)
しかし、次第に画一化された審査で決められた区分は、消費者が求めるおいしさと連動せず形ばかりとなり、1992年廃止されました。
それに変わり「大吟醸」「吟醸」「純米」「本醸造」などといった〈特定名称酒制度〉が導入されました。お米の精米歩合や醸造アルコールの有無などで分けられています。

特定名称の清酒の表示

特定名称の清酒の表示

出典:国税庁ホームページhttps://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/seishu/gaiyo/02.htm を加工して作成

今回のタイトルにもある「お酒の味は酵母が決め手」
これ、最近知りました。

京都市下京区にある、地方独立行政法人 京都市産業技術研究所(以下産技研)。大正時代に設立された京都市工業試験場と京都市染織試験場が2010年に合併し、リサーチパーク内に出来た施設です。

京都市産業技術研究所

京都市産業技術研究所

こちらでは陶磁器や染織、漆と言った京都がこれまで培ってきた伝統的技術の効率やクオリティーをさらに高める研究から、先端産業といわれる新素材を使った技術の開発など、京都のものづくり企業のサポートをされています。
技術の相談、成分分析、設備のレンタル、ものづくり後継者育成など多岐にわたる支援をされていることから、「京都企業の駆け込み寺」のように思って頂けたらとおっしゃいます。

その産技研の組織に、京都の日本酒業界を支えるバイオ分野のチームがあり、1960年代から、業界からのニーズに応えるべく独自の酵母を開発されて、蔵元さんへ分譲されてきました。

ご存じのように酒造りにおいて必要不可欠な酵母。米のデンプンが酵素で分解され糖に変化すると、酵母(=微生物)が食べて、アルコールと炭酸ガスを作ります。その上、日本酒の出来具合に大きく影響がある香味成分もこの時生み出します。
その香りは原材料のお米とは打って変わって、なんとリンゴやバナナのような香りのものも。そう、発酵するとフルーツの香りに含まれる成分と同じものが出来るのです。日本酒を飲んだ感想で〈フルーティー〉という表現を聞くこともありますが、この成分がそう言わせているんだそうです。

研究室では今も酵母を研究中

研究室では今も酵母を研究中

(於:京都市産業技術研究所)

産技研でも近年の日本酒のトレンドに合わせた、京都生まれのオリジナル酵母「京都酵母」を開発。香味の印象が異なる「京の琴」「京の華」「京の珀」「京の恋」「京の咲」と名付けられた5種類を発表されています。

香りの立ち方、味わいの印象など酵母の種類によって違い、それぞれに特徴のある味や香りが楽しめます。
香味の特徴をマップにしたものがこちら。

京都酵母の香味マップ

京都酵母の香味マップ

出典:京都市産業技術研究所ホームページ
http://tc-kyoto.or.jp/LP/know-kyotokobo.html

「京の恋」は甘酸っぱい香味から初恋を連想して名付けられ、「京の華」はほのかにバナナの香りがすることから、〈バナナ〉から「華」の名が付いたんだそう!

偶然に生まれた酵母もあるんだとか

偶然に生まれた酵母もあるんだとか

(於:京都市産業技術研究所)

この酵母を元に造られた日本酒が新たな京都の食品ブランドとなるよう、分譲先も京都の蔵元さんに限定。これまでにも様々な京都酵母を使った銘柄を醸造されています。中には「米」「水」「酵母」とすべての原料が京都産の日本酒も醸造されていますので、今後、国内外にますます広まっていくことと思います。

京都酵母紹介パネル

京都酵母紹介パネル

(於:京都市産業技術研究所)

日本酒はかつての紋切り型の等級付け、それに変わる精米歩合での“ランク”の価値から脱却し、酵母の個性や酒器、食事の空間に至るまでの“スタイル”を楽しむ…そんな新しい考え方へのシフトを京都酵母が担っているのかも知れません。

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この記事を書いたKLKライター

おきにのうつわ
食空間コーディネーター 工芸品ディレクター
三谷 靖代

京都生まれ。祖父の代まで染屋を営み、親戚一同“糸へん”の仕事にたずさわる環境で育ち、学生時代はファッションを学び、ウェディング業界へ就職。そこで出会ったテーブルコーディネートに感銘を受け、後に食空間コーディネーターとして起業。京都の伝統産業の産地支援や、五節句や年中行事など生活文化を次世代に伝える活動を行っています。京焼・清水焼の卸売をする夫と夫婦ユニット「おきにのうつわ」を結成して、京焼・清水焼の魅力の発信や講演、展示会プロデュース、また陶磁器以外の伝統産業品のPRや観光業とのコラボなども手がけています。近年スタートさせた「伝活」では実際に京都の伝統産業品を愛でたり、使っている様子をSNSで紹介。
特非)五節句文化アカデミア 理事

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食空間コーディネーター 工芸品ディレクター|うつわ/清水焼/伝統産業

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