最強の時間術
「忙しい」
そう感じない人は、ほぼ皆無でしょう。仕事や勉強、家事に育児 etc…いわゆる現役世代の人は、みんな何かに追われています。スマホはもちろん、ケータイ電話もインターネットも一般的ではなかった平成初期と比べて、各段に便利になったはずなのに、今のほうがより時間に追われている気がするのは何故でしょうか?便利さ以上に、情報量が圧倒的に増えたことが大きな理由だと思います。その情報量は今後も増え続けるであろうことから、私たちが「忙しい」から解放されることはないと思われます。
であるならば、私たちが取るべき道は1つ。限られた時間を有効に使うことです。「忙しい」に見合う成果を挙げられれば「充実した時間」となり、そうでなければ「虚しい時間」となります。では、どうすれば時間を有効に使えるのか?そのための道具が本稿で紹介する「重要×緊急マトリクス」です。
忙しい現代を象徴するかのように書店にいけば、時間の使い方に関する本がズラリと並んでいます。試しにAmazonで「時間の使い方」と検索すると、399冊の本が出てきました。つまり、それだけの数の時間術があるということです。その数ある時間術の中でも私が最強だと思うのが、この重要×緊急マトリクスなのであります。
なぜ最強なのか?といえば、「人生を劇的に変えられるから」がその理由です。なぜ人生が変わるのか?は、後編でお話しすることにして、前編では「重要×緊急マトリクスとは?」について説明したいと思います。
重要×緊急マトリクスとは?
「マトリクス」には色々な意味がありますが、ここでは「行と列でできた枠組み」だと考えてください。よくあるのが「タテとヨコの線を十字に交差させて4つの枠をつくる」パターンです。そのタテの軸を重要度、ヨコの軸を緊急度にして、4つの枠を作ったものが「重要×緊急マトリクス」です。この4つのゾーンにタスク、つまり「やるべきこと」を振り分けていきます。すると、タスクの優先順位が自ずと明確になっていきます。この優先順位をつけることが時間を有効に使ううえで、とても重要です。まずは、この4つのゾーンについての「一般的な解釈」から説明していきます。
1 重要 × 緊急
言うまでもなく、今すぐやるべきことです。
例) クレーム対応、明日のプレゼン資料づくりなど。「プレゼン」は、学生であれば「明日の試験勉強」にあたるでしょう。
2 重要 × 非緊急
大切なことだが、今すぐやらなくても困らないこと。
例) スキルアップのための勉強(資格取得や読書など)、人脈づくり、健康に良いこと、重要だが〆切まで時間のある案件など
3 非重要 × 緊急
大切かどうかはわからないが、とりあえず〆切が迫っていること。
例) 今から始まる定例会議、用件が明確でない今日のアポイント、目の前で鳴っている電話
4 非重要 × 非緊急
ひとことでいえば「ムダな活動」となります。
例) 目的のないネット検索、手待ち時間、やる意味を感じないルーチンワークなど
以上、4つの領域でもっとも大切なのは、もちろん①の「重要×緊急」ゾーンです。ま、これは説明不要でしょう。次に大切なのが②の「重要×非緊急」です。「えっ、③の『非重要×緊急』を優先すべきじゃないの?」と思われた方も多いでしょう。ここがポイントです!②は緊急性が低いために、ついつい後回しにしてしまいがちで、なんなら「やらない」という選択肢もあるからです。実際に手をつける順番はともかく、意識の上では②は③よりも優先度は断然高くなります。③は、「本当に必要なことか?」と見直すことや、「他の人に任せる」ことを検討すべきで、④の「非重要×非緊急」は、「ゼロにする」もしくは「やらなくてよい方法を考える」が推奨されています。
ここまでが一般的な見解です。私もこの基準にしたがって優先順位をつけてきました。すると、だんだんと「ここは、こう考えた方がいいのでは?」と思うことが出てくるのです。いってみれば、私なりの「アップデート版」です。ここからは、「重要」と「緊急」について深堀りしていきます。
「重要」とは、成果のあがる案件
何をもって重要とみなすのか?重要×緊急マトリクスを使うにあたってのキモです。前述の「③『非重要×緊急』のほうを優先すべきじゃないの?」と疑問を持たれた方は、「緊急だから重要」と解釈していることになります。「○○までに□□しなければいけない」という期限がプレッシャーとなって、脳みそを勝手に「重要」モードにしてしまいます。たしかに期限、つまり「誰かとの約束」を守ることは大切です。ですが、そればかりにとらわれてしまうと、本当に重要なことを見逃してしまいます。
では、本当に重要なこととは何でしょうか?それは「□□しなければいけない」の「□□」が成果につながることです。成果を別の言葉でいいかえると、「メリット、リターン、効果」といったところでしょうか。特にビジネスにおいては、この考え方が大切です。ビジネスとは何らかの成果をあげることで、顧客から対価をもらうことだからです。また、あなたの給料は、会社にもたらした成果への報酬だからです。つまり、重要度の基準とは「どれくらいの成果を挙げられるか」ということになります。なお、ここでいう成果とは、必ずしも売上や利益といった直接的な数字ばかりとはいえません。「顧客をはじめ、関係者たちに喜んでもらえること」あるいは「自分自身の満足度」といった心理的な側面も含んでいることをつけ加えておきます。
「偽の緊急」とは?
「緊急」を定義づけると「〆切が迫っている案件」といえます。緊急案件ばかりに追われていると、ミスを起こしやすくなります。また、私のようにイラッチの性格をしていると、言葉遣いが荒くなるなど態度に出たりして、人間関係にも影響しかねません。また、タチが悪いのが、緊急案件で忙しくバタバタしていると「仕事をしたつもり」になってしまうことです。その結果、「こんなに忙しくしているのに、なぜ成果が挙がらないんだ?」と思っているうちはまだマシですが、「なぜ評価してくれないんだ!」となると、上司や会社に対する不満となり、時にその関係を悪化させてしまいます。人間とは、自分に都合のいい解釈をしてしまうもので、ふだんは普通に働いていても、たまにある「超忙しい!」のインパクトにとらわれて「年中忙しくしている」と思いがちです。「忙」という字は「心を亡くす」から成り立っています。つまり、緊急案件は心から余裕を奪ってしまうのです。「忙しい=頑張っている」と評価するのは日本の悪しき文化なのかもしれませんね。
さて、同じ緊急案件でも2つの種類があると私は考えています。「真」の緊急と「偽」の緊急です。真の緊急とは、予測することが困難ゆえに突発的に発生する案件です。クレーム処理などのトラブルや、顧客からの急ぎ納品依頼などが該当します。ここで述べた「予測の可否」がポイントです。一般に緊急事態の最たるものが災害といえます。でも、もし災害の発生が1年前からわかっていれば、多くの対応が可能です。ゆえに緊急事態とはならないのではないでしょうか。
そう考えると「偽の緊急」とは何なのかが見えてきます。もともとは緊急でなかった案件を放置しておいたために、緊急となってしまった案件です。夏休みの宿題を例にするとわかりやすいでしょう。7月の段階では「まだまだ時間はあるから大丈夫っしょ」と余裕でいたのに、気がつけばお盆を過ぎて「どーしよう!全然できてない!!」となり、めでたく緊急事態が誕生するというケースです。学生時代はともかく、ほとんどの方が社会に出てから似たようなケースを経験していると思います。
たしかに「なんとなく気が乗らない案件」ってありますよね。でも、これを放置しておくと、「○○に手をつけていない」という後ろめたさ&プレッシャーがもれなく、そして重くのしかかってきます。すると、ますます後回しにしてしまうのが人間という厄介な動物です。この悪循環が「偽の緊急事態」を生みだすメカニズムです。私自身も何度も何度も経験しているので、よ~くわかります。
とにかく手をつけること!
2つの緊急のうち、前者を「自然災害」とするならば、後者は「人災」といえます。人災であれば対策が可能です。対策は1つ。緊急事態になる前に手をつける。それだけです。たとえ少しでも手をつけておくだけで、その後の展開がずいぶんと変わります。なによりも前述の後ろめたいプレッシャーから解放されることです。結果、目の前の案件に集中しやすくなるなど、精神衛生上の効果は計りしれません。同時に、実際にやってみることで、所要時間が読めるので、その後のダンドリが立てやすくなります。また、仮に自分ではできないことがあっても、時間があるので他の人の協力を得やすくなります。さらには、「少しだけのつもりで始めたら、意外に波に乗って一気に仕上がった」という経験をお持ちの方も多いと思います。いいこと尽くめですよね。やらない理由がありません。なのに、なのに、それがわかっていても、ついつい先送りにしている私がここにいます。それくらい「先送り」には魔力があるということです。だからこそ、手をつけることを強く強く意識することです。たとえば、周囲の人に「○○までに□□します」と宣言するのも1つの手でしょう。「遅かれ早かれ、どの道やらなアカン」のですから、潔く手をつけるようにしましょう。←これ、自分自身へのメッセージです。
以上、前編では重要×緊急マトリクスの基本についてお話ししました。ポイントは2つです。
・「緊急」に惑わされず、本当に重要なことを見極める。
・人災の緊急事態をつくらないよう、とにかく手をつける。
後編では、冒頭で述べた「重要×緊急マトリクスが、なぜ人生を劇的に変えられるのか?」について詳しく説明したいと思います。