由緒ある椿が勢ぞろい!京都府立植物園第61回つばき展

ツバキは日本原産の花木

ツバキ(別名ヤブツバキ)は日本原産の花木です。太平洋側に分布するヤブツバキが、日本海側の多雪地帯に適応して変化して、ユキツバキができたと考えられています。日本には多くのツバキの品種があるが、基本的にはこのヤブツバキとユキツバキの2種に由来しています。ツバキは日本原産の美しい花で、また油としての有用性もあり、日本人に古くから愛され歌に詠まれてきました。京都では幸い戦災の被害から免れ、社寺に植えられていた由緒あるツバキが巨木になり、天皇、茶人、武将、高僧、文人などにより愛でられてきた京椿と称される銘木が、今なお健やかに生育しています。

京椿のつばき展

京都園芸倶楽部は大正12年(1923年)に堂上華族の勧修寺経雄伯爵を代表として設立され、来年には百周年を迎えます。この間、園芸文化の普及に努めると共に、由緒ある銘木の保存育成に力を注いできました。当倶楽部では毎年3月にこれらの銘木の切り枝を一堂に集め、京都府立植物園との共催でつばき展として公開展示しています。京の銘椿が一堂に会して見られるので内外のツバキファンを楽しませて、令和4年には第61回を迎えています。例年3月末の3日間府立植物園で開催され、約3000名の人が参加しています。
京都では由緒ある京椿の銘木の原木が、巨樹として健在です。また京椿の大きな特徴は、洗練された優品が格段に多い点です。更に鑑識眼のある人により淘汰されて残った銘椿が、今に揃っています。同じ名前で呼ばれても、氏素性の正しい名花中の名花が残っている訳で、いわば本真物の花が残っています。
 

Ⅰ比丘尼御所(尼門跡寺院)他編

長福寺:京都市右京区梅津中村町・通常非公開

比丘尼(びくに)御所(尼門跡)の一つで、歴代天皇、皇后、皇族の菩提をつとめ、てきました。光格天皇から下賜された緋竜(ひりょう)、石橋(しゃっきょう)、小式部(こしきぶ)、紅筆(べにふで)など、勅名の椿や京都の銘椿が邸内にある。菱唐糸は花全体が六角形に近い菱形状で、花芯には白い旗弁が集まり、唐子部を作っている。月光(がっこう)は関東では、卜伴(ぼくはん)と呼ばれる。濃紅色の外弁と紅色の花糸に対して、中心の唐子部の葯(やく)が鮮やかな白色の一重唐子咲きの小輪の花。紅筆は淡桃色地、紅縦絞り、白覆輪(色が2種類)、八重咲きで中輪の花。五色散椿は八重中大輪の散性の花で、やや抱え咲で白地に紅色の縦絞りや、白色、覆輪などに咲き分ける。4月中下旬に樹下の散り花が美しい。小式部は有楽に似て雄しべが濃く、かすかに紫がかった一重の淡紅花。
 

大聖寺:京都市上京区・通常は非公開

御寺御所とも呼ばれる天皇家ゆかりの尼門跡寺院で、京洛第一位の綸旨を賜っている、格調が高く花に縁の深い尼寺。室町幕府の花の御所跡地の一部を占め、「花乃御所」の石碑が残っている。光格天皇の皇后命名の白椿の玉兎以外に、侘助、白玉などがあり、京都市指定文化財に指定。
玉兎は純白八重の雅致のある遅咲きのツバキだが、ここの玉兎は極めて早咲き種。胡蝶侘助は一般に侘助と呼ばれており、白侘助と共に茶花の中で最も愛でて用いられている。京都には原木の巨木が多く残されていて、一重の極小輪、筒咲き~猪口咲で、紅色地に白斑が入った花が咲く。
 

霊鑑寺:京都市左京区鹿ケ谷御所ノ段町・通常は非公開

後水尾天皇が皇女を開基として創建した、寺格の高い比丘尼(びくに)御所。
後水尾院遺愛の散椿を始め、日光(じっこう)の巨木(京都市の指定天然記念物)、舞鶴、熊谷、曙など、由緒ある京椿が多い。
日光は一般に紅唐子、紅卜伴とも呼ばれる。朱紅色の花弁と同色の唐子部を抱えるように咲く。唐子の中心から雌しべが突き出した特異な花で中小輪。熊谷は別名が光明、肥後羽衣。梅芯、平開咲きで、朱紅の極大輪の花。舞鶴はここの木が原木で、霊鑑寺舞鶴とも呼ばれる。一重大輪の平咲き、紅地に白斑入りの筒芯。
白牡丹(はくぼたん)は純白で抱え咲きの中輪の花。整然と折り重なる花弁は透き通るように美しい。
 

林丘寺:京都市左京区修学院・非公開

後水尾天皇の第八皇女・朱宮光子内親王の朱宮御所(音羽御所)。後水尾天皇遺愛の白侘助は、由緒ある洛北の門跡寺院にふさわしい早咲きの格調高い銘椿。筒咲き~猪口咲きで極小輪の花が咲く。清楚でつつましやかなこの白侘助は、京の茶花には好んで使われている。
 

市邸:京都市北区上賀茂南大路町

上賀茂神社の社家である市家には、古くから多くのツバキが植栽されている。中でも百合椿は貴重で、京都の銘椿。百合椿は幻のツバキと言われていたが、近年上賀茂で成木が発見された。花は細い筒咲きで、濃紅色の遅咲きの花。
 

奥村邸:京都市北区上賀茂北ノ原町

洛北の上賀茂別雷神社の北方の柊野にある、旧家・奥村邸の前庭にそびえる五色八重散椿は、樹高9m、樹齢約450年と言われる(長福寺の項を参照)。散椿としては極めて大きく、全国的にも有数の規模の貴重なツバキであり、京都市指定天然記念物。
 

Ⅱ神社、寺院編

大徳寺・瑞峯院:京都市北区紫野大徳寺町

天正年間(1532~1554)に大友宗麟が創建。銘椿の加茂本阿弥は名古屋地方では窓の月と呼ばれ、また花弁に紅筋が入れば中部真鶴とも呼ばれる。花も葉も共に良く、茶花の名品。筒蕊(しべ)、筒咲—椀咲で大輪の花が咲く。白雪(しらゆき)は白色、一重、平開咲き、花糸白色、梅芯で中輪の花。当倶楽部評議員でもある前田昌道前和尚には、平成三年のつばき展以来「茶花コーナー」を設けて頂き、好評を得ている。
 

大徳寺・総見院:京都市北区紫野大徳寺町・通常は非公開

582年の本能寺の変後に、織田信長、織田家の菩提寺になった。大徳寺と茶道のゆかりは深い。千利休遺愛の侘助(胡蝶侘助、大聖寺の稿を参照)は京椿の代表種銘椿の一つ。これが本当の茶人の言う侘助の原木で、樹齢は400年で京都市の指定天然記念物。
 

大徳寺・高桐院:京都市北区紫野大徳寺町

慶長年間(1596~1615)に細川忠興が父・幽斎の菩提寺として創建した、細川家の菩提寺である。雪中花は桃、白、白に紅筋の入った単弁の名品。天津乙女はほのかな淡桃一重の筒咲で、細く締まった花形は散るまで崩れず、茶花としても銘椿。
 

大徳寺・聚光院:京都市北区紫野大徳寺町・通常は非公開

三好長慶の養子である義継が、永禄9年(1566年)に、養父長慶の菩提を弔うため創建した。千利休の墓があり、それ以降三千家歴代の墓所。早咲きの曙の巨木と、早咲き一重の宗旦椿がある。曙は茶花として膨らんだ蕾は特に珍重され、11月に咲く個体も好まれる。花は筒蕊、抱咲きで淡紅色の巨大輪。ただ一般の曙より花はやや小輪。宗旦椿は茶花としての雅品で、ここの木が原木。一重筒咲の純白小輪のヤブツバキ系の格調高い品種、早咲きで葉も小型で整っている。京の名園のヤブツバキには気品高い名花銘椿が見られるが、この宗旦椿はその中でも逸品。藪椿の木は直立し、花は紅色の筒~ラッパ咲きとなるが、雪椿は低木状に叢生(そうせい)し、花は平咲き。
 

平岡八幡宮:京都市右京区梅ヶ畑

平安初期の大同4年(809年)弘法大師によって創建された、山城国最古の八幡宮。平岡八幡藪椿の樹齢300年近い古木や、「願い事をすれば、一夜で咲き誇り、願いが叶う」という伝説の樹齢200年の白椿・一水などがある。白玉は一般に、白一重の椿の総称として用いられ、大輪優美で、花弁は純白。やや抱え性の筒咲き、筒しべ、小輪、丸い蕾が特徴的で、白花一重の花としては最も楽しめる。玉霞の花は白地や淡桃色地に紅、紫を帯びた紅の吹掛け小絞りが入り、一重、抱え咲き、小〜中輪。寿老庵は一重筒咲きの桃色花で、洗練された花型。藪椿は、大徳寺・聚光院の項を参照。
 

法然院:京都市左京区鹿ヶ谷

法然上人ゆかりの寺で、方丈の中には西から花笠、貴椿(あてつばき)、五色散椿の三銘椿が植えられていて、花笠、貴椿の木は原木。
五色散椿の花は、紅色、桃色、白、紅地に白斑が入った八重咲き(長福寺の項を参照)。貴椿は、白か白地に紅色の絞りがわずかに入る花で、大輪の八重咲き、散り性。花弁は3重ほどに重なり、筒芯で花糸は白い。葉は濃緑色の楕円形から広楕円形で大きく、葉の縁が反曲して少しよれる。花笠は、赤花と紅地の絞りが入ったものがあり、大輪の八重咲き。3月中旬から4月中旬に咲く。

ここに紹介した以外に桃山御陵、二条城、武田薬品工業・京都薬用植物園からも出品して頂いていますが、ここには割愛しています。

参考資料
園芸植物大辞典3巻.1989.ツバキ科.ツバキ属.pp 266-292.小学館.
田中武文.1992.京都園芸倶楽部七十年史.京都園芸,第87集.pp 2-35.
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この記事を書いたライター

 
生年月日:1945年(昭和20年)1月5日

現職
京都府立大学 名誉教授、タキイ財団 理事、NPO 京の農・園芸福祉研究会 理事長、(一財)京都園芸倶楽部 会長

主な経歴 
1969年 京都大学大学院農学研究科修士課程修了、香川大学・京都府立大学教授を歴任
1982年 京都大学農学博士
1984年 園芸学会賞奨励賞
2008年 京都府立大学農学部定年退官・名誉教授
1985~1986年 ケニア・ジョモケニヤッタ農工大学へ出張(国際協力機構) 
1993~1994年 英国ロンドン大学を中心に欧米7カ国 へ出張(文部省長期在外派遣)
1997年 デンマーク植物と土壌科学研究所へ出張(学術振興会派遣研究員)
この間に欧米、アジアなど約30カ国での国際シンポジウムに参加すると共に、留学生10名に学位論文の指導を行う

主な著書  
Q&A 絵で見る野菜の育ち方、農文協、2005
野菜の発育と栽培、農文協、2006
ブロッコリーとカリフラワーの絵本、農文協、2007
ブロッコリーの生理生態と生産事例、誠文堂新光社、2010
ブロッコリーとカリフラワーの作業便利帳、農文協、2010
はじめてのイタリア野菜、農文協、2015
「おいしい彩り野菜のつくりかた」(監修) 農文協、2018

|京都府立大学 名誉教授|京野菜/伝統野菜