今月のお題は京都の金属工芸。
現代の暮らしの中で、金属は今や当たり前に存在しています。
今、ざっと家の中を見渡しても、お鍋にハンガー、缶ビール、スプーン、アクセサリー、コイン…もしかしたら骨折経験のある方は体内にも金属が入ってるかも。
金属の加工は紀元前7000~6000年頃、メソポタミア(現在のイラク周辺)が発祥と言われています。やがてインドや中国へ伝わり、さらに日本へ青銅と鉄が伝わったのは弥生時代。武器や装身具、銅鐸などが出土しています。飛鳥、奈良時代を経て、京都への遷都に合わせて金工の技術も伝わり、千年の都で発展していきました。
“金属の製品”と言うと、鉄骨や鉄柱を使った建造物や、ネジやバネといった部品など近代的な機械で生まれる工業製品のイメージを持たれるのではないでしょうか。
今回は、金属を使った創作物の中でも、長い時間を掛けて築かれて来た、伝統的な技法で作られている工芸品をご紹介したいと思います。
金属工芸 技法の色々
金属工芸は金や銀、銅、鉄と言った「単一金属」をはじめ、赤銅(しゃくどう・銅+数%の金を含む)、四分一(しぶいち・銅75%+銀25%)、真鍮(銅+20%以上の亜鉛を含む)などの「合金」を材料にして、それはそれは様々な技法で作られます。工芸品のカテゴリーとして“金属工芸”とまとめられていますが、紐解いていくと、本当にひとまとめにしちゃってもいいのだろうか?と疑問が湧くくらいです。では、その主な技法をご紹介。
金属工芸の主な技法
①溶かした金属を型に入れ冷し固める「鋳金(ちゅうきん)」
土や砂などの燃えない材質で作った型に、加熱して液体状になるまで溶かした金属を入れて作る方法です。鋳造(ちゅうぞう)や鋳物(いもの)とも呼ばれます。
鋳金の中でも作るものによって様々な型があります。
・惣型(そうがた):梵鐘やおりん、茶釜、鉄瓶などを作られる際に使われる技法。2種の型(外側と一回り小さい内側)を作り、その隙間に溶けた金属を注いで作られます。
・砂型:鋳造用の砂で原型を型取りし、窪んだ部分に金属を流し入れる方法は、神鏡・仏具などが作製されています。
・蝋形:蝋で作った原型を土で固めて焼き、蝋が溶け出た空洞に金属を注ぎ鋳造します。一品ものの美術作品に多く使われる技法です。
②金属の板をたたいて延ばして形づくる「鍛金(たんきん)」
金属に力を加えることで伸びたり、型に合わせて変形する「塑性(そせい)」を利用して作る方法。鍛金の中でも大きく分けて2種類の技法に分けられます。
・鍛冶:高温に熱し真っ赤になった金属の塊を、金槌や木槌で打ち延ばします。主に刃物、工具、農具が作られています。(熱間鍛造とも)
・鎚起(ついき):当て金を下に敷き、金属板をなましながら(熱を加え柔らかくする)金槌や木槌でたたき、板状から立体に形成する技法。茶道具や酒器、鍋などが作られています。(冷間鍛造とも)
③鏨(たがね)で文様を付けていく「彫金(ちょうきん)」
金属製の鏨のお尻を小さな金槌でたたき文様を付けていく技法です。
先端が刃物になっている「刃鏨」で線を彫ったり、魚々子(ななこ・魚の卵のような粒々の文様)や石目、梨地などの地模様を付けたり、文字を刻印する「打鏨」もあります。
彫金は指輪などのアクセサリーや神具・仏具・祭具などに見ることが出来ます。
④銅の生地に釉薬をのせ、窯で焼成して作られる「七宝焼」も金属工芸のひとつ。
アクセサリーやオブジェ、また功労や功績のある方に国より授与される勲章や褒章なども七宝で作られています。多くの製法がありますが、主なものをピックアップ。
・有線七宝:生地の上にリボン状の銀線で仕切って模様を作り、その間に釉薬を入れて焼き付けます。
・無線七宝:釉薬の間に金属の仕切を付けない製法。釉薬を乗せた後、焼成前に仕切を外したり、仕切が見えないように釉薬を盛っています。
・泥七宝(象嵌七宝):釉薬を入れる部分をあらかじめ窪ませて鋳造された生地に、昔ながらの不透明な釉薬を使い焼く方法です。
⑤京都で盛んに作られている「布目象嵌」
鉄の生地に鏨で布目模様のように縦・横の溝を作り、そこへ金や銀の図形や線などを書いて、金槌でたたき生地にはめこむ技法です。
かつては刀つばなど武器・武具の装飾として栄えましたが、近年はアート作品やアクセサリーなど装飾品を作製されています。
※七宝は京都府・京都市が、象嵌は京都市が指定する伝統工芸品では金属工芸とは別のカテゴリーになっています。
また、金属の表面仕上げにも、多くの技法があります。
美しく装飾したり、腐食しにくく強化するなどを目的に、薄い金属の膜を表面にコーティングする「鍍金(めっき)」や、薄くのばした金や銀の箔を貼る「箔押し」、薬品を入れた湯で煮たり、薬品を塗布して「着色」するなどの方法があります。
技法の総合芸術「錺(かざり)」
神社仏閣の建築物やお祭りの神輿、山車などに付けられる錺金具。
先で紹介した技法で製造されたものを材料にして組み合わせて、錺を作られる「錺職人」さんがいらっしゃいます。
完成後のイメージを元に、この部分はどの材料か、このパーツはどんな技法で表現するかなどを計画し、専門職人さんによる既製品をカスタマイズしたり、自作する部品と組み合わせるなどして作られていきます。
また場合によっては近代的な技術も駆使し、また費用も念頭に置きながらトータルにコーディネートして錺を完成させます。
言うなれば錺職人さんは「金属工芸の選手兼監督(+フロントも?)」といったところでしょうか。
金属工芸を身近に楽しむ
結婚を機に身に付けるようになった結婚指輪。ジュエリーメーカーさんがたくさんありますが、工芸品のPR活動している私たちなので、京都の金属工芸を身に付けたいと、普段はお茶道具を作ってらっしゃる金属工芸師さんが、私たちの無理を聞いて作ってくださいました。
また、金属で出来た一輪挿しも私のコーディネートに度々登場しています。すっとしたフォルムの一輪挿し。実は底に強力なマグネットを仕込んでもらっていて、テーブルクロスの下
に入れた金属板に付けて自立するようになっています。
冒頭で記述したとおり、身の回りにはたくさんの金属が存在します。
特に神社やお寺に行くと金属で出来た灯篭や襖の引き手、釘隠しなどの装飾品をたくさん目にすること出来ます。ぜひ、見かけられましたら当時の職人さんがどんな風に作ったものか思いを馳せてみてください。
京都金属工芸協同組合 (2023)
参照先
京都金属工芸協同組合ホームページ
香取正彦 井尾敏雄 井伏圭介 (1986) 金工の伝統技法 理工学社
長野 裕 井尾建二 (1998) 金工の着色技法 金工の着色技法 理工学社
金属工芸の技法、錺金具について「仁科旗金具製作所」仁科雅晴さんにご教授いただきました。