京都府立植物園内に事務所を置く京都園芸倶楽部では、毎月例会として公開講演会を行っています。2018年6月には瑞饋神輿保存会会長の佐伯さんに、瑞饋神輿(みこし)の来歴とその保存に関わるご苦労の一端を、お話しして頂きました。また10月1日には北野天満宮の御旅所で完成したばかりの瑞饋神輿の前で、保存会会員により丹精して育て収穫された野菜・花・果実で飾った瑞饋神輿の各部位の説明をして頂きました。
平安時代に菅原道真公の元家人(西之京神人・じにん)は、西の京に安楽寺を建立し、道真公の墓所として日々神事に奉仕してきました。毎年五穀豊穣の感謝のお礼として、旧暦九月九日(重陽の節句)に自分たちが作った新穀・野菜・果実・草花を飾りつけ、道真公の神前にお供えをしたのが瑞饋祭の始まりです。1607年に豊臣秀頼が北野天満宮(1490年の土一揆により焼失)を再興し、それに合わせて西之京神人は付近の農民と協力して、簡単な葱花輦(そうかれん)型神輿を作り瑞饋の音に因んでサトイモの葉柄(ズイキ)で屋根を葺(ふ)きました。都市化が進み田畑が少なくなった今も、西之京の農家が集まって西之京瑞饋神輿保存会を作り、自らが栽培したサトイモのズイキや千日紅、水稲や麦、赤ナスなどで瑞饋神輿を作られています。この瑞饋神輿は1983年に、京都市無形民俗文化財に指定されています。
今迄に瑞饋神輿を守り育ててきた北野神人達の活躍、また10月4日に行われるずいき祭の巡行の様子を紹介してきました。今回はどれだけの種類の野菜と花を使って、どのように瑞饋神輿(2021年)と子供神輿(2017年)が毎年飾られているのかを紹介します。
瑞饋神輿の屋根と柱
屋根は2層のズイキで葺かれています。ズイキはサトイモの生の葉柄で、ズイキを乾燥させたものはイモガラです。瑞饋神輿の屋根の上側の赤色は唐の芋(赤芽品種)のズイキ(葉柄)で、下段の白色は真芋(白芽品種)のズイキで葺いてあります。このために唐の芋が70株、真芋の200株が、会員により毎年そのズイキが背丈以上の2m超えの高さになるうよう栽培されています。
その上には千木(ちぎ)が乗り、麦わら細工の梅鉢紋が飾られています。瑞饋神輿には金色に輝く麦わらが様々な個所に使われています。ズイキの下には、道真公に因んだ牛の模様が飾られています。
神輿の四方には、屋根から真紅(しんく)の赤い柱が下に伸びています。柱にはお花の千日紅の赤花が糸に通されて、巻きつけてあります。天満宮の白い字は千日紅の白花が糸に通されて、字が表現されていますが、その細工は大変でしょう。1本の柱に千日紅の花が約2000個使われ、4本の柱には約8000個の千日紅が必要になります。生の植物で飾られていない唯一の例は賀茂ナスで、これだけが金属製です。その下には収穫を感謝する稲穂が束ねられています。
稲わらで作った梅鉢紋と角瓔珞(すみようらく)
神輿の角には真紅が張られ、その上に麦わら細工の梅鉢紋が飾られ、稲穂と柚子がついています。加茂ナスに似せた鈴は、唯一金属の飾りです。稲わらで作った梅鉢紋の房には、柚子と稲穂が付いています。稲わらも最近ではコンバインで収穫されるため、稲わらも裁断されてしまいます。そのため長い稲わらを頼んで特別に残してもらい、そうした保存された稲わらを使って作られています。
神輿には麦わら細工があちこちに使われています。とても細かい作業で、麦わらのストローをナイフで開き、和紙に揃えて綺麗に貼ります。それを友禅の型掘り屋さんに七宝などの文様や家紋、龍などに彫って貰います。出来上がったそれらを、赤や緑、黒などの和紙に貼り、神輿の各部の大きさに合わせて貼って飾ります。瑞饋神輿が秋の実りの象徴である黄金色に輝いて見えるのは、保存会の皆さんによる丹念に作られた麦わら細工のおかげなのです。
神輿の角に真紅があり、その横に垂れ下がっているのは角瓔珞で神輿を豪華に飾っており、赤ナスや五色トウガラシが使われています。
四隅にある瓔珞は赤ナス、五色トウガラシと共に、麦わら細工の三蓋松(菅原家の家紋)などの家紋を、糸に通して作っています。角瓔珞の上の屋根には水菜や九条ネギのタネ、ゴマなどが敷き詰めて糊付けしてあります。この屋根部は、後で示す子供神輿の方が、分かりやすくなっています。
側面を飾る欄間、桂馬と平瓔珞部
欄間、桂馬
神輿の側面の上側には欄間が、下側には鳥井に囲まれた桂馬があります。この欄間と桂馬には、ズイキの皮や葉も干したものがたくさん使われています。欄間と桂馬には毎年担当者が代わって、各自がその年の話題から絵柄を選んで作成します。この欄間ではスーパーマリオが、桂馬ではハシビロコウが選ばれています。
平瓔珞部「梅に鶯」
側面の平瓔珞部では左端には干しズイキにトウガラシの輪切りで梅を表し、そこに茗荷の鶯がとまっていて、「梅に鶯」が作られています。
平瓔珞部「松に鶴」
平瓔珞部の左端では、松の木の下に茗荷を逆さまにしてのせて鶴とした、「松に鶴」が作られています。
神輿の角の獅子頭
神輿の角には唐の芋の根で作った獅子頭が、にらみを利かしています。これはサトイモの唐の芋を使い、唐の芋の親芋を逆さにして、根を頭髪に見立て、阿吽(あうん)の表情に彫刻しています。神輿に飾る時には、目には栗を、阿の雄獅子の舌には赤トウガラシが使ってあります。
子供神輿
子供神輿も瑞饋神輿とほぼ同じ材料で、同じ構造に作られています。ただ、欄間などの模様には子供らしさが工夫されています。角瓔珞は少し短くなっています。今年(2017年)の夏は雨が少なく、サトイモのズイキ(葉柄)の伸びが悪くて苦労されたようです。側面の欄間と鳥居に囲まれた桂馬には、それぞれ可愛い絵が描かれています。また四隅には、飾りの角瓔珞が下がっています。
上段の欄間と下段の桂馬には、何か可愛い動物が描かれています。
反対側の欄間には、ピカチュウでしょうか、豆の莢や果実を使ってできています。
子供神輿にはこのように、種々の飾り付けで飾られています。神輿は子供たちに引かれて巡行する際には、これらの飾りはユラユラ動き、鈴の音が響き渡ります。
角の角瓔珞も中々凝っていて、屋根の白い部分は白ゴマ、黒い部分は九条ネギのタネ、茶色い部分はミズナのタネと、それぞれ京野菜が使われています。その下には赤ナスの色とりどりの果実がぶら下がっています。