「令和五年祇園祭対談 八坂神社宮司 野村明義氏×祇園祭山鉾連合会理事長 木村幾次郎氏」 【第3部】八坂神社と山鉾
野村宮司「なぜ鉾が建って八坂神社が必要だったかという。そういう記録は残されていないので、それが時代によって変化したり、そこによって何で変化したとか、そういう記録もないので、いろんな考え方が出てきてよろしいかと思います。
山鉾っていうのは都の中の風水を整える、空気中の水の分子を正常化させるという働きで時計回りに回るという神輿のコースとは違う別の役割があると考えております。一方で神社の神輿には何の意味があるかというと、八坂神社の本殿の下には龍穴があるという構造になっているわけなんです。龍穴は記録によりますと50丈なお底なしとなっていますから、150m以上というそういう深さがある井戸ですよね。
それが神泉苑をはじめ都の水脈と全部つながっているという考え方にもなります。そうした水の井戸の上に神さんが祀られて、常に洛外で水の浄化のために神さんを祀っている。
それを祇園祭のとき、水無月の満月に合わせて都の水をもっと浄化していただくために神さんを都の真ん中へお連れする。その当時の御旅所には井戸があって、井戸の上に神輿を据えていたという。
構造的に同じなので、神輿の役目というのは水を浄化するという意味合いで、神さんを直接都へ持っていくことに意味があり、山鉾巡行は、都の中の風水の気を整えるというのが役目で、私は山鉾と神輿はそれぞれが、空気と水を浄化するための祭行事だというふうに考えています。
野村宮司「神様がないがしろになってしまうと、祭をやることが目的になってしまうんですよ。疫病を鎮めることが本来目的なんですけれども、祭優先になってしまうと神様がないがしろになって、例えばちまきをネットで転売するとか、そういうことにもなっているので、私は、祇園祭1150年の令和元年に、疫病が流行ったのは、神様が祭を止めたというふうにも考えられると思うんですよ。だからいっぺんリセットしましょうよ、と、それ以上続けると大変なことになるよという。」
野村宮司「祭の機能としてそういう町内地域を活性化させるという効果もあります。当然それは地域を復興させる人々の心をつなぐための祭。いろんな人が集まって一つのことをやるわけなんです。それは非常に大事なことなんですけど、その中心には神さんがいらっしゃるので、それが何もないと単なるイベントになってしまう。いろんな形に変わると思います。
逆に、祭の中心には神様がいらっしゃることが前提にあれば、豪華絢爛に変化していく、それでもっていろんな文化をまた生み出していくというのはあっていいことだと思います。」
祇園祭と鉦(かね)の音
木村理事長「いやいやいや、何がどうかは分からないんです。けども祇園囃子なんかでも長々やってると、長刀の鉦(かね)と函谷の鉦とはちょっと違うなっていうのはやっぱ分かるんですよね。
鉦はええとか、悪いとかでなく、こうあの一つの気持ちの中で、私自身があ〜ええ音色やなあっていうのはね。聞いてきた経験の中でそれはありますんでね。子どもが打つ鉦の音っていうのはね。私は現場演出の中でも一番大事なことやなと考えてるんです。だから今の鉦方には鉦をきちっと合わすのと同時に、いい音色で、鉦を打つっていうことは、これは大事だな、と。そのことを今、お囃子の中では伝えたいなという気持ちを言いますんで。
だからあの鳴鐶(なりかん)の音でもなんとなしに聞いててもちょっと違うなっていうことは、ちょっと下手なところで引っかかるとかあるんでね。私は今60年祇園祭やってますけど、この鉦の音っていうのが祇園祭の中では非常に特徴的な意味を持っていると思っているんです。そういう意味においては、あの鳴鐶の鉦もこうなんか、神社関係の中でも鈴とかそういう風なものは、精神性において意味があるんでしょうね。」
野村宮司「神社の鈴は主にお祓いですね。空間を浄化するというか、そういう音色っていうか。鉦っていうのは音と同じようにコンコンチキンに叩くことによって空気中の鉦の波動を起こすわけですよ。そういうことによって水の分子を浄化していくというか、そういう役目が祇園祭にあると私は思っているんです。だからブラスバンドや吹奏楽ではダメなんですよ。コンコンチキンじゃないとダメなんです。
祇園祭っていうのは鉦をちゃんと聞かせるための太鼓であり、笛であると思っているので、鉦が主たるもの、そこに太鼓が加わるんでしょう。太鼓はなんで太鼓かっていうこともあるんですよ。
この鉦と太鼓っていうのは化学変化を起こす音の音源なんですよ。両方ないと化学変化は起きない。神仏習合時代はそれだから疫病を鎮められていた。だから鉦と太鼓があっての疫病神事としての音楽なんですよ、芸能。それに笛が龍神を呼ぶというそういう役目があっての笛の芸能なんで、そういう風に疫病を鎮めるための演奏行事っていうんですか。音楽効果だと私は思ってます。」
後世に残したい祇園祭
木村理事長「祇園祭っていうのは、周りがどうあろうとこの鉾の形はこれなんだという形を残していきたいというのとは反対に、祭が脚光を浴びるとい色々な新しいものが入ってくるんですよね。これがなかなか難しいなと。新しいものを取り込んでいくことも大事なんですけど、この祇園祭はなぜ人々に愛されるのかを十分に認識して次の世代に送りたい。何でもありになってしまうと、これは人々の気持ちが離れていくのではないでしょうか。
最高の文化を継承していくのが大事なことであって、ある日突然その山鉾の懸装品が何かわけのわからんものになってしまったりとか、そういうふうなことにならないように、これからいろんな形で最高のものを残していく。そういうことが大事なことになっていくんだろうなと思いますけどね。これから材料がなくなっていく、それからそれを伝える技術がなくなっていく、ということは職人がいなくなっていく。そういうふうな意味においては、これからの祇園祭というのはいかに同じ形だと言われても、それを伝えていくのが非常に難しくなっていくんだろうなと思います。
一番端的なのはこのごろ「藁」がないと言われるんですけど、そういうふうに今まで普通にあったものが急になくなっていってしまうことを考えることも、これからの新しい時代をつくっていくにおいては大事なことだろうなと。あの縄がある日突然ビニールになったりしたら、ちょっとこれでいいのかな、ということになると思うので、そういうふうなこともこれから育てて、守っていかんならん部分もあるでしょう。
何でも新しくなったらいいというものでもないという、これからそういう選択をしていかんならん部分が非常に多くなるんだろうなと思うのが難しい。ご町内ではその個々の考え方が色々ありますから、それに対してはある種これだけは守ってや、というようなものを我々はきちっとつくっていかんといかんなとは思ってます。」
野村宮司「根本的なものは後世に残していかなければなりませんよね。何が入り込んでくるかわからない中で何を選択していくかというのは大事なことだと思います。信仰からこういった祭の形が生まれてきたので、それが神輿、あるいは山鉾巡行です。
人間にとって、水と空気というのは生きていくために最も必要なものです。これが澱むと大変なことになるので、水を浄化すること、そして空気を浄化すること、これが基本です。水と空気はただです。ただほど怖いものがないというぐらいこれを失ったら人間は生きていけないんです。神様の力をいただいて浄化をしていくというその根本的な考え方の中で祇園祭が生まれて様々な神事行事が生まれてきたというふうに考えます。
だからその精神的なものがなくなってしまうと、祇園祭が本当にパレードというかイベントになってしまうので、それだけは大事にしていきたいなと、将来的につなげていくためにですね。水の浄化という考え方はSDGsにもつながり、世界に発信していきたい日本の祭の文化だと思っています。
※1 お千度 氏子が町内の大勢で八坂神社に参拝を千度の参拝をすること、町内によっては3周の合計で千回分とみなしている。
※2 鐶(カン)神輿を担ぐ棒につける金具のこと。鳴鐶(ナリカン)も同じ。
※3 轅(ナガエ) 神輿を担ぐために取り付けられる大棒。
対談写真撮影:今村写真場
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