「令和五年祇園祭対談 八坂神社宮司 野村明義氏×祇園祭山鉾連合会理事長  木村幾次郎氏」 【第1部】4年ぶりに完全斎行する祇園祭に思う

2023年の祇園祭を迎えるにあたって、Kyoto Love. Kyoto(以下KLK)では夢の対談を実現しました。なんと八坂神社の野村明義宮司と公益財団法人祇園祭山鉾連合会の木村幾次郎理事長がそれぞれのお立場から「祇園祭とは何ぞや」を語っていただく豪華対談企画です。
京都を愛するメディアとしての冥利に尽きる全3部の対談模様をぜひお楽しみください。

木村理事長と野村宮司

八坂神社と祇園祭山鉾連合会

祇園祭にとってのオーソリティであるお二方ですが、それぞれはどのような組織なのか、そもそも祇園祭とは何なのか?京都ビギナーの方にもわかりやすくご説明したいと思います。

祇園祭とは

「祇園祭は京都市東山区の八坂神社(祇園社)の祭礼で、明治までは祇園御霊会(ぎおんごりょうえ、御霊会)と呼ばれた。貞観年間(9世紀)より続く京都の夏の風物詩である。祭行事は八坂神社が主催するものと、山鉾町が主催するものに大別される。」(Wikipediaより抜粋)

例年、7月17日の朝から昼にかけて京都市内を山鉾23基が巡行し(前祭)、夕刻に八坂神社から四条御旅所に神輿が渡ります。神輿はそのまま御旅所に1週間駐輿します。そして7月24日の朝から昼にかけて山鉾11基が巡行し(後祭)、夕刻に神輿が八坂神社に還ります。
八坂神社(3基の神輿)と山鉾連合会(各山鉾保存会)の34基の山鉾が別々に斎行されている祇園祭ですが、コロナ禍で山鉾巡行が中止になった2021年の祇園祭では、山鉾連合会と各山鉾保存会の役員が御旅所を目指して榊巡行をされたように大きな祇園祭は一体のものであると考えられます。

八坂(やさか)神社とは

「平安京遷都(794)以前より鎮座する古社で、「祇園さん」と呼ばれ親しまれております。主祭神の素戔嗚尊(すさのをのみこと)はあらゆる災いを祓う神様として信仰されており、境内には数多くの神様をお祀りしております。全国約2,300社鎮座する八坂神社、祇園信仰神社の総本社です。」
(八坂神社HPより)

八坂神社 西楼門

公益財団法人祇園祭山鉾連合会(やまほこれんごうかい)とは

(※以下、山鉾連合会と表記します。)
「その昔、祇園祭に山鉾を出す各町内の人々は、山鉾の自主性や独創性を競い合い、
巡行では我先にと順番を争って、常にもめ事を起こしておりました。そこで巡行における順番や、順路などについて各山鉾間で話し合うため、また補助を受け入れる組織として「祇園祭山鉾連合会」が設立されました。」
(公益財団法人祇園祭山鉾連合会HPより抜粋)

山鉾巡行

以上がそれぞれの定義になります。祇園祭は、八坂神社と山鉾連合会のそれぞれが主催するものなどが合わさって成立しているお祭なんですね。それぞれのトップである八坂神社の宮司様と山鉾連合会の理事長様に対談いただくということは、とっても貴重で豪華な機会なんです。そして令和5(2023)年は、お二方が就任してはじめての完全な形での祇園祭の斎行になります。聞き手は八坂神社中御座三若神輿会の役員でもあるKLK編集長の吉川忠男が務めます。別々に動いているように見える山鉾の祇園祭と八坂神社の祇園祭(神輿)の接点やルーツはどこにあるのでしょうか。この対談はあえて話し言葉のまま掲載しております。対談の雰囲気も合わせてぜひお楽しみください。

4年ぶりの完全な祇園祭

Kyoto Love. Kyoto(以下KLK) まずは今年の祇園祭についてお話を聞かせていただきます。昨年ま での3年間はコロナ禍で祇園祭を粛々と行うことになりましたが、今年ようやく4年ぶりに完全な形での斎行ということになりましたので、今年は昨年とは違うぞ!というところがあれば教えてください。

木村理事長「私自身の中では、あまり今年はこうだというような意識はございません。今まで60年にわたって祇園祭を経験してきましたので、普通のお祭があって当たり前という状態でした。反対に言うと、この3年間ほどがとても異常であったということですね。私の考えとしては、ようやく普通のお祭ができる。やっと当たり前のことができるようになったという感覚ですね。」

公益財団法人祇園祭山鉾連合会の木村幾次郎理事長

野村宮司「祇園祭の神社としての歴史は1150年余り続いておりまして、もともと疫病を鎮めるために始まったお祭です。今、コロナによって祭ができないというのは何かおかしいなと、何が変わったのかなというふうに考えています。昔の祭と今の祭がどう変わったせいで、もともと疫病を鎮めていた祭なのに疫病が鎮められなくなってしまったのかの原点に帰るというかね。やはり疫病を鎮める祭に戻したいという想いがあります。

今までの祭を極端に元に戻すということは、時代的にも社会的にも、コロナなどいろいろなことがあって難しいとは思いますけれども、今の環境の中で、疫病を鎮めるような仕組みを考えてできるだけ元に戻すために、じゃあ、今年何ができるかということです。
祇園祭が始まったのは祇園さんじゃなくて神泉苑ですよね。神泉苑は当時の平安京の龍神が住むいわゆるパワースポットです。朝廷の儀式がなされるところでもあり、そこで祇園祭が始まったといわれています。医療も医学もなかった時代に、神祇官の卜部日良麻呂という方に何とかしてほしいということで始まったわけですけれども、やはり水の祈りというか、水を浄化することによって疫病も鎮まるという自然の原理が始まりだと思うんです。

特に今年は空海さんが東寺を開かれて1200年です。その空海さんがご利用した神泉苑でもありますし、やはり水の信仰というものをもう一点見直してみたいなと考え、昨年から神泉苑さんと神事をやり始めました。今年はもう少ししっかりと見直しながら、水によって都を全て浄化していくような神事ができないかと考えております。」

八坂神社の野村明義宮司
KLK 龍神の水ということですと、昨年の山鉾の辻回しを八坂神社のご神水でされたことが挙げられますよね。今年もそのようなことは行われるのでしょうか?

木村理事長「今年もそのようにさせていただくつもりではあります。昨年はテレビの実況なんかでそれを見られた方から『祇園祭ってそういう神事があったんですね。』というような反応があったんです。
今までは単なる山鉾の巡行という形で見てられたものがやはりこういうことで、神事もあり、清めの意味があるんだなということを再認識していただいたみたいですね。」

画像提供:公益財団法人祇園祭山鉾連合会

山鉾の役割とは何か

KLK 山鉾連合会は、山鉾の統率をされておられる組織ということでしょうか?

木村理事長「私はお祭の山鉾というのは各ご町内の保存会が独自にやっている行事だと考えています。山鉾連合会というのはそれの一種の調整役をしているだけ。くじ取りをして順番を決め、17日24日にくじを取った順番に巡行する、というようなことが大きな仕事ですが、その他については、保存会が独自にされているお祭の行事という感覚を持っております。
反対に、それは非常に大事にすべきものだなとも思っています。連合会がご町内の保存会にこういうふうにせよとかいうようなことではなく、保存会が独自にお祭をされている。こういうことは、長い歴史の中で培われてきた一つの文化の継承の在り方だと思っています。」

KLK 昨年の講演でお聞きしたのですが、野村宮司は山鉾を陰陽道の観点からお話されてましたよね。

野村宮司「もともと鉾というのは貞観11年の神泉苑で始まりました。鉾といっても剣矛(けんぼこ)みたいなものが建っていたわけですよね。当時の疫病の原因というのは水の淀みですので、『矛』が金偏(かねへん)のついた『鉾』になることで、水を清める役目をするものに変わったんです。
陰陽道では木火土金水という気の流れがありますけど、その中の金のエネルギーが冷えることによって空気中の水の分子がそこに付着します。それによって水を浄化するエネルギーを金が持っています。」

KLK 昔は武器の矛でやったものが66本建てられたわけですが、それの漢字が変わることによってさらに祭が進化したと考えるのでしょうか?

野村宮司「金偏(かねへん)の鉾が都の中を巡りますが、建てていたものを何故あえて巡らすようになったのかということですよね。根本的なことを神事の面から見ていきますと、金偏の鉾を巡らすことによって空気中の気の流れを整えて、巡らす。そのためにはそれが時計回りじゃなきゃいけないんです。今の前祭は反時計回りになっていますけどね。
本来、山というのは動かないものでありますけど、それを都の中で動かすことによって、さらに気を流すという効果があります。時計回りによって都の気の流れを整え、都の風水を浄化していくというかね。そこに神を宿らせ、仏を宿らせ、龍神を宿らせ、そういった神さまの力をいただきながら都を清めていくということです。
山鉾というのは私から見ますと、風水祭祀というんですかね。気の流れや空気を浄化していくという。そういうお役目が、鉾にはあるんじゃないかなと考えています。」

KLK 木村理事長、今の宮司様のお話に対していかがでしょうか。

木村理事長「今まで宮司様はお考えについてのお話はされなかったので、野村宮司はそういうふうに考えておられるのかという感じです。鉾への考え方もいろいろありまして、さらに長い歴史の中でいろんな考え方の変化が起こっているので、精神性の問題はなかなか統一できないんです。我々としても答えが出しにくいものがあります。
関係者の誰に聞いてもやはりいろんな考えがあり、いろんな形で『この人はこう思っているんだな。あの人はこう思っているんだな。』という感じで、どれが間違っているとか合っているとかいう話ではなく、人によって違っているな。と感じます。というのは、山鉾というのは精神性の問題よりも、やはり物というか文化の継承、この形を残していくという継承に対する考え方のほうを我々としては重視してやっております。

そういう精神性の問題はやはり個々の人々の考え方の問題であるので、我々山鉾は長年こういうふうな形で受け継いできたものを引き継いでいく技術や文化をこれから先に継続してやっていけるような状況を作るということに重きを置いて考えております。祇園祭というあんだけのものが現在まで残ってきているということに対しては、やはり我々の先輩や過去の人たちが、それをどうしても守っていこうという気持ちがあったわけですから。祭をこれからも続けていくためには、そのためには何をしないといけないかを考えることを重要視していきたいと考えております。」

一番好きな祇園祭のシーン

KLK なるほど。お二人とも山鉾についての見解をお聞かせいただき有難うございます。それでは第一部のラストとして、お二人にとっての「一番好きな祇園祭のシーン」をお聞かせいただけませんでしょうか。

木村理事長「我々山鉾連合会にとって一番大事なことは山鉾巡行です。四条烏丸の出発で、これからやっていくぞ!という瞬間ですね。それが私にとっては一番緊張するものであり、大事なことです。
もう一つは、祇園祭が立ち上がるという鉾建ての感動も、これはもう。何年もしてますけど、あれだけはやっぱり感動します。これだけ大きなものを人の力で立ち上げる。この技術とこれを考え出した人がえらいなと、毎年それを思いながらあの鉾建てを見ています。
四条烏丸で出発時に朝日を浴びてさあこれからっていう時にガラッとこう鉾が動き出すっていうところ、これは長年やってきましたけど、やっぱり体が震える瞬間やなと思いますね。」

長刀鉾の鉾建
KLK 山鉾連合会理事長に就任されてからは当然、山鉾巡行で一番前を歩かれますよね。 その後ろに理事長のご出身である長刀鉾があるというところにはやはり感無量なものがおありなのではないでしょうか。

木村理事長「長刀鉾が先頭というのは決まってますんでね。なんでやという人もいますが、もう応仁の乱以前から先頭は決まってるんです。去年初めて長刀鉾の前を歩いたのですが、前を歩くことそのものにはあんまり感動はなかったんですけど、なんかポツンと、こういうものなんだなっていうのは去年初めて経験しました。やっぱり私は長刀鉾のお囃子や、巡行に対するいろんな世話役として関わってきた関係で、鉾に乗るのではなく前を歩かんならんっていうのは、なんか手持ちぶさたな感じもありましたね。昨年はたまたまご神水で清めさせていただくという役割を与えていただいたんで、山鉾連合会としてはやはり必要だろうなという思いはありました。

あまりにも人が多かったので、ちょっとびっくりしたというかやっぱり圧倒されましたね。去年はコロナの関係でもうあまり見に来ないでくださいというアナウンスはしたつもりなんですけど、あまりの人の多さでした。こんだけ人に見ていただく、それから関心を持っていただけるというのは本当にありがたい存在やということを一番に感じました。」

KLK 去年は本当に3年ぶりでしたからね。やはり祇園祭というのは、京都人の心の中に非常に大きなウエイトを占めている行事なんだなと、つくづくと感じました。それでは、野村宮司が思われる一番好きなシーンは何でしょうか。

野村宮司「1コマですよね。いろんなコマがありますけど、山鉾巡行や、私もくじ改めもさせていただいたりといろんな経験はありますけど、絞るなら私はあれです。この部屋の壁に飾っている写真を見てください。令和3年の祇園祭のものなんです。

令和3年の御神霊渡御祭後の神馬と満月

神輿が出なかった年で、居祭の2回目です。これ、たまたま満月なんですよ。御神霊渡御祭を終わって帰ってきた神馬がちょうど舞殿にかかって、満月が出ている。旧暦の6月15日大祭の日ですかね。
この写真は疫病が鎮まらなくなった祇園祭の証拠写真ですよ。こういうタイミングが次を訪れるときは19年後です。それまでに疫病が鎮まるような祭に私は戻したいな、という思いでこれを飾っているんです。三宅徹さんというカメラマンさんにたまたま撮っていただいて、本当にありがたかったです。
後世に残したいことは主に心の部分ですね。それは祈りの心であり、文化であり。」

KLK 第1部の対談、有難うございました。

第1部を終えて

祇園祭(祇園御霊会)が始まった平安の世に立ち戻り、水と気の浄化を目的とする祇園祭の精神的な原点を説いていただいた野村宮司。かたや34ある山鉾保存会それぞれの独自性、また祇園祭の多様性やスケール感を文化の継承という観点で語っていただいた木村理事長。それぞれの視点の違いこそがまさに祇園祭の奥深さかと思います。

次回の第2部(7月7日公開予定)では「祇園祭にまつわる難儀」についてお二方のお話を掲載予定です。どうぞお楽しみに!

対談写真撮影:今村写真場

【第2部】祇園祭にまつわる難儀
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この記事を書いたライター

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