2023年の祇園祭の夢の対談!八坂神社の野村明義宮司と公益財団法人祇園祭山鉾連合会の木村幾次郎理事長にそれぞれのお立場から「祇園祭とは何ぞや」を語っていただきます。

第1部では「4年ぶりに完全斎行する祇園祭に思う」をテーマにお話を伺いました。未読の方はぜひ下記からお読みください。

第2部のテーマは「祇園祭にまつわる難儀」です。京都人や観光の方々が毎年楽しみにしている華やかに賑わう祇園祭ですが、その背景ではどんなご苦労や困難があるのでしょうか。聞き手は八坂神社中御座三若神輿会の役員でもあるKyoto Love. Kyoto(以下KLK)編集長の吉川忠男が務めます。この対談はあえて話し言葉のまま掲載しております。対談の雰囲気も合わせてぜひお楽しみください。

野村宮司(左)と木村理事長(右)

野村宮司(左)と木村理事長(右)

祇園祭中止の歴史

KLK 残念ながら、コロナ禍で祇園祭の神事行事が取りやめになることが多々ありましたが、過去にも幾度かそのようなことがあったようですね。例えば明治の初期なんかにコレラが流行って11月ぐらいにお祭をやったこともあったとか。

野村宮司「疫病で祭が中止になったのは今回初めてです。戦争ではありますけどね。疫病で中止になったのはコロナが初めて、明治の時代は順延されていました。信仰的なものをつなげていく技術的なものをつなげていくということでは、続けていかなきゃいけないという思いはある中で、もうしょうがないな、ということになります。やりたくてもできなかったのは今回のコロナです。」

KLK なるほどそうでしたか。木村理事長、戦後、長刀鉾さんだけが烏丸から少しだけ移動されたという話もお伺いしたことがあるんですが、いかがでしょうか。

木村理事長「私も調べたのですが、いろんな形で過去に祇園祭をやめたことがあります。今言っていた延期もありますし、それから戦争でやめたこともあり、それから私が経験している中では阪急の地下鉄工事の関係で鉾は建っていたけど、巡行はしていないというような経験もあります。そういう状況の中でやめるというのはかなりの決断だったなと感じます。

これは戦争とか火災で物がなくなったわけではない。目に見えないもので中止をせざるを得なかったが、物理的なものは温存されてきた。コロナが終わった時にコロナ以前と同じ状況ですぐに祭ができるという状況を作ることが、ものすごく大事だなと思ったのが事実です。ですから、昨年巡行があった時、同じ状況で巡行ができたということは非常に嬉しかった。第二次世界大戦で祭がなかった時は、人の問題でなかなか巡行までに時間がかかった。最初はもう長刀鉾が四条通の寺町までの往復ということもありました。あの時には戦争というものがあって、人々が亡くなって、祇園祭を支えていた人々はなかなか戻って来られなかった。というのが一つ大きな理由だったと思いますのでね。

このコロナ禍に対しては、やめても次やる時には同じ状況できちっとできるという状況を作るということが大事なことだなと、そのためにコロナ2年目の時に山鉾を建てたというところがあって、建てるという技術の継承というと、どうしても建てるという山鉾の保存会からの要望もありましたし、そういう意味において、巡行する時にきちっと同じ状況でできるということを目的にして建ててもらったわけでした。今回のコロナっていうのは、そういう意味においては今年がきちっとできるためのこの3年間であったかなと思っていますね。」

継承の苦労

KLK 人がいなくて継承できなかった戦時と、人はいるけど技が途絶えそうであった今回のコロナ禍の違いですね。明治期や高度経済成長期などにもまた異なるご苦労があると伺ったのですが。

木村理事長「私は昭和30年代からしか祭には関わっていないんですけど、囃子方も戦前からやっているという方は、ほんまに3、4人でした。戦後に我々子どもから入ったものが多かったのと同時に、囃子の譜がなかなか譜通りにできないんですよね。もう私の古い譜を見るといっぱい添削してあるんですよ。ここはこうせなあかんとか合わせなあかんとか、昔の譜はこれやったのになっていうのはね。今までお囃子をやってた方が戻ってこられなかった。囃子そのものも変化したんだろうなと、今になって思いますね。

いま、明治以降の調査をやってるんですけどね、電線を引くからお祭はやめようとか、それから市電を走らせるからという話があったり。それと寄町制度っていうお金を集める組織制度がなくなってしまって、もう完全に保存会が疲弊していくんです。
私は戦後の混乱期から祭を経験してたんですけど、この高度成長期には祭はあまり歓迎されなかった。仕事大事で、その関係もあって私は後前合同(巡行)になったりしたんだと思うんですけどね。私らが入ったときの長刀鉾の保存会で、もうほんまに大丈夫かなと思うぐらい『もうお金はないんです』って言われる状況がありましたからね。

山鉾の巡行している写真なんか見ますと、周りは瓦の屋根が乗った低い家があり、山鉾がある。現代のものを見てみると全部ビルの谷間を鉾が行くんだけど、鉾の形だけは昔と一緒や、ということが大事なことなんだろうなと感じています。これから先、周りがどう変化してもこの山鉾の形だけは残さないといけない。私が経験している中でもいろいろ浮き沈みがありましたのでね。経済的なことやいろんな反対に触れながら、残っていくということは、うまくその状況に乗りながら現在まで続けているというのは、大事なことだろうなと思います。

祇園祭は騒音なのか

公益財団法人祇園祭山鉾連合会の木村幾次郎理事長

公益財団法人祇園祭山鉾連合会の木村幾次郎理事長

KLK 山鉾が後前合同巡行であった平成25年までは、還幸祭(7月24日)の神輿を見た人が「これは何のお祭りですか?祇園祭も終わったのに・・・」と言われて寂しい思いを私もしました。しかし合同巡行への決断にには高度成長期ならではのやむにやまれぬ事情もあったのですね。それにしても時代の変化に合わせながら、昔と同じ形で山鉾が残っているというのは素晴らしいことですね。時代流れといえば祇園囃子を「うるさい」という人もおられると聞きましたが。

木村理事長「祇園祭がやかましいというお声はあります。『そんなにやかましいものなのか!?』という驚きがありましたね。祭をやることによって気持ちが楽になり、力をもらってこの1年頑張ろうと、いい音色で楽しいなという気持ちが。もうこれからはそういうふうなものが消えていくのか。『えっ!?』っていうようなことがこれから起こってくるなというのが非常に危惧しているところであります。

神様の力をもらい、我々が元気に1年を過ごすそのための祇園祭であるというようなことを氏子として住んでいる我々は、私らの父親とか祖父からいろんな形で聞いてきた部分がありますんでね。子供の頃からそのように育ってきましたが、今の人たちは急にあそこに住んで『え!この音は何!?』って言われる。
これからいろんな形でお祭、それから神様との御縁というかね、そういうようなことはこれからいろんな形で考えていかんなら、ひとつの大きなドラマかな、と思いますね。本当にね、ちょっとびっくりするようなことがありますね。我々にとっては非常に心地よいお囃子がうるさいって言われたらどうするんやっていう戸惑いがあります。

そういう意味において、昔は家族の中で神様とのあり方とか、親から祖父とかいろんな形で知らぬ間に教育を受けていた部分があるんですけど、そういうふうなことがなかなか現代ではできていかない。これからの祇園祭も、単なるイベントとしての祇園祭でなく、精神性というのは大事にしていかんなと。それを今の人たちにどのように伝えていくかというのは非常に難しい考えだろうなと思います。伝えていきたいものはいろいろありますけど。」

八坂神社の野村明義宮司

八坂神社の野村明義宮司

野村宮司「私も同じようにうるさいと言われたことがあります。私が神輿の後について馬に乗ってた時に、マンションが並ぶ中に神輿がいるんですけど。『ホイットホイットうるさいよ』と『マイクがうるさいと寝れない』とそういう苦情も聞いたことがあります。そういう捉え方っていうのはいろいろありますね。

祭やってる方は、神様の力をいただくためにしてるんですけど、そういう音がうるさいという感覚っていうのはまず、神様に対する信仰はないんだな、というふうにも見られますし。精神性を伝えていくという意味では、なんでこんなことやってるんだということも分かっていただかなきゃいけないんですが、信仰っていうのは人間にとってなんで大事かということを改めて認識をしていただく機会として祭が行われているというか。

信仰っていうのは信じて仰ぐということなんですけど、神様も見える存在ではありません。お互いの心と心も見えるものではないんですけど、だから初めて会った人、初めて町に入ってくる人、知らない者同士がつながり合うためには信じるしかないんです。信じる信頼関係がつなぎ合わせるためには、そこにはマナーがあり、礼義がないと信じられなくなってしまうので、祭を見る方もやる方も大事なのは礼義であり、そのようなことをやっていることに対して威儀を正すということです。威儀が乱れるとマナーも乱れ、祭を見ている方の感覚も単なるイベントとしか見られなくなってくるので、そこで一体感を出すためにも、ちゃんと見るやるということが大事だと伝えていくのが、祭との形としてあるべきものだなと思います。」

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