【京のお地蔵さまシリーズ】
【Part1】お地蔵さまと京都の町の人々【Part2】お地蔵さまが3Dプリンタでレプリカに! ◀︎イマココ
【Part3】夏の風物詩「地蔵盆」は“京都をつなぐ無形文化遺産”
私が生まれ育って20代半ばまで住んでいたのは京都市左京区でした。
小学生の頃の私にとって町内の自慢の一つはお地蔵さまです。友だちの住む町内のお地蔵さまは石のお地蔵さまで小さな祠に安置されているのですが、私の町内のお地蔵さまは、立派なお堂の中におられます。大人であれば、4・5人はゆっくりと座ることができる広さのお堂です。地蔵盆になれば、お堂の扉を開けて前にゴザを敷いてたくさんの人がお参りできるようにされていました。ですから、お地蔵さまの大きさもなかなかのものでした。かすかな記憶では黒っぽいお地蔵さまであったようです。
ある日のことです。幼馴染から「隣組に住んでおられた○○さんがテレビに映らはるらしいよ」という情報が入ってきました。NHK「美の壺」NO.395「京の仏さま“あの世巡り”」という番組でした。早速、録画予約をして視聴することにしました。30分番組でしたが、そのおばさんの登場は最後の方でした。京都市左京区下鴨松ノ木町の地蔵堂でお地蔵さまにご詠歌をささげておられる様子が映ったのです。引っ越して以来40年間会っていなかったおばさんでしたが、すぐに分かりました。子どもの頃のおばさんのことが湧水のごとく蘇ってきました。お世話になったことはもちろんのこと、ヤンチャをして叱られたことも思い出されました。
ところが、すぐに私の興味は次に移ってしまったのです。私の誇りであったお地蔵さまの姿が映し出されることはなく、代わって1枚の写真パネルが映し出されたのです。実は、そのお地蔵さまは9世紀後半に制作されたもので、地蔵菩薩坐像としては右京区太秦の広隆寺講堂の木造地蔵菩薩坐像(貞観15<873>年以前の制作)に次いで2番目に古いものだったというのです。今から20年ほど前(1999年頃)の文化財調査で平安前期制作の一木彫像であることが分かり、2002年に京都市指定文化財に、2015年に重要文化財指定になり、以来、京都国立博物館で保管、展示されているというのです。
私の生まれ育った町内のお地蔵さまは重要文化財になったのです。誇らしい気持ちはさらに増していきました。
なお、 本木造地蔵菩薩坐像の基本情報は以下のとおりです。
主情報
名称…木造地蔵菩薩坐像員数…1躯
種別…彫刻
時代…平安時代
寸法…像高47.5cm
指定…3618
国宝・重文区分…重要文化財
指定年月日…平成27(2015)年9月4日
所在都道府県…京都府
所在地…京都市東山区茶屋町
保管施設名称…京都国立博物館
所有者名…新町地蔵保存会
管理団体・管理責任者名…京都市
解説文…
榧の一材よりほぼ全容を彫出した地蔵菩薩像。厚みと張りのある肉付け、重厚な表情、深く密に刻まれる翻波式衣文に平安前期彫刻の特徴をよく示しており、9世紀後半の製作と推定される。坐像の地蔵菩薩としては広隆寺講堂像に次ぐ古作である。
文化庁「国指定文化財等データベース」より
重要文化財ということが判明すれば、火災や盗難といったことからこのお地蔵さまを守りきれないため、京都国立博物館で保管、展示されるのは当然です。
さらに番組には続きがありました。地元の方々にとって長年信仰し続けてきた菩薩像が写真パネルだけというのでは、あまりに寂しいということから、本物そっくりのレプリカを作ろうということになったのです。京都国立博物館が3Dプリンタでレプリカをつくってくださったそうです。でき上がったお地蔵さまは本物と瓜二つ。今では、本物に代わって地蔵堂に安置され、これまでと同じように地域の人々の信仰を集めているとのことです。アンドロイド(人型ロボット)の観音さま(*)が仏の教えを説く時代ですから、3Dプリンタによるレプリカのお地蔵さまがあっても不思議はないですね。
*アンドロイド観音「マインダー」(高台寺 京都市東山区)
有名寺院で代々大切に祀られ多くの人々から信仰を集めてきた仏さまというのではなく、一地域の地蔵堂に安置されていた仏さまが、平安時代前期(9世紀の後半、つまり800年代後半)に制作されたものであり、1100年もの時を超えて今に至っているというのは驚異です。京都市左京区下鴨松ノ木町の地蔵堂は、世界文化遺産の一つである賀茂御祖神社(下鴨神社)のお膝元で古い土地柄ということも関係しているのでしょうか。
これほどの長い年月、大切に守り続けてこられた地元の方々の信仰心には脱帽です。皆さんの回りにも意外とこのようなお宝があるかもしれません。そんな期待を抱くことができるのが京都という町です。
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