
観光客が集う京都では毎日多くのタクシーが走っています。様々なタクシー会社がある中、Kyoto Love. Kyotoは南区上鳥羽に本社を構える都タクシーさんのユニークなサービスに注目しました。 代表取締役社長の筒井基好さんに、観光や子育て支援についてのお話をお聞きします。

京都のタクシードライバーはスキルが高い!?
1940年に京都で創業され、今は約700人もの従業員さんを抱えておられる都タクシーですが、今に至るまでの沿革を教えてください。
筒井社長「曾祖父の筒井磯次郎が創業して、祖父・父親・私でいま四代目になりました。今年で創業85周年を迎えますが、乙訓でたった2台の車から始まった会社だと聞いています。現在はグループ会社が京都に5社、福井に3社、山口に1社の合計9社あり、加えて観光バス事業も行っております」
すごい!四代目でいらっしゃるんですね。
タクシーも観光バスも京都観光に欠かせませんが、京都観光をされる方にぜひ行ってほしい場所というのはありますか?
筒井社長「私が25年前に都タクシーに入社した頃は、タクシードライバーしか知らない隠れスポットというものが多くあったんです。桜や紅葉の穴場などに、お客様を上手に誘導していましたし、大人気の原谷苑も当時は全然知られていませんでした。残念ながら今はもう、タクシードライバー秘蔵の隠れスポットは知られ尽くしてしまいました」
そうなんですね!ドライバーさんは穴場に詳しいというイメージがあったのですが、スマホやSNSの発達で難しくなってしまったんですね・・・
筒井社長「しかし、それぞれのスポットを効率よく回りましょうとか、実際に体験してみてみましょう、ということはタクシーサービスの本領発揮ではないかと思います。その体験を観光タクシーなどでご提示させていただきたいですね」
たしかに。写真や動画で見るのと、実際行くのとは違いますもんね!
筒井社長「京都観光では昔から、タクシーを貸し切って観光されるケースがあります。修学旅行では特にその形が多いですね。観光地に送り届けるだけではなく、観光地の中に入って、いろいろな説明をしたり、一緒に観光を楽しむということもあります。そういう意味では京都のタクシードライバーはスキルがとても高いので、観光客の方にもご満足いただけるのではないでしょうか」


画像提供:都タクシー株式会社
ドライバーさんが修学旅行生を案内している光景をよく見ます。先生が付いているみたいで、市民としても安心できますよね。
筒井社長「会社から強制したわけではなく、ドライバー達が興味のあることをしっかり勉強して、このサービスをしてくれているんです。ドライバー同士で情報共有しながら、ますます深い京都観光をやって行きたいなと思います」
いいですね!私は京都生まれ京都育ちなので、ドライバーさんが修学旅行生を引率しているのを当たり前のように見てたんですけど、他府県から見たら結構珍しいことなのかもしれませんね。
京都は永遠の観光地ではない


現在、京都市には様々な観光課題があります。筒井さんが、いまの京都観光に対して感じておられる課題などはございますか?
筒井社長「世界から多くの方が京都観光に来てくださるのは、とても有難いことです。しかし交通事業者として、市民生活を支える存在であるという視点から見ると、ちょっと多すぎるかなとも感じています」
交通関係ですと、市バスが混みすぎて市民が乗れないとか、タクシーがなかなかつかまらないということが起っていますもんね。
筒井社長「コロナ禍以降、政府はインバウンドの誘致に力を入れています。ただ、私達には市民の生活をどうやって守っていけるか、交通事業者として何が果たせるかということが問われていると思うんです。インバウンドが増えたことを喜ぶだけでなく、地域にどんな貢献ができるのかということを忘れずに実行していくことが大切なのではないでしょうか」
京都市民の生活を守りたいという筒井さんの想いを、市民として嬉しく感じます。
筒井社長「観光だけにとって良いことが、社会にとって良いことかというと、ちょっと疑問です。観光で儲けるということは、地域に住んでる人々に多くの負担をかけているということでもあります」
難しい問題ですね・・・
筒井社長「弊社は福井と山口にグループ企業を持っています。昔、山口市内が観光客で溢れていたというのをご存じですか?私の世代ではもう全然でしたが、昔は萩や津和野が新婚旅行先として人気だったそうなんです。福井だって、東尋坊やあわら温泉に多くの観光客が来ていたそうです。でも今は、その観光客はどこにもいないんですよ。
当時の彼らが、30年後に誰もいなくなるような世の中を想像したと思いますか?いや、していないんです。ずっと観光客がひっきりなしに来る街で、地元のお客さんを全部断って、観光だけをやって大儲けしているのが、永遠に続くと思ってたんでしょうね。
観光はね、飽きるんです。世界で最後まで人が押し寄せる観光地であり続けるのは、パリくらいではないでしょうか。これだけの情報化社会だったら、京都が永遠に面白いわけはありません。私達の時代は人気が続くかもしれませんけど、その次の時代はどうでしょうか。あくまで今はブームなだけ。飽きないだけのコンテンツをこれからどんどん作り続けていけることができるとしたら、日本では東京ぐらいじゃないかな。
京都が永遠の街かどうか僕は分かりません。永遠の街であり続けてくれたらそれはありがたいですよ。でも地域の人を相手にする商売というか、仕事をしていけば、何があってもその中では続けていけるかなと思うんです。もちろん京都の魅力発信のために尽力していくことは間違いないですし、これからも努力をしていきます」
山口や福井の例を聞くと、とても身につまされました。永遠というものは存在しませんよね。京都市民を大事にすることは、長く事業を続けていくことにもつながっているんですね。
安心を提供する、陣痛・子育てタクシー




画像提供:都タクシー株式会社
実はKyoto Love. Kyotoのスタッフが、妊娠中に都タクシーさんの『陣痛・子育てタクシー』に登録していたんです。車を持っていなくて、夜に陣痛が来たらどうしようという不安があるけど、登録していたのでとても安心できたと聞いています。
筒井社長「『陣痛・子育てタクシー』は20年前に香川の高松で始まったサービスなんです。実際に見に行ってこれはとても素晴らしいなと思い、すぐ導入しました」
京都に導入してくださって有難うございます!かなり早い段階で取り入れられたということなんですね。
筒井社長「このサービス自体は、技術的に難しいことでも何でもないんです。ただ、お母さん方に『陣痛・子育てタクシー』を知ってもらい、登録していただく。それで安心をご提供できることが最大のサービスだと思っています。それまでの不安な気持ちを、我々がちょっと支えることができれば、実際ご乗車されなくても構いません。世の中全体における、子育てに対する理解や感情を底上げするお手伝いがしたいんです」
なんと!乗っていただくことだけが目的ではないんですね!!
筒井社長「送迎のプロとして、不安なお母さん方が安心して子育てできるような環境を整えたいと考えています。このサービスはもう20年もやっていて、全国の仲間の間で、様々なノウハウとか知見が溜まってきています。全国各地にある子育てのNPOさんたちといつも情報交換しながら、よりいいサービスできないかな、今の現状はどういう問題があるのかなと、お互いに研鑽しながら続けてきました」
長く続けていただいていることで、本当に社会の一部になってきていますね
筒井社長「儲からないんですけどね(笑)社会の役に立っていれば嬉しいです」
やっぱり、そうですよね。


筒井社長 「子育てした経験のある方って多いはずなんですが、なんで子供が泣いてるだけでうるさいとか何とか言うんでしょうね。あんたも小さいとき泣いてただろうと思うんですよ」
怒っている人も、子どもだったはずですもんね。
筒井社長「みんな当事者なのに、なんで子育ての環境が良くなっていかないんだろうなと不思議に思います。少しだけ、みんなの思いやりや優しさを元気玉のように集められれば、ギスギスしていない、柔らかくハッピーな世の中になっていくんじゃないでしょうか」
『陣痛・子育てタクシー』は妊婦さんや赤ちゃんだけでなく、15歳までOKなんですよね。
筒井社長「小学校受験、中学校受験を控えているお子さんを乗せることが多いですね。毎晩のように送っていた子の合格がわかったときは、ドライバーが大喜びしていました」
自分の親戚の子が受かったような気持ちになりますね!
筒井社長「そのような、人との人の触れ合いがあると嬉しくて、やっぱりこの仕事をやってて良かったなと感じます。決してそればっかりではないんですけど、そんな瞬間を大事にしていきたいなと思ってます」
ただの慈善事業ではなく、ドライバーの皆さんのやりがいにもなっているんですね。
三方よしのポリオワクチン


ポリオワクチンの寄付も行っておられるとお聞きしました。
筒井社長「タクシーを運転して、1,000㎞走行する毎にワクチン1本を発展途上国の子どもにお届けしています。平成20年7月から始めて、20年くらい続けています。1,000㎞というのは、だいたい1人の運転手が1週間で走る距離ですね」
15年も続けられているんですか!1台のタクシーが1週間走ると、1本のワクチンを寄付することになるんですね。
筒井社長「今まで届けたワクチンは、約60万本くらいでしょうか。お客さんに乗っていただけたから達成できたんです」
お客さんにとっても、都タクシーさんを選ぶ理由になりそうですね。
筒井社長「ワクチンが1本20円なので、ドライバーに10円寄付してもらっています。そして会社から10円出しています。私は、ドライバー自身も寄付をするということ、みんなで参加することが重要だと考えています。もし拒否するというドライバーがいれば、その方は都タクシーには合わない人でしょうね。
お客さんに協力してもらって、ドライバーと会社が協力して、みんなでやることによって社会がよくなるんです。社長がなんか勝手にやってるわ、ということにはしたくありません」
まさに三方よしですね!
『陣痛・子育てタクシー』もワクチンの寄付もどちらも長く続けられていて、持続可能性があるやり方をされているんだなと感じます。
筒井社長「ワクチンは、ミャンマーやラオス、ブータンの子どもたちに届けているんですが、実は私の祖父が戦争でミャンマーに行っていたんです。当時のミャンマーはビルマと呼ばれていました。
インパール作戦に参加していて、多くの方が亡くなりました。祖父は現地の人にかくまってもらって、奇跡的に生きて帰れたんです。だから祖父は、将来ミャンマーに恩返ししたいと、ずっと考えていたそうです。世代を越えてわずかではありますけど、こうやって恩返しできているというのは有難いことです」
そんな壮絶なことがあったんですね・・・
都タクシーさんは常にWin-Winで、周りをハッピーにすることで、自社に利益をもたらすことを考えられる、とても良い会社さんだと感じます。なんでこんなに立派な会社なんですか?
筒井社長「そんなことないですよ(笑)私も若い時は、とにかく儲けたいと思ったこともありました。でも父から『タクシーはあまり良いサービスと思われてないから、もっと良いものを作ることに邁進しなさい』と言われたんです」
先代社長、ものすごく出来た方ですね!
筒井社長「すごく出来た方ですよ(笑)」
筒井さん、たくさんの質問に答えていただいて、有難うございました!











