夏の風物詩「地蔵盆」は“京都をつなぐ無形文化遺産”

【京のお地蔵さまシリーズ】

【Part1】お地蔵さまと京都の町の人々
【Part2】お地蔵さまが3Dプリンタでレプリカに!
【Part3】夏の風物詩「地蔵盆」は“京都をつなぐ無形文化遺産” ◀︎イマココ

 「地蔵盆」は、京都が発祥の地だといわれています。それが近畿地方に伝わったようです。しかし、全国的に行われている行事ではなく、東海や関東地方の方々にとっては馴染みの薄いもののようです。
さて、京都の「地蔵盆」とはどのようなものなのでしょう。
地域(町内)の安全を見守り、町内の大人たちや子どもたちを守ってくださっているお地蔵さまに対する感謝の気持ちを伝える行事が「「地蔵盆」」です。

わたしの町のお地蔵さま
普段は近くの寺院に預かっていただいています。

私の子どもの頃は、毎年8月23日と24日の二日間催されていました(現在は、8月20日前後の土曜日か日曜日、もしくはその両日に実施される町内が多いようです)。当時は2学期の始まりは9月1日からと決まっていたため、「長かった夏休みもあと1週間」と考えると、この行事は子どもにとって夏休み最後の大イベントであり、大いにはしゃいだものです。


 地域によって多少やり方は違っていますが、この行事は町内(自治会)をあげて取り組まれます。「地蔵盆」が近づくと町内の役員(世話役)や組長の皆さんが集まって実施案の検討を行います。実施案は、毎年新たなものというわけではなく、伝統的な取組を守りながら新しい考え方も取り入れていくというものです。プログラムの準備や当日の進行責任者も決めなくてはなりません。関連物品の手配もしなくてはなりません。福引の景品やおやつの品々も購入します。各家々用の福引券と子ども用の福引券がそれぞれ何枚必要なのかの調査もしなければなりません。子ども用ということで一括りにするのではなく、<幼児、小学校低・中・高学年の別、中学生>のように、学年や年齢も考えなくてはならないし、物によっては男女の好みも考えなくてはならないようで、事前調査もなかなか複雑になり大変です。次に、事前調査にもとづいて福引券やおやつ券を作成し、各家々にそれらを配ります。

お地蔵さまの塵や埃をお払いし、前掛けを新しいものに掛け替えて、きれいにお清めをします。お供え物や提灯なども準備します。お地蔵さまの祠前の公道を使う場合は、所轄の警察署に申請して許可を得なければなりません。
町内の世話役さん(自治会や町内会の役員の皆さん)や組長さん方がこれらの準備に費やされる時間と労力は相当なものです。


いよいよ当日です。早朝からお地蔵さまの祠前にテントが張られ、子どもの名前が書かれた提灯が吊るされます。各家々からはお供え物(多くはお供え金)が届けられます。このときには、すでに多くの子どもたちが集まってきて今か今かと開始を待っています。辺りは地域の子どもや大人で賑わってきます。

準備万端、整ったところで、町内の世話役さんに頼まれた子どもの代表が、代々受け継がれてきた骨董価値の高そうな鉦を打ち鳴らして町内を隈なく巡って始まりを告げます。中学校や高校の吹奏楽部による演奏、スイカ割り、かき氷、ヨーヨー釣り、福引きにおやつの配布などなど。何といっても「地蔵盆」のメインは「数珠まわし」です。子どもたちが3~5mの大きな数珠を囲んで輪になって座り、僧侶の読経に合わせて回すというものです。


町内によっては2日間取り組まれるところもあります。そうなれば、盆踊りやゲーム、歌合戦などのプログラムも用意されます。

立命館大学和太鼓クラブによる演奏
演奏の後、大太鼓と締太鼓をたたかせてもらいました。
京都市立紫野高等学校吹奏楽部による演奏
子どもたちに人気のある曲もたくさん聴かせてもらいました。
読経と数珠まわし
その後、法話も聴かせていただきました。

京都市で「地蔵盆」についてのアンケート調査をしたものがありますので、参考にご覧ください。

【参考】

自治会長、町内会長などを対象に実施した「「地蔵盆」」に関するアンケート調査(平成26年5月30日)
京都市文化市民局文化芸術都市推進室文化財保護課

 <お地蔵さんの有無>
○京都市内でお地蔵さんのある自治会・町内会………71.4%(うち、80.7%が「1か所」)
○お地蔵さんの個体数は「1体」…………………………… 62.7%(「3体以上」も18.2%)
○お地蔵さんのある自治会・町内会が多い行政区………東山区(90.9%)と上京区(84.4%)
○お地蔵さんのない自治会・町内会が多い行政区………西京区(54.1%)
○お地蔵さんの箇所数及び個体数が多い行政区…………左京区と東山区の自治会・町内会
○1ヶ所1体が多い行政区…………………………………………中京区である。

 <「地蔵盆」実施の有無>
○平成25年度に「地蔵盆」を行った自治会・町内会……… 78.8%(行わなかったのは20.3%)
○お地蔵さんがある自治会・町内会で「地蔵盆」を行っている……… 94.3%
○お地蔵さんがなくても「地蔵盆」を行った自治会・町内会
………お地蔵さんがない地域全体の36.8%

○寺に預けたり別の場所に保管したりしている…………80地域
 寺に預けたり別の場所に保管したりしている80地域のうち、
・「地蔵盆」をしたところ………87.5%
・しなかったところ…………………12.5%
○行政区別の「地蔵盆」実施
・行った町内会・自治会の多い行政区………東山区 (90.4%)、上京区(88.7%)
・行わなかったところが多い行政区………西京区(34.0%)、 伏見区(32.2%)

 <「地蔵盆」の開催日>
○盂蘭盆直後の日曜日である8月18日と、翌週の土日である24日・25日に集中………約30%

 <「地蔵盆」の場所と実施主体>
○「地蔵盆」を行った場所
 「地蔵堂の前」……………………38.9%
 「ガレージ等の空き地」………17.0%
 「道路上」……………………………10.6%
 「個人宅」……………………………22.8%
 「集会所・公園等」………………12.0%
○行政区別「地蔵盆」の場所と実施主体
 「地蔵堂の前」で行う………… 東山区(55.9%)
 「個人宅」で行う………上京区(36.6%) 中京区(34.7%)下京区 (32.2%)
とくに上京区と中京区は「地蔵堂の前」よりも多い。

 <「地蔵盆」の実施主体>
「自治会・町内会」…………………83.7%

  <「地蔵盆」の行事>
「お菓子配り」90.5% 「福引」67.5% 「一式飾り」59.4% 「僧侶の読経」52.1% 「数珠回し」42.5%  「お地蔵さんの化粧」36.6%

このように、「地蔵盆」は各町内会(自治会)における一大事業です。この事業に費やされる時間と労力は並みではありません。町内の世話役さんや組長さん方の人間的なふれあいも生まれてきます。また、子どもたちも幼児から小学校高学年まで10歳ほどの年齢の幅はありますが、年長の子どもは年少の子どもの面倒を見て、縦のつながりが形成されていきます。子ども同士が仲良くなると大人同士も話をするきっかけができ、顔見知りになっていきます。子どものいない世帯であっても、「地蔵盆」のさまざまなプログラムを通して絆が深まっていきます。「地蔵盆」は、まさに、お地蔵さまを核にした地域コミュニティづくりの絶好の機会だといえます。近所付き合いが希薄になってきたといわれて久しいですが、この「地蔵盆」の取組は、町内会(自治会)の人々のコミュニケーションづくりに大いに役立っているのです。
 そこで、京都市は2014(平成26)年11月20日、京都をつなぐ無形文化遺産制度による第3号として、「京の『地蔵盆』-地域と世代をつなぐまちの伝統行事」を選定しました。

<参考>
“京都をつなぐ無形文化遺産”「京の地蔵盆-地域と世代をつなぐまちの伝統行事」について

京都をつなぐ無形文化遺産

「無形文化遺産の保護に関する条約」(無形文化遺産保護条約)は、社会の大きな変化によって衰退し、さらには消滅する恐れがあると危惧された数多くの無形文化遺産の保護を目的として、2003年のユネスコ総会において採択されました。
この条約によって、世界遺産条約が対象としてきた有形の文化遺産に加え無形文化遺産についても国際的保護を推進する枠組みが整ったことになります。我が国も、策定段階から積極的に関わってきたこともあって、翌2004年にこの条約を締結しました。
 歌舞伎や人形浄瑠璃文楽、能楽、雅楽、アイヌ古式舞踊、絹織物の製造技術として結城紬、和食、和紙などが登録されています。
もちろん、京都には暮らしの中で伝えられてきた数多くの無形文化遺産があります。しかし、それらの中には、定義や概念、保存団体が不明確であることから、現行の法令上、文化財としての指定・登録が困難なものもあります。そこで、それらの価値を再発見、再認識し、内外に魅力を発信するとともに、大切に引き継いでいこうという気運を盛り上げるため、文化芸術都市・京都として、無形文化遺産を守る独自の仕組み“京都をつなぐ無形文化遺産”制度が2013(平成25)年4月に創設されました。
 はじめに選定されたのが「京の食文化」でした。つづいて「京・花街の文化」「京の『地蔵盆』」「京のきもの文化」「京の菓子文化」「京の年中行事」が選定されています。

【京のお地蔵さまシリーズ】

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この記事を書いたライター

 
1952(昭和27)年 京都市生まれ
京都市北区在住
京都教育大学同窓会副会長

|京都教育大学同窓会副会長|桜/賀茂川/加茂街道/地蔵盆/お地蔵様