茶室は、茶の湯を執り行うことに特化した特殊な建築物です。「わび茶 」により、茶室では竹が随所で用いられ、道具にも竹が重用されていきます。
ライブハウスで例えると、オーナーのコンセプトに合ったアンプや機材が選ばれ、ステージに置かれている、というようなものです。

わび茶と竹

「わび茶 」では、高価な名物を避け、素朴な材料である竹の茶道具が好まれるようになりました。
釜の蓋を置く陶器製の【蓋置 (ふたおき)】や、茶を掬う象牙製の【茶杓 (ちゃしゃく)】にも竹製の道具が好まれるようになりました。
茶杓では、6㎜程の巾の中に“景色”を表現することが愉しまれます。「白竹 」をはじめ、「煤竹 」の濃淡、「黒竹 」の濃色、「しみ竹 」の模様、「しぼ竹 」の線条。一本の竹の持つ個性が、景色に反映されるのです。

竹の花入れ

床の間の正面や床柱に掛ける【花入れ】。様々な形式の花入れがありますが、一重切りと呼ばれる型には、マダケ白竹の根の分が使われます。

竹の花入れ

竹の花入れ

竹が地中に埋まっていた部分の節間は特に狭い間隔で詰まり、その節々からは無数の細かな根が伸びています。根を切り、磨き上げると、根元には丸の文様が現れます。また、その部分の身は相当に分厚いものです。
節と根の跡が作る造形美と、身の厚さが作る実用性。何よりも、竹は空洞であるから簡単に花を入れる事ができるという、竹の特性を活かした道具が「竹花入れ」なのです。
一重切以外にも、逆に竹の末の部分の節間の長さや身の薄さを活かし、床の間の隅に掛ける【柳入れ】や、あるいは、亀甲竹というアバンギャルドな容姿の竹でさえ「花入れ」になったものが利休作として現存しています。

竹のメンバー紹介

茶室や茶道具で登場した色々な竹をリストアップしてみます。ライブに例えると「メンバー紹介」。ちょっと強引気味ですが。

白竹

マダケを油抜きした竹。飾り気のないシンプルな竹であるが故に、1本1本のナチュラルな美しさがより際立ちます。

白竹

白竹

芽付竹

マダケ白竹の枝の跡をあえて残した竹。下の位置から枝が出ている必要があるので藪の中でも見つけにくい竹になります。

煤竹

マダケが茅葺屋根の構造材として数百年燻され、茶色になった竹。

女竹(別名:篠竹・大和竹)

節が大人しく、マダケとは異なる風貌で、節間の長さから篠笛になる竹。

矢竹

女竹と似ていますが、堅さや光沢もある竹。弓矢の矢の為に栽培された竹。

寒竹

ササの仲間の竹で、細く、節間の短い上品な竹。 

黒竹(別名:紫竹)

国宝の茶室【如庵】の窓には、紫竹を詰め打ちした「有楽窓」が残されています。

黒竹

黒竹

錆竹(別名:胡麻竹)

立ち枯れにより、細かな粒が表面に出た竹。

錆竹

錆竹

亀甲竹

天然で亀の甲羅のような特殊な形状の竹。

亀甲竹

亀甲竹

しぼ竹

マダケの変種で、皺のある竹。稀にですが、壁止めに使われることもあります。

しぼ竹

しぼ竹

しみ竹

マダケの中で、120年の開花周期の中の一時期だけに茶色の斑(模様)が現れた竹。その模様の味わいが茶道具で好まれます。

茶室の醍醐味

茶室は、茶の湯を執り行うことに特化した特殊な建築物です。その醍醐味は“狭さ”と“暗さ”にあります。と講義で教わりました。
“暗さ”によって見えづらいからこそ研ぎ澄まされる感性が、“狭さ”によって空間の感覚が狂うことに拠り、茶室が無限の宇宙のように思えてくる錯覚の心地よさを経験した時に、醍醐味の意味が何となくわかったような気分になりました。
 
“狭い”場所が、住宅のような天井高になると、どこか細長い見た目になってしまいます。そこで、縦横のバランスを取る為に、天井高が全体に低くされているのが茶室の特徴の一つなのです。
天井を低くしたがための工夫として、掛込天井の形式にして勾配を付ける事で、さりげなく高さを稼ぐ等、独自の様式が創造されてきました。そして天井からの圧迫感を避ける為に、良い意味での脱力感が感じられる材料として、竹やヨシが用いられたのでしょう。
ギターを弾くのには手の脱力感が重要、と同じこと、かな?

M邸茶室

M邸茶室

「わび」に見いだされた竹 

“暗い”場所では視覚が鈍りますが、目に見えない分、聴覚・嗅覚・触覚・味覚が敏感になります。五感で一服のお茶を感じる環境を醸すのが茶室の役割ともなります。
茶事の初座では下地窓の外に簾が掛けられていますが、後座では取り外し、更に「突き上げ窓」を上げ、外光が取り入れられます。採光の調整で場面転換の演出が図られ、亭主と正客の間の程良い光量のスポットライトとなるのです。
ライブで例えると「照明さん」。場面に応じたライトの演出があってこそ、拙い演奏が助けられます。

「わび 」に見いだされた竹。素朴で自然で、節のある形がさりげなく主張をし、個性を眺められる素材として認められた竹。1本の中から美意識を感じさせるのが「銘竹 」であるとすれば、その原点は「わびの茶 」であると思えてきます。 
例えると、ライブハウスでの演奏がプロデューサーの目に留まりメジャーデビューを果たしたバンドのようなもの、なのかも。

写真協力:東京・森田知実様/M邸茶室

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この記事を書いたKLKライター

銘竹問屋四代目・ギタリスト
利田 淳司

 
1967年京都市生まれ。
関西学院大学法学部卒。
1915年創業の銘竹問屋・(有)竹平商店4代目、代表取締役。
NHK「BEGIN JAPANOLOGY」「美の壺」などのメディアへの出演や「第8回世界竹会議」の開催組織委員・「日本人の忘れ物知恵会議」のパネラー等を務め、日本の銘竹の美を海外・国内に向け発信する活動を行っている。

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利田 淳司

 
1967年京都市生まれ。
関西学院大学法学部卒。
1915年創業の銘竹問屋・(有)竹平商店4代目、代表取締役。
NHK「BEGIN JAPANOLOGY」「美の壺」などのメディアへの出演や「第8回世界竹会議」の開催組織委員・「日本人の忘れ物知恵会議」のパネラー等を務め、日本の銘竹の美を海外・国内に向け発信する活動を行っている。

|銘竹問屋四代目・ギタリスト|竹/明智藪/嵐山/祇園祭/ギター

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