都タクシー株式会社 代表取締役社長 筒井基好様編(KLK編集長吉川忠男の直球インタビューシリーズ)

京都にはいくつかの大手タクシー会社があります。四葉クローバーが幸運を運ぶといわれるヤサカタクシー、ハイヤー並の接客を誇るMKタクシー、そして京都の「都」を社名に冠した都タクシーです。FM京都の求人募集CMに自らが出演されている気さくな筒井社長に、KLK編集長の私が個人的に関心をもって取材を申し込みお受けいただきました。 

初っ端から、筒井流禅問答に悩まされる

筒井社長はインタビューの緒言で「京都が観光で沸いているのは、本当によいことなのでしょうか?」とおっしゃいました。でもこの言葉にはきっと裏があるはず。本当はウハウハなのだけど、それを言ってしまっては身も蓋もない。「あきまへんなあ、まぁぼちぼちいうとこちゃいますか?」という極めて京都人的な言い回しなのか、あるいはお客様(売上)に困ってはいないけれど、ドライバーの確保に難儀しているという現実的課題からなのか。しかしインタビューを通して、残念ながら私の先入観はどちらも見事に打ち砕かれてしまいました。

筒井社長の京都観光批判は続きます。
「永遠に飽きられない観光地はパリぐらいではないでしょうか。日本でそれが出来る可能性があるとするなら、常に新しいものを生み続けられる東京くらいでしょうか。京都がいつまで観光地として輝き続けられることやら。」 

さらにオーバーツーリズムへの批判は京都市民の生活への悪影響にも及びました。
「税金を払っている市民が市バスに乗れない(乗りにくい)とか、タクシーでも観光客へのサービスにばかり目が向いてしまって市民の利便性がおざなりになるのはどうかと思っています。」 

一方で観光ドライバーとしての京都のタクシードライバーの知見には高い評価をされていました。
「他府県のタクシー会社には『観光ドライバー』という専任職がいますが、京都のタクシー会社ではほとんどのドライバーが観光案内をすることができます。それも、かなり高いレベルでできる。これってすごいことなんですよ。」 

京都オーバーツーリズムを逆手にとって

筒井社長が私に仕掛けた罠(笑)をかいくぐって本音を探ろうと私は食い下がりました。
「昔はタクシードライバーだけが知っている穴場スポットやお店がありましたが、SNSの普及でそれもなくなりました。しかし点と点を繋いで効率よく廻るルートの提案や、そこで体験できる感動をドライバー自身の言葉で伝えられる(お客様にとっては教えてもらえる)という価値はSNSよりうちのドライバーに一日の長があると思っています。」 

「昭和の地方観光都市の栄枯盛衰を見た時に、SNSやDX化など時代の変化が昭和とは比べ物にならないくらいに速くなった昨今、京都も衰退しない保証はどこにもありません。常に新しい価値を創造しながら、人だから提供できる価値をデジタルに乗っかって実現する(DX化)、京都だから提供できること、交通事業者だから提供できることは何なのかを常に考えています。」
だんだん筒井社長のホンネが見えてきた気がします。 

AI、ITなどDX化によるスマート・ホスピタリティの実現

心が動く移動
ストレスフリーな移動

陣痛・子育てタクシーの取り組みについてのお話を伺った時に「儲からないけどやりがいはありますよ」と筒井社長の目が一瞬輝きました。このサービスは登録だけはしても実際の利用には至らない会員さんが多いといいます。

使ってもらえなくても、登録して安心してもらえればそれでよいのです。それで出産や子育てへのハードルがたとえ少しでも下がって『京都に暮らして子どもを育てたい』と思っていただける方が増えれば嬉しいです」

ここからは編集長の私見ですが、いざという時の不安を取り除いてくれて安心を提供してくれたタクシー会社のことは生涯忘れないのではないでしょうか。それが長い目で見た都タクシーのファンづくりに繋がっているような気がします。 

このサービスは利用者や登録者への安心の提供だけでなく、大きな目で見ればこの街の未来のために取り組んでくれているタクシー会社ということになります。ポリオワクチンの寄付を続けておられるお話でも同じことを感じました。都タクシーを利用することで乗客自身が遠い国の尊い命を救うことができる機会を提供してくれている会社ということになります。 


もうひとつ面白い視点のお話を筒井社長からお聞かせいただきました。EVタクシーについてです。EV(電気自動車)を導入しているタクシー会社は今や珍しくありません。新しいモノ好きのお客様がEV車に乗車されればドライバーにあれこれ聞いてこられることもあるでしょう。また修学旅行生が乗車することもあるでしょう。都タクシーではそれを「乗客への未来体験の提供機会」と位置づけているそうです。筒井社長のその視点をドライバーさんも共有されているならば、都タクシーのEV車は、乗車空間に未来型モビリティの姿を映す、さながら万博ブースと化しているのではないでしょうか。 

お話しが佳境に入ってきたところで思い切って、都タクシーさんが再建を手掛けられている福井と山口のタクシー会社に今後期待されることをお尋ねしました。たとえばオンライン配車、現地の旧経営陣は「この街でオンライン配車を使う人なんていないよ」と言うそうです。「しかしそれでもゼロではないはず。10%の人が使えばやがて20%、30%と増えていく。それが見えれば新しい事業展開も自ずと見えてくるはずです」と筒井社長は自信気に言い放たれました。

都タクシーが目指すもの

大企業ではない多くの地域企業にとって、社会貢献とは「自らの事業と並立共存できるもの」でないと持続性を保てません。その点において筒井社長のお考えは首尾一貫していました。観光地としての京都のポテンシャルも、観光客をもてなす京都のタクシードライバー全体の質も高い評価をされています。しかし時代の変化のスピードと変化の次元が昭和期とは決定的に違う中で、弛まぬ努力と工夫、そして新たな価値創造を続けないとあっという間に京都の街も交通事業者も置いてゆかれかねないと自らに警鐘を鳴らし、自問自答の格闘を続けておらているようにインタビュー全体を通して感じました。 

避けることはできないIT、AI、DX化の波。顧客の体験価値を上げるということは交通事業者だけでなくあらゆるBtoC企業に求められていることですが、IT、AI、DX化はタクシー業界にとって脅威にもチャンスにもなりうるものなのだと筒井社長のお話から感じました。京都が観光地としての輝きを失えば、タクシー業界にとってもダメージは大きいはず。だから決して筒井社長がそれを望んでおられるわけではないでしょう。しかし京都観光の魅力が衰えなかったとしても、AIや人工音声が乗客に観光案内を提供することは可能でしょうし、本格的な自動運転の時代になってウーバーやタクシーGOなどタクシー配車アプリが顧客と結びつけば、ドライバーもタクシー会社も不要になるかもしれません。しかしそこにも筒井社長の絶妙の一手がありました。 

京都におけるタクシーGOの展開には、都タクシーをはじめ地元のタクシー会社有志が運営や顧客開拓の協力をしているそうです。だから、タクシーGOが単独で京都のタクシー業界を席巻することはありえない。タクシーGOとは共存しながら京都のモビリティ未来地図を描いてゆけると筒井社長は自信気に語っておられたのが印象に残りました。 

タクシーが乗せているのは感情のない「モノ」ではなく、それぞれに時々の事情と感情がある「ヒト」だということを、一人のタクシー利用者として、また事業の規模は違えど同じ経営者の立場で考えさせられました。自虐的に京都を語りながらも、誰よりも京都を愛する京都人でもある筒井基好社長。その愛は京都の街に、京都に暮らす人に、世界の人にも及んでいます。そして時代の流れを読み取り抗うことなく、それを味方に取り入れる知見としたたかさ。その経営理念には京都の交通事業者としての三方よし(世間、顧客、自社)の哲学を見せていただいた気がいたします。ありがとうございました。

筒井社長(右)とKLK編集長吉川(左) 

編集長追記

月は常に地球に同じ面を見せている(月の裏側は見えない)といいます。もしかすると筒井社長は、社会や京都の街や業界に押し寄せる変化の荒波の構図の裏側を想像しながら、この街と自社のビジョンを描いてニッコリしておられるのかも…と思った次第です。 

都タクシーの逆接的未来設計図

「自動運転が来るから運転手の仕事がなくなる」と考えるのが一般の未来予測。 「自動運転が来るからこそ、選ばれる理由を人間に特化させる」と設計するのが筒井社長の思考。

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この記事を書いたライター

吉川 忠男のアバター 吉川 忠男 三若神輿会幹事長

 
三若神輿会幹事長として、八坂神社中御座の神輿の指揮を執る。
神様も、観る人も、担ぐ人も楽しめる神輿を理想とする。
知られざる京都を広く発信すべく「伝えたい京都、知りたい京都 kyotolove.kyoto」を主宰。編集長。
サンケイデザイン代表取締役。