
開校して約30年。これまで3,000人を超える学生を輩出されてきた京都伝統工芸大学校(以下TASKと表記)。学生の皆さんはどのような環境、カリキュラムで勉強されているのでしょうか。大変ありがたいことに学校が全面的に協力してくださり、授業を見学させて頂きました。
カリキュラムの8割が実習
TASKのカリキュラムは実習が中心。もちろん工芸制作に必要なデザインや色彩についての座学、工芸の歴史や京都の文化などその分野に精通した専門家による講義、書道・華道・茶道といった教養の演習もありますが、大半は実習を通して工芸品制作の基礎技術を学ばれます。
コースは3つ。卒業後、職人として工房への就職や独立して活躍する「工芸コース」(2・3・4年の選択制)、学んだ技を存分に生かしセルフプロデュース力を身に付けたクリエイターをめざす「工芸クリエイターコース」(4年制)、文化財の修復の知識や技術を習得する「文化財コース」(4年制)があります。入学後、まずは10種類の専攻(陶芸、竹工芸、木工芸、木彫刻、仏像彫刻、金属工芸、漆工芸、蒔絵、和紙工芸、京手描友禅)の中から選択した技術を会得することから始められ、学年が上がってから各コースで研鑽を積みます。(文化財コースは漆工芸、木彫刻、蒔絵、仏像彫刻専攻の4種から選択)

(於:京都伝統工芸大学校)
竹工芸専攻
竹は古来より親しまれてきた素材です。並べた竹を組んで竹垣として使ったり、細く割って編んでカゴやザルなど日用品が作られたり、またその若芽であるタケノコは食用とされてきました。
TASKは全国でも数件しかない竹の加工を学べる学校として、竹工芸専攻は人気のコースだそう。4年間のカリキュラムのうち、1・2年生では、竹をそのまま活かして花瓶や茶道具を制作する「丸竹加工」と、竹を細く割って籤(ひご)にしたものを、様々な編み方を駆使して形づくる「編組(へんそ)」の技術と交互に学ばれています。
見学させてもらったのは2年生の丸竹加工の授業。お茶の場面で使われる竹結界の制作を先生の指導の下、取り組まれていました。

(於:京都伝統工芸大学校)

(於:京都伝統工芸大学校)
3年生以降はそれまでの実習を踏まえて自由に創作活動を行い、技術をさらに磨いていきます。畳敷きの部屋には各々の実習スペースを構え、自身の道具が収められたボックスと、竹工芸の加工にはかかせない丸太の作業台が置かれています。傍らには色々な太さの竹材がストックされていて、作成中の作品もあり、まるで竹工房が何軒も連なっているかのよう。ここからどんな作品が誕生していくのでしょうか。

(於:京都伝統工芸大学校)
和紙工芸専攻
京都府綾部市黒谷町周辺で受け継がれてきた、京都府の無形文化財「黒谷和紙」。その技術を元に和紙制作を学ぶことの出来る全国でも唯一の和紙工芸専攻です。
1年生は和紙の原料となるクワ科の落葉低木、楮(こうぞ)などを収穫、加工する行程から学びます。楮の外皮を削り、中から出てきた白皮を干して煮出し、繊維をたたいて細かくした後、水に溶かします。トロロアオイと言う植物から取り出した粘りの強い液体を混ぜて、手漉き和紙の材料を作る工程を学びます。簀桁(すげた)を使って、紙漉き技術を学ばれます。

(写真提供:京都伝統工芸大学校)
2年生は表面にしわを入れるもみ加工、染めなどの紙の加工技術や和紙製品の作成方法などを学習。和綴じを施した帳面「和式帳簿」制作の実習を見せていただきました。

(於:京都伝統工芸大学校)

(於:京都伝統工芸大学校)
先生から和紙を補強する方法、工程や和綴じの種類の説明がありましたが、すでに心得のある学生たちはすぐに課題に取りかかっていました。
私はその説明に出てきた「こんにゃく」に聞き間違いかと思い、学生への説明が終わられた先生に質問しました。すると、「はい、こんにゃくを使います」との答えが返ってきます。
詳しく聞くと、和式帳簿の表紙にする染められた和紙=染め紙の毛羽立ち防止、耐久・耐水性アップのために、粉状のこんにゃく芋をお湯に溶いて、和紙に塗るんだそう。これには大変驚きました。
和綴じの方法も基本を理解した後は、素材や綴じ方のアレンジは学生の自由だとおっしゃいます。早い段階から自由度の高い実習で、将来に向けての創作力を養われています。
3年生以降は和紙を使った商品開発やさらに高度な技術を体得していきます。大きな作品制作に向けて試行錯誤しながら準備を整え、卒業・修了制作展で皆さまに成果をお披露目されます。
手描友禅専攻
江戸時代に活躍した絵師、宮崎友禅斎を祖とする京都の手描友禅。紙に描かれた図案を青花(正式名称/オオボウシバナ)から抽出した染料でトレースし白生地に下絵を描きます。青い線の下絵に沿って糊置きをしてから染めると、模様の輪郭が染まらずに白く残る、「糸目」という京友禅の特徴である技法などを学びます。
友禅の制作は分業制。複数ある行程ごとの専門家によって作られることが多いのですが、TASKでは図案から、下絵、糊置き、挿友禅、金彩までトータルに制作できるスキルを身に付けることができます。それぞれの技法の専門講師から指導を受けて、始めの2年間は個々の工程をじっくり会得します。

(於:京都伝統工芸大学校)
3年生は応用に移り、訪問着制作に取りかかります。デザインから生地のセレクト、下絵、彩色とそれまで学ばれた技術を駆使しての制作となります。4年生は卒業・修了展の発表に向けて大作に挑みます。制作途中の様子を見学させていただきましたが、長い生地を使う振袖はもちろん、中には染められた生地でドレスを作成している学生もいらっしゃいました。
ある学生に「なぜ友禅を学ぼうと思われたのか」と問うと、元々ものづくりに興味があり、TASKのオープンキャンパスで友禅の体験をしたところ、“好き”を確信したんだそう。制作に取りかかっている作品のデザインを見せていただくと、従来は紙と鉛筆や筆を使って描かれている着物の図案を、タブレットを操りイラスト作成ソフトを使ってデザインする様子に、友禅制作の未来の姿を垣間見ることが出来ました。
こうした毎日の実習は単調にも見えるかも知れませんが、くり返しくり返し行われることで確実に技術は磨かれ、その成果は後に大きく花咲くことと思います。
次回は、作品の発表の場や、学校外の取り組みについて紹介します。
記事の内容について二本松学院 京都伝統工芸大学校の多大なるご協力を賜りました。

