京都の陶磁器制作の近代化を目指し、作業効率をアップしようと計画的に造られたまち、清水焼の郷・清水焼団地。
成熟期を迎えると、レンタルアトリエの建設、教育施設などを充実させ、組合創立50周年を迎えた折には、これも京都の伝統産業である北山杉をふんだんに使った、「清水焼の郷会館」が建てられました。組合の事務的機能や組合員の作品の展示場・会議室・体験工房・共同で使えるガス・電気窯、それに茶室も作られ、産業や文化の発信のランドマークとして機能しています。
また、こうした建物などのハード面の充実だけでなく、まち全体での取り組みもたくさん行われてきました。その中で私も関わったものもあり、一部ご紹介させていただきます。
陶器まつり・楽陶祭の開催
清水焼団地誕生から10年あまり経った1975年。これまで生産団地として黙々とものづくりを行ってきた場所ですが、皆さまにやきものを知っていただきたいと始まったのが夏の陶器まつり。現在は秋の開催となった陶器まつりは今や山科の風物詩のひとつとなっています。
回を重ねるごとに、多くのお客様が来場され、当時まだ学生だった夫も、学校から帰ってくると手伝うほどの忙しさだったと振り返ります。暑い時期の開催ということもあり、ビアガーデンも登場して夜遅くまで賑わったんだそう。この期間中にだけ、京都駅と清水焼団地を往復する臨時の路線バスが走るのもその規模を物語っています。
また、アウトレット商品などを販売するイメージの陶器まつりとは別に、京焼・清水焼づくりの文化面に触れてもらおうと2000年10月から始まった「楽陶祭(らくとうさい)」。普段公開されていない陶芸工房の見学や陶器づくり体験、他業種とのコラボ、陶芸コンテストなど清水焼の郷に住む人、働く人たちが一丸となって企画・運営して開催されてきました。
私もコーディネーターとして独り立ちして間もない頃、清水焼団地内の皆さんのうつわを使ってテーブルコーディネートも展示をさせていただきました。
2011年からは夏の陶器まつりと楽陶祭が合併してリニューアルされます。お祭りの名称も「清水焼の郷まつり」となり、毎年10月第3金・土・日曜日に開催され、全国からうつわのファンが訪れます。
京都ケルン姉妹都市提携50周年記念事業
2013年、京都市とドイツケルン市は姉妹都市提携50周年を迎えました。これを記念して清水焼団地協同組合では、ケルン市との文化交流を目的にメンバーによる展覧会「京焼の用と美」がケルン手工芸会議所にて開催されました。
ドイツでの開催にちなみ従来の京焼・清水焼のほかに、ビアジョッキや酒器なども新たに制作し、日本人の四季に対する美意識をうつわに表現したものなどを展示。
これにより食器よりも花器などのインテリアを楽しむものを多く買い求められた結果を踏まえて、海外へ発信のリサーチも兼ねて行われました。
展示会では京焼・清水焼を使ったテーブルコーディネート展示も行っていただき、私が事前に国内でセッティングのシュミレーションしたコーディネートを現地で再現していただきました。
伝統と革新 これからの清水焼の郷
設立より60年経った現在、暮らしのスタイルも変化し、京焼・清水焼も他の工芸品と違わず、最盛期に比べて出荷量も減少していることから、残念ながら陶磁器製造の事業者さんの廃業も出てきているのも現実です。
しかし、ネガティブなことばかりではなく、近年、京都の工芸品に携わる工房がその跡地に移転してこられて、その数も増えつつあります。
工房拡張のために移転されてきた、仏師さん。元々陶磁器の工房だった建物を使いやすいように改装されて仏像彫刻をされています。
訪問した日には仏様の台座を彫ってらっしゃいました。
彫刻するだけでなく、この後の行程、塗師屋さんによる漆塗り、箔押し屋さん、彩色屋さんなど分業で行われているプロセスも管理する、プロデューサー的役目もされていて、全国の寺院やクライアントさんからの要望に応じてられます。
また、団地内には陶器を納める木箱など指物を作られる工房、茶道具を作られる金属工芸師さんなどもいらっしゃり、近年、大手の竹材店さんもこの清水焼の郷に移住してこられたことから、ものづくりを生業とする職人同士が交流する、さながら工芸村のようなまちに昇華してきているように感じています。
元来、陶磁器のために造られたまちですが、これまでご紹介したように、時代に合わせてものづくりの環境として柔軟に進化する「清水焼の郷」。
私たちも、その魅力を発信するため、これまでこのまちが培ってきた歴史や試行錯誤したまちづくりを紹介したり、うつわの使い方や選び方のコツなどお話ししたり、ご希望の方には陶芸体験を含めた、まちあるきツアーを行っています。
ものづくりの現状を知っていただき、皆さんの反応を伺うのも、私たちはとても刺激を受けます。色々な見識を深めて多角的にライフワークである「伝活」を続けたいと思います。
⚫︎参考文献・清水焼団地協同組合. (2011). 清水焼団地五十年の歩み
記事の内容について清水焼団地協同組合の多大なるご協力を賜りました。