お菓子屋さんとお餅屋さん
まず、和菓子屋さんというても、三種類ある。一つは、上生菓子を扱う『上菓子屋さん』。御菓子司とか菓匠とか、単に和菓子屋さんという場合もあるけど、濃茶のお菓子をつくるお店だ。
茶人にはお気に入りのお店があって、お茶会を開く時期やテーマに合わせて上生菓子を創作してもらう。また、京都では改まった茶事だけでなく、カジュアルなお茶会やお茶席もたんとあるので、そういう席では薄茶にも上生菓子が供される。
先日、区役所の屋上庭園で開かれた区民茶会には、こんなお菓子が出された。元号が変わったばかりなので、銘は「令和」。花弁が16枚で、めでたさを象徴する金箔があしらわれていた。
二つ目は、関東では下ネタにされることもある『おまん屋さん』。やや改まったおもてなしやお土産の和菓子を商うお店だ。なお、上菓子屋さんとおまん屋さんははっきり区分されているわけでなく、どちらの品も扱うているとこが多い。
そして三つ目は、仏前に供えるおけそくさん(小餅のこと)やお赤飯を商う『お餅屋さん』。普段よく食べるおはぎ・桜餅・団子などが並ぶ、庶民にとって最もなじみのあるお菓子屋さんで、○○餅というような屋号を掲げる店も少のうない。近年はなんでもスーパーで済ますことが多いけど、こういうお菓子だけはお餅屋さんで購入するのが京都人である。
柏餅の中身は…
さて、端午の節句には柏餅と粽を食べる。もともと京都では、中国の故事になろうて宮中に献上された笹巻きの餅=粽から、厄除けの意味も込めて粽を食していた。後年、武家社会になって江戸で生まれた風習が広がり、柏餅も食べられるようになったのである。
柏の葉は次代の若葉が出てくるまで、古い葉が枯れ落ちないでついている。そこから家が代々続く、跡継ぎが絶えないという縁起物として柏餅を食べるようになったのだ。「柏」という字は本来、違う植物を表す字やとか、西日本ではサルトリイバラの葉を用いていたとか、柏餅にまつわる話はなんぼでもあるけど、今回ははしょらせていただく。
で、京都における柏餅の特徴的なんは、中身。通常はこしあん、「いろいろあります」と書いてあっても他府県では粒あんとか、餅がよもぎとかそういう変化を見せるけど、京都の場合は中身が味噌あんなのだ。
パクッとかじると、中には薄ベージュのあんが入っている。白味噌を混ぜたあんこ。白味噌自体も京都ならではの味噌であり、柏餅の中身まで白味噌というのは、お正月の葩餅(はなびらもち)に由来するそうだ。昔は砂糖が貴重やったので、甘みのある白味噌を包んだらしい。甘からい(関西では、刺激的な辛さも塩っぱさも「からい」である)味噌あんと柏葉の風味が相まって、甘いものを好まない大人でも美味しく食べられる。「中に味噌が入っている」と言うと、顔をしかめる他府県民もいるけど、そういうときは「ふふん、お子ちゃま舌やな」と思う。
三角のういろう「水無月」
そして、他府県の人に京都の食文化を話すとき、一番「知らない、食べたことない」と言われるのが水無月だ。6月の旧暦名でもある水無月は、三角形に切ったういろうである。本来は6月最後の日「夏越の祓」で、半年の厄を祓い、あと半年を無病息災で過ごせるようにとの願いを込めて食するお菓子なのだ。
室町時代ごろ、宮中では旧暦6月1日に氷を食べて、過酷な夏の暑気払いをする風習があったそう。当日は、京都の北部で冬期に作った氷を御所へ運び、やんごとなきお方が涼をとったとのこと。街中まで運ぶうちに氷はどんどん溶けてくるので、その年の氷の大きさで農作物の豊凶を占うたとも伝えられる。余談やけど、氷を作って保存していた場所は、氷室(ひむろ)という地名になっている。
当時、氷なんて庶民の口には入らん超贅沢品。ならばせめて、雰囲気だけでも味わいたいと、氷に似せたお菓子を食べたのが水無月の起こりなのだ。そう、あの三角は氷を表している。そして鱗紋にも魔除けの力があるので、相乗効果を狙うたんかも。
ちなみに小豆をのせているのは、昔の人は黒いものには魔除けの力があるとし、小豆=黒いものをあしろうた。一説には氷についていた小石を模したとも言われるが。私はこっちの説のほうが、お茶目で好きやけどね。