お盆にかかせないお珠数、オーダーしてみました!「京都で伝活!~私たち伝統産業を愛する活動はじめました~」

お盆の季節になりました。

仏教徒の我が家では、お盆の前に東山の六道さん(六道珍皇寺)へ行き、迎え鐘を衝いてご先祖様の霊=お精霊(おしょらい)さんをお迎えに行きます。(撞くといいますが、六道さんの鐘は引っ張るタイプ)
お仏壇も一通りホコリを払い、真鍮製の仏具は真鍮磨きを使って磨きます。良い香りとは言いがたい真鍮磨きですが、そのにおいは、ああ、お盆だな・・・と感じさせてくれます。
ピカピカに磨けた花瓶に、いつもより豪華な蓮の花や高野槙が入った仏花、スイカや盆菓子などをお供えします。ご住職さんにお越し頂きお経を上げてもらい、盆休み中にお墓参りをして、8月16日、五山の送り火でお精霊さんをお浄土へお送りするのが毎年のルーティーン。

おうちによっては家の前で迎え火を焚いたり、キュウリの馬を作ったり、お迎え団子をお供えしたりと、様々な習慣がありますね。お盆前になると、うちではこうするよ、ああするよ、などとお盆の過ごし方を披露しあいっこする会話がよく聞かれます。(同じくお正月前もこういった会話が)

珠数?数珠?二通りある“じゅず”

珠数はお仏壇やお墓にお参りするときにはかかせないもの。長年、学校の卒業記念で頂いた珠数を使っていましたが、現在は結婚した際にお祝いに頂戴したものを使っています。

珠数

諸説ありますが、珠数は数千年前にインドでその原型が登場し、中国から飛鳥時代の日本へ伝わったんだそう。本来はお経を唱えた数を数える道具だったと言われますが、現在は身に付けることで、仏様と自身をつなげる役目を担い、自身を守ってくれるお守りとして仏教徒にとってはかかせない法具。念珠とも言われます。

以前はウエディングの仕事をしていた私。仏前での結婚式もお手伝いをしたこともありました。仏前式では、お供えされていた珠数を司婚者(ご住職)より、授けてもらう場面があります。

「じゅず」をパソコンで変換すると「数珠」と出ますが、京都の地名に珠数屋町や上珠数屋通などもあり、京都では「珠数」が主流だったのではないかと推測します。関東では「数珠」、関西では「珠数」と表記されるとも言われています。

余談ですが、明治生まれの祖母は生前、「じゅず」のことを「ずず」と言っていた記憶が。「おずず取ってんか~」なんて言っていました。

京都で多く作られる珠数

かつて都だった京都は、現在もたくさんお寺の本山があります。その宗派の宗祖やそれに次ぐ方の遠忌があると、全国からたくさんのご参拝者が入洛されている様子を見かけると、改めて仏教都市なんだと感じます。

こうした歴史的背景もあり、珠数のほとんどは京都で製造されています。珠も関西を中心に専門の職人さんにより作られ、材質には様々な種類があります。その一部を紹介。

珠の材質

・木・・・・・・・・・桜、杉、欅、紫檀、黒檀などや、白檀、沈香などの香木でも作られます。
・木の実・・・・・星月、龍眼、鳳眼、虎目などといった菩提樹の実が代表的。
・貴石・・・・・・・水晶、瑪瑙、天竺、翡翠などの石。近年は種類も増えてきています。
・アクリル・・・多彩な色で、安価で軽量と言う面もあり。納棺用としても使われます。
・彫り珠・・・・・天然素材の珠に彫刻した珠。羅漢彫、骸骨彫、木魚彫などがあります。
その他、ガラス切子、真珠、珊瑚や蝶貝などの貝類、琥珀などが使われます。

珠数に付けられる房も、京都にいらっしゃる房職人さんにより、正絹、人絹、化繊などで作られています。

房の形の色々
珠数の種類・部位名

写真左は本式珠数、右は略式珠数(片手珠数とも)。
本式珠数は108個の主珠で作られ、宗派によって形が違います。
略式珠数は珠の数は特に決まっておらず、宗派も問いません。

宗派による違い
(於:中野伊助)

本式珠数は宗派によって珠数の持ち方にも違いがありますが、略式念珠の場合、左手に輪を通し右手を添え合掌する場合と、合掌した手に輪を通す場合があります。
そして、合掌するその前後に持ち歩く際には左手を必ず輪に通して持ち歩くこと。輪を潰すように握ると、親玉のT字になっている部分に負荷が掛り、糸が切れることもあるんだそう。長く使っていただけるよう、珠数職人さんからのアドバイスです。

このように持たないで

また、ゴムで仕上げられたブレスレット状の珠数や、指輪の大きさの珠数もあり、お守りとして身に付けたり、持ち歩き用にされている方もいらっしゃいます。

左:腕輪珠数 右:指輪珠数

そして、身に付ける珠数だけが珠数ではありません。一周何mもある大きな珠数を大勢で囲み、念仏を唱えながらぐるぐると回す百万遍珠数や、吊された珠数の輪をくぐり厄払いする、くぐり珠数などもあります。

珠数をオーダーしてみました

甥が大きくなってきたので、そろそろ大人用の珠数を作ろうとなりました。
大人が選んで渡そうかと思いきや、甥が何やら色や素材に思い入れがあるようで、自分で選びたいと言いだし、それならば、いつもお世話になっている珠数屋さんを訪ねました。以前にもこちらで、経年劣化で変色した房の交換や、糸が切れてしまったときも、修繕していただいたことがあります。

珠数作成の工程

① 珠選び:今回は片手用の略式珠数を作ってもらいます。男性用は珠の大きさが女性用に比べて大きく、渋い色が多いのですが、近年は男性用といっても明るいトーンの色合いの珠も出てきたり、女性でも大きい珠を選ばれたりすることもあり、以前に比べて自由度はアップしてきているそうです。今回は一見黒く見えますがよく見ると、青色の模様が入っている青虎目石を選びました。

珠のサンプルを見せていただきました
(於:竹中源)

② 房:選んだ珠に合うように色を選びます。オススメいただき今回は、黒と紺色の2色の紐房にしました。

③ 通し作業:珠を通す中糸は太く柔らかいものを使います。糸の先端を細く削り、珠を仮通してある糸と結んで通します。ボサ→親玉→主珠と順番に通していき、決まった位置に天珠を入れていきます。ひととおり通し終わると、再度親玉、ボサに通して輪にします。

④ 四つ組み:輪にしてボサから出ている2本の糸のうち、一方を組台の上にある金具に引っ掛け、もう一方の糸をほぐして軸糸を1本足し、四つ組み(四つ編み)します。四本の糸が驚く早さで編まれて、これぞ職人技を見せていただきました。台に引っ掛けていたもう片方も四つ組みします。

四つ組みしている様子
(於:竹中源)

⑤ 房付け:新松房の場合は四つ組みされた糸の先端から、房を通します。房に頭部に空いた穴に糸を通し、長く余った糸はのり付けし、房の内側に巻いて留めます。紐房の場合は四つ組の下に結びを作り、紐を長く残して切りそろえます。

⑥ 完成:房に蒸気を当てて形を整え、珠数のしなやかさなどをチェックし、紙箱や木箱などに納め、珠の素材が書かれたシールなどを貼り完成です。全国の仏具販売店や百貨店などに納品されます。

完成した珠数

今回、オーダーして職人さんに作っていただきましたが、所によっては珠数作り体験を受け入れられている工房もあります。手先が器用な方でしたら(そうでなくても)、ご自身で珠数を作ってみるというのはいかがでしょう。

珠数制作体験の様子
(於:中野伊助)
参考文献
京都珠数製造卸協同組合ホームページ. (2023).
谷口 幸璽. (1996). 数珠のはなし. 宝蔵館.

記事の内容について中野伊助 中野恵介さん、竹中源 竹中義博さんにご教授いただきました。

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この記事を書いたライター

京都生まれ。祖父の代まで染屋を営み、親戚一同“糸へん”の仕事にたずさわる環境で育ち、学生時代はファッションを学び、ウェディング業界へ就職。そこで出会ったテーブルコーディネートに感銘を受け、後に食空間コーディネーターとして起業。京都の伝統産業の産地支援や、五節句や年中行事など生活文化を次世代に伝える活動を行っています。京焼・清水焼の卸売をする夫と夫婦ユニット「おきにのうつわ」を結成して、京焼・清水焼の魅力の発信や講演、展示会プロデュース、また陶磁器以外の伝統産業品のPRや観光業とのコラボなども手がけています。近年スタートさせた「伝活」では実際に京都の伝統産業品を愛でたり、使っている様子をSNSで紹介。
特非)五節句文化アカデミア 理事

|おきにのうつわ
食空間コーディネーター 工芸品ディレクター|うつわ/清水焼/伝統産業