駆け出しの指揮者 森脇涼さん【京都のアートシーン~若手芸術家、京都に生きる】

初めまして、阿部千加と申します。東京藝術大学で音楽を学んでおりました。2年前、結婚を機に京都に移住。現在は滋賀県に住まいを移したものの、京都の街への愛は日に日に増すばかりです。
京都には今でも多くの伝統文化や作品が残っています。そんな文化豊かな京都において、同時代を生きるアーティストがどんな想いで、どういった活動しているのか予てより興味を持っていたため、「京都×アート」というテーマで様々なアーティストのお話をご紹介していくことにいたしました。

第一回は、京都市立芸術大学 音楽学部 指揮専攻3年の森脇涼さんにお話を伺いました。
森脇さんは、東京藝術大学 音楽学部 音楽環境創造科(以下:東京藝術大学)で作曲を学ばれた後、京都市立芸術大学(以下:京芸)の音楽学部で指揮を専攻されています。森脇さんと私は、東京藝術大学時代の同級生。森脇さんがどうして指揮者を志すようになったのか?京都で実現したいこととは?私自身の今さらの質問をぶつけてみました。

 

京都で暮らし、音楽をするということ

ー京都に来られて2年半。京都という街に、どういうイメージを持っていますか?

森脇:学問の街。そして、伝統を守っている一方でリベラルというイメージです。
また、京都には、町家や古民家をリノベーションしたお店が多いと思いますが、音楽とも共通するところがあると思います。音楽も伝統を残しつつ、それを受け継いで新しいものを作っていくようなところがありますよね。

ー共通する部分を感じていらっしゃるのですね。ちなみに、京都出身の音楽家と活動していく中で感じることはありますか?

森脇:京都というか関西の方は、歌が強い気がします。発声が良いですね。「a」や「o」の母音が明るいし、馬力のある声を出される方が多いです。

ー言葉の違いが発声にも影響するとは。知りませんでした!


音感は耳コピで養われた……?

ーここからは、森脇さんの音楽キャリアについてお伺いします。

森脇さんは、東京藝術大学時代から飛び抜けて音楽の素養があった印象があります。いつ頃音楽を始めたのですか?

森脇:3〜4歳でバイオリンとピアノを始めました。
元々、音楽に合わせて身体でリズムを取っていたりと音楽が好きな子供だったらしくて、「この子は音楽が好きなんだな」って親が思ったみたいですね。大体親って英才教育したがるじゃないですか。それで音楽を聴かせてみたら、バイオリンをやりたいと言ったらしく、バイオリンを先に習い始めました。

ー絶対音感は早いうちからありましたか?

森脇:耳コピ(※1)をしていたら、知らないうちに身についていました。電子ピアノについてるデモ音源があるでしょう?その中に格好良いジャズっぽい音源があって、それを弾きたくてずっと聴いてたんですね。それが訓練になってたんじゃないかなと予想しています。
(※1)楽譜ではなく音源そのものを聴いて曲をコピーすること

ーなるほど。自然に身についていったのですね。


現代音楽にハマった中学時代

ーその後、バイオリンとピアノはずっと続けていたのでしょうか?

バイオリンは中学生くらいまでは続けていたけど、どちらかというとピアノへの関心が強くなったので、中学生くらいからはピアノ一筋でした。「ピアニストになりたい」と思っていましたね。アンサンブル・アンテルコンタンポラン*のピアニストになりたくて……!
*ピエール・ブーレーズによって創設された、現代音楽に特化した室内オーケストラ。

ー森脇さんといえば、アンサンブル・アンテルコンタンポラン!かなりマニアックですが、どのようにして出会ったのですか?

森脇:当時、家の近くにおじさん2人がやっているCDショップがあったんです。そのお店はクラシックのCDの取り扱いが多く、よく通っていました。ある時、その店で購入したCDのカップリング曲にブーレーズ作曲のピアノソナタ第2番が入っていたんです。初めて聴いた時は「なんだこのデタラメは!」と思いました(笑)

ー最初から現代音楽をかっこいいと思っていた訳ではないのですね。

森脇:そうです。でも、中学生ってそういうものにハマるじゃないですか。人とは違うのがかっこよくて。いつしか「デタラメ」と思っていた現代音楽が「かっこいい」に変わったんです。
「かっこいい」曲を作曲したブーレーズをもっと知りたくなって、いつものCDショップへブーレーズのCDを探しに行く。すると、クラシックマニアのおじさんがCDをたくさん並べてくれて……

ーたまたまクラシックマニアのおじさんと出会えたのも幸運だったのですね。

森脇:運命ですね。ですが、私が高校3年生の時にお店が閉店してしまいました。閉店間際に半額セールをやっていて、CDを買い占めました。するとおじさんも「この分はまけてあげるよ。頑張ってね、音大行くんでしょ」と激励してくださったり。

ー良い話!


クラシック少年、アイドルと出会った

ー現代音楽にハマった中学時代を経て、どのような高校時代を過ごされたのですか?

森脇:高校生の頃は、私立恵比寿中学(以下:エビ中)というアイドルに出会いました。確か、山梨にエビ中が来て、それでその音楽にハマりまして。

ーアイドルの女の子ではなく音楽の方に?

森脇:はい、「何このコード進行!変な転調!」って(笑)それまでポップスを全く聴いたことがなかったので、衝撃を受けました。
そこからアイドル曲にハマり、時代を遡って聴き進めるとキャンディーズまで行きつきました。松任谷正隆さんを知って、プロデューサーってかっこいいなと思っていましたね。そもそも、リーダーシップというものに憧れがあったんです。それこそ指揮者もそうですが。

ー当時はまだ、指揮科に行くことは考えていなかったんですよね?

森脇:いや、実は指揮科には行きたかったんです。
小学生の頃から指揮者の真似事はしていましたし、興味はありました。ですが、ピアノの先生に指揮科に行きたいと相談したら「和声ができないと(合格は)無理」と言われてしまって。初めは指揮が無理ならピアノで受験しようかと色々調べていたのですが、高2の頃にアイドルに出会い、プロデューサーもやりたくなってきてしまって。とにかくその時ハマったものに全振りしてしまうんですよね。
そして、音大でプロデューサーになれる科はないかと探していた時に……。

ー出会ったんですね、音楽環境創造科に。

森脇:そう。でんぱ組.incのプロデューサーのもふくちゃんの出身がここだと知って受験しました。


 

挫折、そして指揮者へ

ー私たちは作曲のゼミにいましたが、作曲経験はありましたか?

森脇:全くありませんでした。入った当初は、自分なら何でもできるような気がしていたんですけど、数年過ごしてみてDTM(※2)での作曲があまり向いてない気がしてきて。オーケストラを聴いてきたので、音の重ね方は何となくわかるのですが、DTMの才能はないなと思い始めました。
(※2)パソコンを利用した音楽制作手法。デスクトップミュージック。

ー森脇さんにも挫折があったんですね。

森脇:その挫折を経験したことで、古典が好きなんだなって気づきました。学部3〜4年の頃に器楽科や作曲科の学生と関わるようになり、《ドン・ジョヴァンニ》の指揮を振る機会をもらえました。それが初のオーケストラの指揮です。藝大の学生相手に振っていたなんて、今考えると恐ろしいですね。でも、そこで上手く振れたんです。それで自信がついて、「指揮者、行けるじゃん!」って思うように。

ーそのことがきっかけで、指揮者への道が開かれたのですね。

森脇:そうです。そして晴れて京芸の指揮科に入学したのですが、入ってみると全然ダメで。モーツァルトやベートーヴェンの作品から学び直しました。ベートーヴェンの交響曲第1番って知ってますか?ハ長調なんだけど、ヘ長調のドミナントから始まるんです。しっかりと勉強してみると、革命的だと思いました(笑)

ー入学後も、地道に努力されたのですね。


現代音楽を京都から広めていきたい!

ー今後、京都においてどのように芸術活動をしていきたいとお考えですか?

森脇:京都には、京都市交響楽団さん、京都フィルハーモニー室内合奏団さんなど、全国的に見てもレベルの高いオーケストラや室内合奏団もあるので、関わっていけたらいいなと思っています。
あと私は今、大学のクラブ「現代音楽研究会club MoCo」で音楽監督をやっていまして。東京には現代音楽の団体が出来つつありますが、京芸出身の音楽家が主体となって現代音楽に取り組み、京都からも現代音楽を広めていきたいです。今は発足したてで学生ばかりですが、みんなが卒業してプロとして演奏していくようになった時に、プロの団体としてやっていければ……という野望はありますね。

ーいいですね!

森脇:京都は京都コンサートホール、ロームシアター京都など良いホールも多い。そして、多い上にアクセスが良い。
京都って街が小さいと感じませんか?コンパクトな上、盆地だからなのかな。文化がこう、ある種閉鎖的な中で育っていくのではないかと。革新的でありつつ伝統も守る、そういう土地の人々であれば、現代音楽も受け入れてくれるのではないかと思っていますね。

ーありがとうございました!


終わりに

京都の音楽家と接する中で、発声の違いなどの気付きがあったとのことで、お話を聞いていて大変興味深かったです。
また、現代音楽はなかなか馴染みのないジャンルかと思います。ですが、森脇さんが仰っていたように、京都は伝統を大事にする土地である一方、アートシーンにおいては活発にリベラルな作品が生まれているイメージもあります。そんな京都において、森脇さんの活動を中心に「かっこいい」現代音楽の世界が身近になっていくのではないか、と楽しみです。

撮影:阿部壮志
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この記事を書いたライター

埼玉県出身。東京藝術大学音楽環境創造科卒。
2020年に結婚を機に京都に移住し、現在は滋賀で暮らしている。「より京都での暮らしを楽しみたい」という想いで移住前より京都検定の勉強を開始し、その年中に3級を取得。歴史や文化を知りながら街歩きをするのが楽しくなり、趣味が昂じたような形でまいまい京都 同行スタッフに。現在は、コンサートスタッフ・パソコン事務・時々ライターとして活動する傍ら、街をまいまいしている。

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